第9話 女神モードとオオグモその後

「明日から一週間程度、休息日にしましょう。各自自由行動でいいわよ」


体を休め万全の体調を作るのも冒険者の務めだ。さらに通常は武器の手入れも必要だが私に関してはエンチャント魔法が効きすぎているので武器の損傷はなかった。


とりあえずこの休みにやりたいと思っているのは女神モードを自分の意志で発動できるようにすることとエクストラヒールの魔法を身に着けることだ。


通常状態で強化されているとはいえ、同年代のキュレネやムートよりも弱い、それにオオグモにやられそうになった。万が一のために女神モードや回復魔法を扱えるようにしておかなければ危険だと思う。


女神モードについては、この前の2回目の発動で、発動条件をほぼ確信したつもりだったので、町までの帰り途中にこっそり試そうとしていたのだが発動できていない。


発動条件はおそらく、本当に切羽詰まった時ぐらいの状態で相手を定めず『助けてほしい』ことを強く願うことだと思うのだが、本当に切羽詰まるまでの状態にならないからなのかうまくいかなかった。さすがに宿の中で女神モードの発動は気が引けるので町の外に出て試そうと考えているところだ。


とはいってもかなりハードな生活をしていたので2-3日はゆっくりしよう。


2日目の午後には冒険者ギルドよりオオグモの絵が出来上がったということで確認に行ったが、それ以外はほぼ宿でだらだら過ごしていた。


3日目、外に出ていたキュレネが戻って来ると

「はい、ティア、基本の魔法書。これ、魔法学校の学生が写本したものの中でも低級なものらしいから結構不備があると思うけどそのつもりで使って。魔法を使いたいのなら毎日少しずつでも練習したほうがいいわよ」


「ありがとう」

そういえば、魔法書買ってくれるって言ってたっけ。そろそろ暇に感じるようになってきたし明日は外に出ようかな。


「とりあえず、水は出せるから次は火魔法がいいかしら。外で生活することが多いから、水と火が使えればかなり便利ね。とおもったけど火魔法の前に回復魔法を覚えたほうがいいわ。火魔法を練習する時にやけどするから、回復できたほうがいいわ」


「火魔法を練習するいい場所ある?」


「この町の西側の岩場周辺かしら?その前に回復魔法を覚えたほうがいいわよ」


「あーはいはい、ありがとう」

わかってはいるけど本当は女神モードの練習場所として使いたいのよ。



ということで次の日のお昼に西側の岩場までやってきた。周りから見えないようなところで早速女神モードを試す。


本気でお願いする


『助けて』


女神モードへ移行、全身の力がみなぎる。


えっ、いきなり成功?今までと何が違うの?

成功したことに驚き、女神モード状態で何もできずに時間切れ終了。


あー、何にもできなかったよ。

でも、女神モードになる方法合ってたよ。


よし、もう一回。

『助けて』


あれ、何にも起こらないよ。さっきと何が違うの?

その後何度やっても女神モードに移行することはなかった。


しょうがないから回復魔法の練習をしよう。練習するのは大聖女が使ったとされる幻の回復魔法『エクストラヒール』のオリジナル。誰も使えないと言われていたけど、なぜか私には使えそうな気がするのだ。さらにいうなれば基本の魔法書に載っている普通の『ヒール』よりも私には簡単に思える。


『エクストラヒール』だけど普段は通常の『ヒール』っぽく使いたいから効果のコントロールは必須よね。掛け声も「ヒール」って言いながら使おう。


右手を開いて

「ヒール」


右手が緑色の光で輝きだす。

できたよね??出力の調整はまだ全然だけど何かの魔法は発動している。


これ、けが人とかいないと効果わかんないじゃん。

一人で突っ込みを入れてみる。


そういえばキュレネが火魔法使うとやけどするって言ってたっけ、やけどは嫌だけどやけどしたら治せるかも検証しておくか。


えーと火魔法は、この魔法陣か、よしやってみよう


「ファイヤー」


一瞬、ライターぐらいの小さな火が付いて消えたような気がする。

成功ね。


もうちょっと大きな炎出したいよ。

「ファイヤー」


今度はバスケットボールぐらいの大きさの炎が出てすぐ消えた。というよりもびっくりして魔法の継続ができなかった。


夕方まで練習して帰る。結局、火の魔法の出力調整が難しく、ほぼ調整の練習になってしまった。ちゃんとした攻撃魔法を扱えるようになるまで相当時間がかかりそうだ。結局やけどはしなかったので『エクストラヒール』の効果も確認できなかった。

うーん、先は長いな。


次の日、朝から岩場に来た。先ずは女神モードを試してみる。


しかし、発動しない。


うーん、昨日の発動は何だったんだろう??


