開幕の雪ん娘ウォーズ【後編】
「……で、ああなったと」
中庭の半分が雪に埋もれていた。
南校舎一階の窓がみっちりと雪で塞がれている。
小春と雪音先輩は現行犯として職員室で、ゲーム制作部顧問の立花先生から事情聴取を受けていた。
雪音先輩がゆっくり右手を上げる。
「立花先生。発言をよろしいでしょうか?」
「却下だ問題児一号。まず情報を整理させろ。順を追わないとお前らから飛び出す発言は刺激が強すぎる」
「…………はい」
シュンと右手が下ろされる。
立花先生はとても頭が痛そうに、職員室の外に集まっている生徒たちを見ている。
観衆は二人を心配しているわけではない。
全員が関係者なのだ。
だから頭が痛い。
「私だってな。たまには『いい歳して雪合戦で問題起こすな。もう高校生だろ。落ち着きを持て』みたいな真っ当な説教をしたいんだよ。わかるか問題視一号二号」
「……ボクまで二号呼ばわり」
「城崎。古織里と対等にやり合える時点でお前はまともじゃない。自覚しろ。そして自重しろ。城崎ならできるはずだ。先生はその可能性にかけている」
「はい……雪音先輩と同レベルの扱いはかなりショックです」
「どういうこと!?」
言葉通りの意味だった。
立花先生が大きくため息を吐く。
「話を戻すが……二人で雪合戦を始めたきっかけは理解した。いや正直理解できていないんだけど、要するに今度制作するゲームの主人公の性別で揉めたわけだな」
「「はい」」
「それがどうして西軍東軍のぶつかり合う総勢百人以上参戦の一大合戦イベントになったんだ?」
小春と雪音先輩は顔を合わせて首を傾げる。
なぜと言われても雪合戦だからとしか言いようがない。
「それは合戦だし」
「まずは武将を揃えるところからスタートですよね」
「雪玉補給部隊は多ければ多いほどいい」
「兵站を制すモノが戦を制すといいますから」
「あとは情報戦も大事」
「互いが学園内のどこかに作った雪像を破壊し合う勝負です。どうせ位置は隠し切れないだろうから欺瞞作戦が基本ですよね」
「動員数が多いから調略で相手軍から引き抜くのは当然として」
「引き抜かれることを前提にあらかじめ嘘の雪像の位置を友軍内で共有しておくのも基本戦術ですし」
「ストップ……ストップだ!」
聞かれたから答えたのに立花先生が頭を押さえながら項垂れていた。
「最初から私の知ってる雪合戦と違う! まず野望感覚で人材を揃えるなゲーム開発部! 雪合戦に兵站の概念とかないんだよ! そこら中に雪があるから開始されるのが雪合戦だ! あと情報戦もいらなければ、仲間にまで偽情報をばら撒いて欺瞞作戦が基本とかどこの世界線! もっと人を信じろ! 裏切られることを前提に行動するな! お前ら二人の過去になにがあったんだよ! 高校生なんだから年相応の子供らしさを取り戻せ!」
大体は理不尽な戦国シミュレーションゲームのせいだったりする。
裏切りは付きものなのだ。
「あと全員スマホを持っているからと、カメラ起動して偵察したり、SNSで即時情報交換したり、お前ら近代戦の申し子かなにかか?」
「やっぱりリアルタイムのライブ映像に勝る信用性はないですからね」
「今回の雪合戦は突発的ですし、事前に偽情報の映像を仕込んでおくことができないからそこは安心できました。」
「怖いわ! 今の子供の発想の豊かさが怖い! お前ら二人が特殊だとしても、そこまで読み合うお前らの命令を遂行できる生徒がこの学校に百名以上いるのが怖い!」
小春と雪音先輩は目をパチクリさせた。
なにを言われているのか理解できない。
「まあいい。よくないけどいい。それで本題に入るがあの中庭の雪山はなんだ?」
「あれは……その」
「雪音先輩が錬成した呪われし雪像ゴーレムです」
「ちょっと小春!? 私はなにも呪ってないし、錬金術師でもな――」
「――大体わかった。それはお前の想定が甘いぞ城崎。なぜ古織里に雪像をデザインさせた? ジャンルがホラーになるだろ? 古織里は文化祭のお化け屋敷を呪◯廻戦にできる特◯呪霊だぞ」
「特級◯霊扱い!? 錬金術師でもなければ呪術師側ですらない!」
「……申し訳ありません。絵じゃないから大丈夫とタカをくくってました。まさかぶつけた雪玉を吸収し、力を蓄えて巨大化した挙げ句、動きだすゴーレムを生み出すとは。雪音先輩がデザインした雪像なので想定できたことですよね」
「想定可能な範囲内!?」
それが中庭が雪に埋まった理由だった。
「そんなモノどうやって倒したんだ? 中庭に雪玉を連投するガトリング砲があったが?」
「えーと……あれは……あまり役に立たなくて」
「あれは小春が違法改造したソフトボール部のピッチングマシンですよ立花先生。雪玉さえ供給すれば百マイルの雪玉を放ち続ける近代兵器を雪合戦に持ち込むなんてズルくないですか?」
「違法改造じゃないですから! アレはソフトボール部から守備練習用にピッチングマシンをノックマシンに改造できないか正規の依頼があって!?」
「ソフトボール部から依頼があろうと違法改造は違法改造だ城崎。勝手に改造するな。女子高生が改造スキルを持つな。パ◯プロの住人かお前は」
「……申し訳ありません。二頭身の世界は遠慮します」
小春は機械いじりが得意なのだ。
そういう問題ではないが。
「それでどうやって倒したんだ?」
「……調理室から塩を拝借して、家が神社の神崎さんにお清めしてもらったうえで雪玉に込めて、ガトリングしました。オカルトと科学両方からのアプローチです。功を奏して除霊に成功しました」
「一介の女子高生が除霊に成功するな。オカルトと科学両方からアプローチするな。あと塩害。環境にも心にも優しくないんだよ。あとで園芸部と調理部に頭下げに行かないと」
情報の整理はできた。
怪我人なし。校舎の倒壊なし。違法改造あり。中庭に塩害の疑いあり。
参加した生徒アンケートは面白かったと良好で、ゲーム制作部のデバッグ要員はまた増えた。
「雪音ハザードが発生したのにトータルで見ると大きな被害はなしか。中庭の塩害のみ。小春よくやった。お前やればできる子だ。それで勝負の行方はどうなったんだ?」
「雪音先輩の雪像ゴーレム破壊と私の雪像が壊されるのがほぼ同時でした」
「小春の作った私モデルの等身大の雪像を壊すの誰も手伝ってくれなかったんです。あまりに綺麗に作れているので壊すのがもったいないって。そのせいで破壊に時間がかかりました」
「勝負は引き分け。結局間を取ることになりました」
「間?」
「「性別を設けずタイプAタイプBの2パターン作ろうかと」」
「……そうか。変なポリコレに配慮せず性別設けて、普通に男女主人公でいいんだぞ」
こうして雪ん娘ファンタジアの制作は開始されることなる。
霜白女学園ゲーム制作部はいつも通り平和だった。
雪ん娘ファンタジア〜雪音先輩と二人で紡ぐゲーム制作〜 めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定 @megusuri
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