第3話 勇気啓区の物語




 あるところに、勇気啓区という少年がいた。


 勇気啓区は、取り換えの効く存在だ。


 だから、自分の命に頓着していなかった。






 勇気啓区は、普通の人間にまざって行動している。


 その行動に不審な点やおかしな点はない。


 勇気啓区には、あらかじめ人として生きるために必要な知識や技術が備わっていたからだ。


 だから、誰も彼を普通ではないと思わなかった。





 そんな彼はある日、異世界へ召喚される。


 他の登場人物たちとともに。


 しかし彼は特別ではない。


 ある意味特別だが、物語では役に立たない存在だ。


 だから、目立たないように過ごしていく。






 そんな彼でも、物語に関係のないものには普通の対応をした。


 普通の人間の様に憤り、笑い、手を貸し、手を貸される。


 だから、彼を人間でないものなどとは誰も思わなかった。


 しかし、彼は自分を人間ではない者だと分かっている。


 世の中に存在する者達とは平等ではないと分かっている。


 だから、誰の心にも近づかなかった。

 





 そのため、その結末になったのは必然だったのだろう。


 勇気啓区は命を落とした。


 とある出来事で。


 物語のハザマ。


 描写される必要性のない、取るに足らない出来事で。


 その死は誰にも悲しまれない。


 ただ次が用意されるからだ。


 次の勇気啓区は、また前の勇気啓区と同じように感情を示し、ほどほどに人間社会にとけこむ。


 魔法を習得し、魔物と戦い、剣を持ち、


 異世界の世界を歩いて。


 時には命が軽いからと、現実世界の環境よりもはるかに危険な行動に出たりして。


 




 大抵は彼の喪失に気が付かなかった。


 しかし、たった一人だけ。


 赤い髪の少女だけが、彼の喪失に気が付いた。


 その少女は彼を忘れまいとしていたが、それは無理な話だった。


 なぜなら彼女も、代わりの効く存在であったからだ。






 勇気啓区。


 彼の存在は誰に記憶にも残らない。




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白いツバサ キャラメインイフ短編集 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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