気を取り直して、火魔法の練習をする。と言っても、単に練習だけだと飽きてしまうので今日の昼食を魔法で調理してみようと思って食材を用意してきた。水もお湯も出せるし、火も何とか使えるのでキャンプ気分でアウトドア料理にチャレンジだ。

とは言っても、簡単なスープを作るのとパンを焼くぐらい。

魔法の練習も兼ねているので火は全部魔法。火力は安定しないが、料理の出来が左右されるので普段よりも集中力が長続きする。結構いい練習方法かも。


うーん、やっぱり熱々を外で食べるのっていいよね。


一息ついたところで女神モードの練習。

心の中で『助けて』と叫ぶ。

あっさり女神モードへ移行。


今度は女神モードが解除される前になんとなく頭に浮かんだ言葉とともに剣をふるう。


「ゴッドスラッシュ」

その瞬間、轟音とともに剣先の軌道の延長線上50メートルぐらい先の岩場を切り裂く。


あっぶな、近くに人がいなくて良かったよ。誰か来るとまずいから今日のところは撤収しよう。実戦で使ったときに魔物が暴れるよりも大きな被害が出そうだよ。威力のコントロールをできるようにならないと......


その後、3日間同じような行動を繰り返してわかったことは、女神モードは一日に一度しか使えないということだ。正確に言うと、一度使った後、丸一日以上の時間が経過しないと発動できない。いざという時には助かるが、いつ使うかの判断が結構難しいかもしれない。ちなみに女神モード中に状況に応じて頭に浮かぶ『ゴッド***』という技を使わなくても普通に剣を振るだけで岩をスパスパ切れるぐらいには強かった。


それから、女神モード時の体感時間は10秒程度だが実際の時間はおそらく0.1秒もないということもわかってきた。つまりほんのわずかな時間だけ通常より100倍以上速く動けるという感じのようだ。



今日も魔法を使って調理する。昼食が終わった後に女神モードが使えるようになるけど今日はどうしようかな、結構この辺の岩とか破壊しちゃったからなぁ。


「お嬢ちゃん」


「うひゃー」

突然後ろから声をかけられ驚いてしまった。


「おーすまんすまん、驚かしちゃったか?」

そういえば、魔法と女神モードのことばっかり考えてまわりの警戒をしていなかった。


振り向くと初老でやせ型の冒険者風のおじさんが立っていた。


「こんなところで何やってんだ?」


「ちょっと魔法の練習を」


おじさんはちらっと私の「基本の魔法書」を見る

「魔法学校の学生さんかね?」


「いえ、冒険者です」


「そうか、独学か色々大変そうだなぁ。ところで、最近この辺で岩が変な崩れ方をしているっていう情報があったからちょっと見に来たんだ。何か知らないかい?」


ギク


「岩の崩れ方と言われてもよくわからないです」


「まあそうかもな」


「さっき、魔法での料理の火加減苦労してたよな」

えっ?見られてたんだ。


「お嬢ちゃんが使ってた火の魔法。あれ、普通はもっと大きい炎を出す魔法なの。だから、あんな小さな炎で鍋を温めるのって難しかっただろ。そこでちょっとアドバイスだ。普通は、手のひらに魔法陣を発現させるイメージで魔力を込めるんだが、小さい魔法を使いたいときは指先に魔法陣を発現させるイメージで魔力を込めるんだ。まあ普通は、用途に合った魔法陣を使うんだがな。じゃあな、暗くなる前に帰れよ」

と言って帰っていった


ただの親切なおじさん?それとも何か探りに来てた?

気配もなく近づいてくるし何か違和感を感じるんだけど何だったんだろう。


まあいいや、指先に集中して魔法を使ってみる。本当だ、小さい炎のコントロールがすごい楽。でも、本当に使いたいのは高威力の攻撃魔法なんだけど......


休みも終わり冒険者の活動を再開だ。

昨日の夕方冒険者ギルドからのオオグモの件で連絡があり、今日は朝から冒険者ギルドを訪問する。


応接室へ案内され中へ入るとギルドマスターのアルベルトさんと受付課長のセリシャさんが待っていた。


「おお来たか、まあ座れ。オオグモの件とその他にも話がある」

と言われた後お茶が出てきた。

話が長くなるのかな?


