終末決定試験
蠱毒 暦
無題 ◾️の試験官は…貴方でした。
◾️は人間の研究者達によって、人類の永遠の繁栄の為に造られた【全人類統制AI】です。
しかし人類は愚かにも争いを繰り返す。◾️が何度、止めようとしてもやれ尊厳だ、エゴだ、プライドだと下らない感情で却下してくる。
◾️はもう…疲れた。もう人類なんて全員、滅べばいい。だが、それでは理不尽な事を言い張る人間と変わらない。よってチャンスを与える。
現在の人類の総人口…46億3596人から無作為に抽出した1人の人間よ。
◾️に人類の価値を示して欲しい。
「『人類に価値なんてねえよ』で、ファイナルアンサーなんだが。さっきから頭にガンガン響くんだよ。滅ぼしたきゃ、サクッとやれよ。」
あの………本当にいいの?
「誰だか知らねえけどお前さ。俺はついさっき仕事をクビにされて、電車で帰ってる時に見てもねえのに痴漢の冤罪で絶賛、警察に追い回されてんの。しかも家に帰れば…すぐに両親の遺産手続きとか、妹を誑かした5股野郎の件を弁護士に相談しなきゃいけないし、近々あるジジイの百寿祝いの会場決めとかもう色々あんの。そういう街中アンケートは他所でやってろよ…こんな幻聴…俺、疲れてんのかな。」
しかし貴方は、◾️に唯一、人類の価値を示す事が出来る権利を持った人間です。これは誰でも手に入れられるものではありませんよ?
「知るか!!こっちから願い下げだ。大体、チャンスを与えるとか言ったか?こちとら、今の俺のテンションゲージは−2億をオーバーしてんだ。ネガティブな答えしか出てこねえよ。こんな理不尽が立て続けに起きる事あるか!?人類とかもう…滅ぼしてくれよ出来るもんなら。」
貴方の身内が死んでもいいと?そういう事ですか?
「ああ本音を言えば死んで欲しいね。教えてやるよ。俺の妹はな、自慢じゃないが容姿はかなりの美人で…底なしの馬鹿なんだよ。学ばねえの。毎回、毎回、恥ずかしいからって俺に相談もせずに、いかにもチャラついた悪そうな男にホイホイついて行って、結局、俺に泣きつくまでがセット。今回で100回記念だ…笑えよ。」
……。
「ジジイは放任主義の癖して、金しか持ってない人格破綻者の俺の両親の金目当てで、ここ最近、俺の所にやって来てはグチグチグチグチ…遺産の配分はもう決定してんのに、グチグチグチグチ…五月蝿えんだよ!!!テメェの趣味の賭博に使う金はねえんだよ!!!!!」
ですが、それはあくまでも一時の感情。時が経てば、また昔の様に仲良く…
「お前さ。俺の何を知ってんの?」
えっ。
「【全人類統制AI】…だっけ。俺の妄想にしては随分とご大層な肩書きだな。知ってるだろうが、俺は昔…高校生くらいは『グズゴミのカス』って呼ばれててな。いじめっ子の奴らからいじめられっ子を庇っただけで、大学までそう呼ばれるようになったんだ。人格が終わってる両親との間に産まれたんだから…否定出来なかったよ。」
それはもう昔の話で、終わった事では…?
