その安定は果たして幸せか

『今日から私の父が博物館に展示される』という始まりから、引き込まれる作品。

未来的かつ冷徹な社会を舞台にしたアイデンティティに対する鋭い問いかけを描いた作品です。
家族が展示されるという、個人の尊厳やプライバシーが侵害されるのに、同時にそれが社会的に受け入れられているという皮肉を感じさせられます。

家族という存在が「展示品」として扱われることで、家庭生活の意味が問われ、その「普通」さがどうしようもない異質さとして浮かび上がります。

特に、家族が変わりゆく過程を「展示」として冷徹に描くことで、社会が求める「正常」な家族像とは何か
その意味がどれだけ空虚であるかを感じさせられました。

読了後は寂しいような、切ないような、ありふれた普通になんとも言えぬ冷たさを感じる、そんな作品です。