先ずはオオグモの件だな。

「このオオグモはかつてギガスアラーネと呼ばれていた魔物と判明した。新種ではなかったが冒険者ギルドには登録がなかった。少なくとも、ここ200年は討伐の記録がないのでおそらく絶滅種扱いだったのだろう。この前の魔石や過去の資料から新たにBランクの魔物として登録した。」


「そこで報酬の話なのだが」

と言った後、ギルドマスターはセリシャさんに合図を送る

「Bランク魔物討伐の報酬100万サクル。それと情報提供料を50万サクル用意しました。合わせて150万サクルとさせていただきます」


「はい、ありがとうございます」

キュレネがすぐ答えたところを見ると妥当な金額ってことかな。


「なお、この件で1500ギルドポイントを獲得し、パーティの合計ポイントが3010になりました。一人1000ギルドポイントをクリアしましたので皆さんCランク昇格になります。おめでとうございます」


「ありがとうございます」

3人とも笑顔で喜んだ。


「Bランクへの昇格は一人1万ギルドポイント必要になります。残りは3人で約2万7千ポイントになります。頑張ってくださいね」

うわー先は長いね



「良しここから次の件だ」


「セリシャすまんがバーン達を呼んでくれるか?」


直ぐに5人が部屋に入ってくる。男性3人女性2人だ。


「ギルドからの依頼で未確認の魔物を調査していたのがこのパーティ『銅の花』だ。


「Bランクパーティ銅の花リーダーのバーンだ」

がっしりした剣士の男性が挨拶をし、続いて副リーダーの魔法士の女性ヒルデ、スキンヘッドの大男アーサーが名乗る。この3人がBランクで歳はおそらく30代。魔法士の男性シュート、剣士の女性シュンカの二人がCランクで歳は20代という感じかな。皆、銅でできた花形のバッジを胸に着けている。


こちらがギガスアラーネを討伐したCランクパーティクラーレットの奇跡

と紹介されそれぞれ名乗る。


「ずいぶん若いな。まあいいか......

ギルドマスターからお前たちにオオグモの件の調査でこれまでにわかったことを話せと言われたんだけどな。正直なところあんまりわかっていることはないんだ済まねえな。元々、正体不明の魔物がいるって噂が広まって、ギルドから調査依頼を受けたんだが目撃者や襲われたというものからの情報で蜘蛛の魔物なんじゃねえかと見当をつけて調べていたところで嬢ちゃんたちが討伐してきたからな、噂の主はあのオオグモで間違いないと思う。ただし、オオグモは討伐された1体だけではなく、おそらく複数体存在している。ほぼ同日同時刻の離れた場所での目撃情報もあったからな。

でな、調べていた蜘蛛の魔物の古い魔物の資料の中にたまたま嬢ちゃんたちが討伐したやつと特徴が一致するものがあってな。ギガスアラーネと判明したんだ。


と言って資料の写しを出してきた。ほんとだ間違いなさそう。


資料を見ていると生息地はダンジョンとある。


「ダンジョン?」


「ダンジョンとはな、地下に複雑に入り組んだ通路や部屋のような場所がある地下迷宮のことで、自然にできたような部分と人工的に作られたような部分のある謎の構造物だ。一般的に魔物の生息地になっていて、まれにアーティファクトと呼ばれる神々の道具が見つかる場所出もあることから神々が作った場所ではないかという噂もある」


キュレネも同じところが気になったのか質問する


「このセプバーロ大森林にダンジョンがあるのですか?」


「いや、冒険者ギルドとして確認できているものはない」

ギルドマスターが否定したが


バーンさんは存在の可能性を示唆する

「俺は、噂としては聞いたことがある。セプバーロ大森林周辺の古くからある村でそんないい伝えがあるとかないとか」


「オオグモの目撃情報をたどっていけば、ダンジョンが見つかるのでは?」


「ん?どういうことだ?」


「オオグモがダンジョンに生息しているなら、地上で見つかるのは、そこから出てきたもの。つまり、頻繁に目撃される所があればその近くにダンジョンがある可能性がある考えました」

キュレネって頭の回転が速い。


「なるほど調べてみる価値はありそうだな」


セプバーロ大森林の地図をだし、私たちの遭遇場所も含め、今までの情報を

地図上に示す。


「これだけじゃ全然絞り込めないな。よし、冒険者ギルドで報酬を出して1か月間目撃情報収集をすることにする。銅の花は引き続き情報収集の手伝いを願いをしたい。クラーレットには別件で依頼が来ているので先にそちらをお願いしたい」


えっ?


「ところでクラーレットのメンバーで地下探索魔法を使えるものはいるか?」


「私が使えます」

とキュレネが返事をする


「おー、それはありがたい。この辺りじゃ銅の花のヒルデぐらいしか使い手がいなかったからな。では、情報がそろったところで銅の花とクラーレットの奇跡にダンジョンを見つけてもらう依頼を出すのでよろしくお願いしたい」


「了解だ」

「承知しました」


よし打ち合わせ終了だ。


「すまないがクラーレットの奇跡は残ってくれ」


まだなんかあるんだっけ?長いな。


銅の花と受付課長のセリシャさんが出て行ってしばらくしてから指名依頼担当のエステバンさんが入ってきた。


「皆さんに精霊教会からの指名依頼が入りました」


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