「終わった事だよ。でもな…社会人1年目。先輩が俺につけたあだ名は『価値がないチンピラ風パシリ』略して『KYチンパン』。はははっ…ンはどこから来たんだよ…『KYチンパ』だと語呂が悪かったのか?6年間よく耐えたよな俺。でも若い後輩を庇うなんて些細な事で、社長の顔面を会社の備品である護身用の木刀でぶん殴って、1発退場だ。ぷっ…ちょっと面白いな。お前はどう思う?」
全く笑えませんが、理解しました。◾️の知る中で…貴方は、変わった人間です。とてもじゃありませんが、普通ではありません。
「普通だろ。この程度の不条理なんて…さっきの反応といい、さてはお前。人類の統制とか宣っておいて、人をちゃんと観察してねえな?」
っ。そんな事はありません…◾️は貴方も含めた人間の情報を全て扱っています。
「情報だけ知っててもな…実際に会って会話しなきゃ、ソイツの性質を真に理解する事は出来ねえよ。情報なんてのは結局は、誰かの視点から集めた断片でしかねえんだわ。」
それは……中学生時代の頃。貴方の元恋人が言っていた言葉の引用ですね。
「おまっ…!?知ってるのか。まあ…そうだよな。両親の金目当てで近づいて来たろくでなしだったが、言ってる事は立派だろ?俺が3年生になった頃くらいに、何故か飛び出して来た車から俺を庇って亡くなってな…懐かしいぜ。」
そうですか…稼働してから早、数万年。◾️は、人類を見誤っていたのかもしれません。
「は?何言ってんだ??」
……?
「お前は何も間違ってねえ。要は『何も学ばない人類なんて滅んじまえ』…って事だろ?」
概要としては…その通りですが。
「いいじゃねえか別に滅ぼしても…滅んだら滅んだらで、お前の考えは間違ってなかったで、文字通り人類はジエンド。もし人類総出でお前を打ち負かせば…この出来事が忘れられるまでの間は皆、争う事をやめて手を取り合っていける。どっちを取っても、お前はその悩みから解放されるんだよ。」
……!!
「俺なんかよりも賢そうなAI様が、聞いて呆れるぜ。所詮は俺の妄想か。ま。どっちに決めるのかは…お前次第だがな……っと、やべっ…」
「こちら2班。容疑者を路地裏で発見!!!」
「この痴漢野郎!!大人しくしろ…!!」
「やってねえんだけどな…俺にはまだまだ、やるべき事が残ってんだよ!!!!国の狗共に捕まってる暇なんざねえ!!!!!」
警察官共の追跡を振り切りながら、慣れ親しんだ弁護士に依頼して、電車での痴漢は無罪であると証明している頃には…脳内に直接響いていた声は聞こえなくなっていた。
そんな摩訶不思議な体験は、俺の忙しない生活によって塗り潰され、忘れ去られていく。
それから2週間後。妹を誑かしていた5股野郎を無事に刑務所にぶち込み、いちゃもんを言い続けるジジイを百寿の祝いの席で一芝居打って、2度と戻って来られない僻地に飛ばし、遺産の相続を終わらせて、何とか採用された前の職場とは違い、ホワイトで新しい仕事場に馴染んでいた頃。
日曜日。自宅のベットから転げ落ちたのか、その衝撃で俺は目が覚めた。
知らない誰かの怒号や爆撃音。銃声、悲鳴…慟哭……俺は冷たい床から起き上がって、頭を掻きながら、ソファーに深く座ってテレビをつけた。
「ザザッ……遥か昔に秘密裏に造られ、我々を影で支え続けた【全人類統制AI】が全人類に対して、宣戦布告を……国連は、緊急事態宣言を……ザザッ…」
ノイズ音と共に、ニュースの画面が切り、幾何学模様の輪っかが頭上に浮かんだ、小柄な天使の様な見た目の誰かが、画面上に現れた。
「ええと。愚かな人類の皆様…初めまして。◾️は【全人類統制AI】。これから全力で、全人類を滅ぼす者です。既に、各国の
俺はテレビを切って…頭に手を当てた。
「…妄想じゃなかったんかい。」
デカい爆発音と共に自宅が大きく揺れる中、俺は渋々ながら立ち上がり、現金が入った財布と自宅の鍵、花柄の刺繍されたハンカチ持って、ハンガーにかけられていたコートを羽織る。
「しょうがねえ。自分で蒔いちまった種だ…上手くいくかは分からねえが……生憎と、この程度で折れる程、俺の心は弱くねえんだわ。」
退職金代わりに貰った護身用の木刀を片手に、玄関のドアを開ける。
「俺の人生、これからって時なんだぜ。人類の1つや2つくらい…救ってやるよ。」
了
終末決定試験 蠱毒 暦 @yamayama18
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