世、妖(あやかし)おらず ー袖引娘ー

銀満ノ錦平

袖引娘


 幼少期によく袖を誰か引っ張られていた。


 顔は分からないが恐らく娘っ子だったと思う。


 私は引っ張られた後の記憶がいつも無い。


 何処に引っ張られるかは様々だった。


 洗濯機の裏、テレビの裏、押し入れの中、おもちゃ箱の中、本棚の裏…。


 家の中だけではなく外に出ても引っ張られることがあった。


 ベンチの下、すべり台の下、ブランコの下、シーソーの下、ジャングルジムの隙間、グローブジャングルの中…

 学校では何故か引っ張られなかった。


 家と公園でよく引っ張られていた。


 一人の時に引っ張られる事が多く、最初は怖く親や先生に話したが話半分に聞かれることがあり、人に言うのを諦めた。


 姿は分からない。


 しかし何故か女性に…しかも歳が幼い娘という感触があった。


 別に引っ張られていても嫌な気持ちはしなかったことは憶えている。


 なんというか優しく引っ張られるというのか、こっちに来てと言わんばかりというか。


 引っ張られた後は何をされたか全く分からないが悪い気分でなかったのは確かであった。


 しかし歳が進むにつれて、引っ張られる回数が減っていった。


 体格が大きくなってきたからか引っ張られても私が微動だにしなくなったせいだと思う。


 そして中学2年生になった時には引っ張られる感覚がなくなっていた。


 そもそも何故、袖を引っ張るのか。


 構って欲しい何者かの仕業なのかと思ったが、それが幽霊だか心霊だかの存在だとは、認めたくなかった。


 怖いからとか怖ろしいとか、不安な気持ちになるからというのもあるがいないモノの存在にしてしまうと引っ張ってくれていたあの娘がいない存在になってしまいなんかさみしい気持ちになってしまうからだ。


 ただ、あれは気の所為というか蜘蛛の巣が引っかかったり袖紐が引っ掛かって引っ張られる感触に感じてしまったのかと今にして思う。


 子供の時の記憶なんて曖昧だし歳を取る毎に減るのも私が鈍感ながらも薄々気づいていたからかもしれない。


 引っ掛かる感触が引っ張られるという誤解を招いたのかと心の中で笑ってしまう。


 しかもその誤解を娘に引っ張られると頭で認識していたことに私は、実は変態というかイマジナリーフレンドを拗らせていたのかと少し恥ずかしく感じた。


 今日は、晴天で雲一つない夕焼けを見ながら帰宅していた。


 明日から成人となる記念すべき日だ。


 私はこれから色々な事ができると浮かれた気持ちで

 歩いていた。


 いつも通る道に人があまり通らない所がある。


 電柱が疎らに並んでいていつもは不気味に思うが明日の日に向かっていると思うと電柱がバースデーケーキに乗っている蝋燭に見えてより身体が、心が高揚してきた。


 一本一本、電柱を見ながら道を進む。


 全部で20本、運よく私の明日なる歳と同じだ。


 そして20本目の電柱に笑顔で通り過ぎる。


 グィッ…

 突如、袖を強く引っ張られた。


 引っ張られた先を見る。


 娘だ。


 娘が口の歯の間から細い糸のようなものを出してい

 た。


 気づいたら袖に沢山ついていた。


 唖然として立ち尽くすしている私を見てその異形の娘は言った。

「機は熟した。」



 私は電柱に引っ張られいなくなった。










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