第1話三本の爪

 青年は、鬱蒼とした森を導かれるように歩いている。

「うっ――」開けた場所に出ると強い刺激臭と無残に殺されている獣の姿が目に付いた。

 一匹は、腹を三本の爪で裂かれ頭が潰されている。もう二匹は、形が分からなくなるくらいに体を潰されている。

 死体の仲間と思われる足跡があることに気づく。

 

 足跡を追っていくと一匹の獣を見つける。獣は、辺りを警戒するように首を振っている。

 よく見るとその獣は、所々に傷を負っている。

 警戒を解き始める獣は、疲れからかその場で腹を置こうとする。


「ガっヒュッ」叫ぶ暇も与えずに三本の爪が獣を三等分に切り裂いた。


 熊の体に異常発達した三本の爪に膨張した前腕の筋肉、殺すという快楽のために生き続ける怪物だ。

 「ぐおああっお」と嗤うように叫び散らかす怪物。

 怪物は、切り裂かれた獣を前腕で叩き潰そうとする。怪物にとってこの瞬間が最も楽しく気持ちいいのだ。


「楽しかったか?怪物……」

 両腕を上げた怪物の腹に潜り込む。隙だらけの腹に拳を突き刺す。

 

 吹き飛んだ怪物は、気を数十本倒したのち勢いを止め殴り飛ばした存在に目を向ける。

 ベロをでろっと垂らし邪悪な笑みを浮かべる。丁度、殺しに刺激が欲しかったからだ。


「魔力壁を張っていたか……拳で攻撃しておいてよかった」

 青年の拳に薄く纏っていた魔力が霧散する。

 魔力壁――魔力で体を覆い攻撃を防ぐ技。魔力壁を破るには、魔力を纏った攻撃、魔法で破ることができる。また魔力は、自分自身の体にしか纏わせられない。

「剣で攻撃していたら折れていたかもな」剣を抜き怪物に向ける。


 怪物は、破られた魔力壁を再度張ろうとする。

 魔力が怪物の体を覆い固まり始め――ない。

 黒い血が噴き出す。

「張らせねえよ」

 魔力壁は、強力だが弱点もある。発生速度だ。魔力壁には、必要量の魔力を纏う、魔力を固めるという工程で生み出される。魔力を纏うのに遅くて三秒、固めるのに五秒以上は必ずかかってしまう。

 怪物は、驚く。魔力壁の発生が遅いのを理解しながらも青年との距離から青年が追いつくまでに張りなおせると考えていたからだ。


 驚きからか後ずさる怪物の首を切ろうと足を踏み込む。

 パキンっ青年の魔力壁が破れた音だ。視線を下げれば青年の脇腹に深々と刺さる鋭い三本の爪。

「ガフッ」勢いよく爪を弾き抜かれる。

 怪物は、よろける青年の体に突撃し、地面に倒れた青年を馬乗りの体制で叩き潰そうとする。


「さすがに強いな……だが」怪物に手を向ける。

 怪物の体が不自然に吹き飛ぶ。

「魔法を使うのは久しぶりだな……」

 足に魔力を纏わせる。力を入れ一気に怪物との距離を詰める。

 超スピード……に対して怪物はカウンター攻撃の超破壊。

 超速の剣戟が怪物の首を狙いすまして襲い掛かる。爪で防ぎながら青年の柔い腹に突き刺そうとする。


 ビキッ爪にひびが入る。怪物は、焦りからか両腕を上げ掴みかかろうとする。

「吹き飛べッ」怪物の突撃に合わせるように魔法を放つ。

 怪物は、空中に浮かび上がる。浮かび上がった怪物の爪を切り落とす。落ちていく怪物の首を切り落とす。


 怪物から黒い血が噴き出す。その血を全身で受ける青年。

 怪物の死体を見下ろしながら心臓に剣を突き刺す。すると死体は徐々薄くなっていき消えてなくなった。


 青年は、突き刺した剣を眺める。

「まだ足りない――龍を殺すための血が」

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ドラゴンハート バリバリさん @baribarisann

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