101年目のプロポーズ

ブロッコリー展

とある私立高校の演劇部

〈主な登場人物〉

ミソラさん・・・演劇部の中心人物(女帝)。肩書きは名誉部員。高3。大会社経営の父親が地元の有力者で、学校を含む地域各所へ多額の寄付をしている。演出・主演・脚本をこなす。(ミ)


部長(女子)・・・実務レベルでのリーダー。男口調。高3。父親の会社はミソラ社の下請け。常にミソラさんを立てるが、下っ端の部員はこき使う。例外としてイケメン部員にだけ甘い。(部)


下っ端男子部員A・・・ちょい役しかもらえない下っ端の部員A。いつも舞台袖などで他の部員とブツブツ文句を言っている。高2。(A)


下っ端男子部員B・・・Aとほぼ同じ。(B)


イケメン部員・・・イケメン。高1。本作品ではヒロインの相手役。(イ)


顧問の先生・・・(顧)


校長先生 ・・・(校)


            《脚本》ブロッコリー展



🏫  🏫  🏫  🏫




【本編】


私立🐈🐈学園高校のある教室。


これから演劇部の本日の活動が始まる。


整列する部員たちを前に部長が訓示を与えている。


ミソラさんはまだ来ていないようだ。


部「いいかー、お前ら、アタシの目の黒いうちは“七人の黒澤明”だかんね。手ェ抜かねえからな。文化祭近いし、しっかり稽古だぞ」


他「アイ サー」


部「おい、そこのAとB、お前らミソラさんがこのまえ上げた台本しっかり頭に入ってんだろーな」


A・B「は、はい、大丈夫っす」


返事の後でAとBは小言で話し合う。


A「オマエさ、あれ(台本)読んだ?」


B「やばいよ、あれ。そもそもタイトル『101年目のプロポーズ』って……。101年間も男にプロポーズさせといて、あーだこーだ言って振り回すヒロインとか鬼だろ」


A「しかも、ヒロインはずっと20歳のままっておかしくない」


B「あとよ、貧しい家の生まれの不幸な娘って設定なのにお手伝いさん多すぎだろ」


A「あ、もしかしてオマエもそれ系の役?俺は水車を回したり水を汲んだりなどの力仕事を手伝う男の役」


B「こっちは馬車を玄関口にまわす男と、編み物の時に毛糸の玉を持っとく男の役だってよ」


A「ぜんぜん裕福やん。それに他のやつのセリフもほとんどヒロインの言ったやつの復唱だし、軍隊かよ」


そこに、廊下の方からコツコツとヒールの音。ミソラさんの鼻歌が聞こえてくる。


ミ「♪ラーラバイ ひとーりで ねむれーない夜は♪ラーラバイ あたーしを たずねーてーおいで〜」


ガラガラと音を立て教室のドアが開く。


みんな一斉にそちらを見る。


ステージ衣装の派手なロングドレス姿のミソラさん登場。


ミ「エブリバディみんな〜。遅れてごめなさーい」


全「おはよーございまーす」(暗い顔つきで)


ミ「みんなー、この前の台本はまだラストの部分ができてなかったので昨夜は徹夜で仕上げてましたの。間に合ってよかったわ。だからこれからそこの部分の台詞の読み合わせ&リハやっちゃいましょー」


全「アイ アイ サー」


みんなで準備する。


《ヒロインはミソラさん演じるジュジュエット。相手役の101年間プロポーズし続ける村の青年(?)はイケメン部員が演じるノミオ》


台本を手に、二人位置につく。


部「それじゃあ、お抱え料理人にあやうく毒を盛られそうになるが、ちょうどダイエットを決意した日で口にしなくて済んだシーンのすぐあとから行きまーす」


        🎭スタート🎭



真実を知り、家を飛び出し近くの森でうずくまって泣くジュジュエット。


ジュ「ああ、とても怖かったわー。あの料理人は今頃うちのお手伝いの者たちが自警団本部に突き出してくれていることでしょう。ノミオ……この深い悲しみの時、なぜあなたは私のそばにいないの……ポケベルが鳴らなくて恋が待ちぼうけしてるわ……」


