第8話 『大蛇神教』

 ここまでライン読んだ時、あの松浦の足音が聞こえた。私は、震える手でスマホを松浦の鞄に返した。私は、努めて平静を装うとしたが、どうしても震えが止まらなかった。


 部屋に帰って来た松浦に、私は、止まらない体の震えを、急に悪寒がし始めた、きっと風邪にかかったかもしれないな、2・3日休むちゃのう、とそう告げて急いで自宅に帰る事とした。


 警察へ訴える事も、勿論、考えたが、私の直感とあのスマホのラインのみが唯一の証拠である。例え、警察に訴えてみたところで、その前に松浦が感付づいて、スマホを処分されたら終わりであろう。


 その時点で、総ての証拠は完全に隠滅されてしまうのだ。それに、『大蛇神教』(だいじゃしんきょう)と言う宗教団体名も聞いたことが無い。警察も全く信用しないだろう。


 いよいよ明日は、そのクリスマスイブとなった。


 私は、東京のモデルガンショップで買ってきたスタンガンに、電池を、完全に入れて、その動作を、再確認してみた。


 とは言え、明日、一体、どんな事件が起るのか?私には想像できなかった。田辺が死んでしまった事は事実だが、それも結局、松浦に毒殺されたのは間違いが無い。


 そしてあの遺書は、松浦自身が田辺から聞いた話を元にして、自ら、捏造し警察に送付したに違いないのだ。そこまでは、まあ、分かるとしても、あの松浦が、果たしてどんな方法で、私の大事な一人娘の彩を殺そうとして来るのか?その方法が全く分からないのだ。針ガンなのか、薬物か?


 ただ、明日は、きっと長い長い一日になるだろう。


 しかし、総ての事件の謎と真犯人が分かったのは間違いない。私は、とてもこの世の人間とは思えない連続猟奇殺人犯と、徹底的に戦う決意を固めたのだった。


 その時、急に、


「シンクロニシティの崩壊です!!!」と、まるで医者が患者の死亡を告げるかのような、あの冷静な田辺の声が頭の中で聞こえた。


 何故、急に、田辺の声を思い起こしたのか、それが何を意味するのかよく理解できなかったものの、明日には、いや明日にこそ、今までの連続猟奇殺人犯である松浦宏美の総ての悪行が崩壊するのだ!というふうに、私には徐々に思えて来てならなかったのだった。


 12月23日の夜遅く、私は、松浦の逆手を取るスタンガンを持ち、自分から松浦宏美の家を見張りに行った。必ず、明日早々に、松浦は動き出すと確信していたからだ。


 松浦は、案の定、24日の午前12時15分に、車を運転して家を出た。しかし、行き先は、私の家の方面ではではなく、道順からして私の勤務している福祉施設へ向かっていたようだった。


 これには、少し拍子抜けした。それでも絶対に松浦に気付かれないように、大きく距離を取り、私はノロノロと車を運転して着いていった。


 果て、今日は、松浦は夜勤の日で無かった筈だが。だが、私の勤務している福祉施設に着いた後、私は、一階の大会議室の窓からこっそりと中を除いてみて、今まで経験したことも無いような超衝撃的な現場を目にしたのである。


 おお!こ、これは一体何なんだ!


 その大会議室は白い幕で囲まれており、会議室の中心には、数メートルはあろうかと思われる大蛇が、一匹、ゆっくりと床を這っていた。松浦は白い着物に赤い袴を履いていた。つまり、巫女の姿をしていたのだ。


 しかも、その大会議室の壇上で、白装束に身を包み、訳の分からない呪文を唱えていたのは、何と何と、あの物静かで今回の事件に最も関係が薄いと思われていた清水施設課長、本人ではないか!

 私自身、コロッと忘れていたのだが、清水施設課長は、そういえば南蛇谷村の出身であった筈だ。


 そして、清水施設課長は、白衣を着た20数人の私の勤務する女性介護職員を前に、あおのヒットラーのような金切り声で叫んだのであった。


 「『大蛇神教』(だいじゃしんきょう)、立教一周年、万歳!


 本日は、またあと一人、大蛇神だいじゃしん様への生け贄を捧げる日なのだ!」と。


 私は、汗だらけの震える手でスマホを操作し、県警に知り合いの刑事に至急の応援を頼んだのだった。                                

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

腐乱件腫多淫(フランケンシュタイン)殺人事件 立花 優 @ivchan1202

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画