そこへ杖をつきながらノミオ登場。


ノ「いったい何があったんだ?いや言わなくていい言わなくてもすべてわかるから」

ジュ「おーノミオ。お会いしたかったわ。だってとても恐ろしかったんですもの」


二人手を取り合う。


ノ「おー、ジュジュエット。愛しているよ」

ジュ「愛している……それだけ?」

ノ「どうかこの僕と結婚して欲しい」


ジュジュエットは手を離し、離れる。


ジュ「でも私はまだ……あなたの愛を信じられないわ……」

ノ「どうしてだい?もう101年もこうして伝えているのに……」

ジュ「だって102年目にはどうなっているかわからないもの。男の人はいくつも愛を持っているものだから……。それに……」

ノ「それに?」

ジュ「300人の弟たちの面倒もみなくては。まだ幼なくて、私がいないと何もできないもの……」




出番待ちの間、袖で見ている下っ端男子部員AとBが小言を言っている。


A「おい、300人って多すぎだろ」


B「それによ、もう弟もいいかげん大人になってるだろ」



🏫  🏫  🏫  🏫



部「いったん休憩入れまーす」


そこで、恒例のミソラさん手作りのお菓子が振る舞われる。まずいのでみんなあまり食べない。


部長はイケメンくんの肩を揉みながら甘やかしまくっている。若干引き気味のイケメンくん。


部「すっごーい良かったよー。クリス・ヘムズワースみたいだったぞー」


イ「あ、はは……、100才超えた爺さんっすけどねー……」


ミソラさんは壁に向かって熱心に発声練習をしている。


その隙にお菓子が減ったように見せかけておく部員たち。


休憩終わる。



🏫  🏫  🏫  🏫




部「それじゃあ、ヒロインが男性に望むことは何かを語るシーンから行きまーす」



        🎭スタート🎭



ノ「おージュジュエット、そなたはいったいどんな男ならいいと言うんだい?」

ジュ「私は多くは望まない、ほんの少しでいいの。例えば、そう、晴れた日にはエアーズロックの上で私の頭をぽんぽんと優しく撫でながら、熱烈なラヴソングのMVを撮影して欲しい。

曇りの日にはナイアガラの滝をバックにたくさんの人に私が妻だと紹介してくれる人がいい。

雨の日にはスエズ運河で座礁したタンカーを持ち上げて傘の代わりに雨宿りさせてくれて特別扱いして欲しい。

たったそれだけ……

でもあとしいていうなら、

些細なミスをして落ち込んでいる時は、地球上の誕生日や記念日を全部あつめたみたいにサプライズしてほしいし、

体調が悪い時にはお姫様抱っこでサルガッソー海を渡って病院に連れてって欲しい。

そして私が髪を切った時にはマッターホルンの頂上付近で私の見た目の変化に気づいて欲しい。

それから、毎日叱ったり、叱らなかったりして欲しい……それからon my mine… あとそれから……」

ノ「ちょっと多すぎやしないか……あはは」(アドリブ)


睨みつけるミソラさん。

うろたえるイケメン部員。


ノ「も、もちろん、緊張感をもってそれらの要望について検討を加速させるとともに、注視していくよ」




堪えきれずに部員たちクスクス笑う。


ミ「ちょ、ちょっとストップ」


ミソラさんは気分を害したようで、教室の隅でうずくまって大袈裟に泣き出す(いつものこと)。泣きながら歌っている。つらくはないわ〜 この東京砂漠〜♪


ミ「いーの、私がいけないの。みんな私の本がくだらないと思っているのよ、どーせ。ぐすん、ぐすん」


部長が駆け寄って慰める。


部「ミソラさん、そんなことないですよー」「なぁ」とみんなを振り返って同意を求める。


他「もちろんですよー」


ミ「どうせわけわかんないめんどくさい女だと思っているのよ。ぐすん、ぐすん」


部「そんなことないですよー」下っ端をこき使い出す。「おい、AとB。お前らミソラさんに全身全霊で“そんなことない”を伝える踊りしろ」


A・B「イエッサー」


部長は責任を感じている様子のイケメンくんに甘い声をかける。


部「イケメンくんは何もしなくていいからねー、そこのやわらかーいイスに座って、やわらかーいものを食べててくだちゃいねー」


AとBは言われた通りに、ミソラさんを元気づけるための全身全霊の踊りを披露する。


そのとき、男の顧問の先生が部活動の様子を見に来る。


それに反応したミソラさんはAとBはほぼ無視で、何事もなかったようなケロッとした顔になって立ち上がり、台本を持って顧問の方へ。


ミ「顧問せんせーい、今日もお髭がとても素敵ですわー」


顧「いやー、それはどうも。あと、お父さんにはいつもお世話になってます」


ミ「まあ、またうちの父が何かでしゃばりましたのね。すいません。あっそうそう、顧問先生にご相談なんですけど、本番のときに台本のここのところで校舎の B棟の半分くらいを爆破してもよろしいでしょうか。なんか臨場感が欲しくて」


顧「まー、安全確保できてればいいでしょー」


ミ「わーい、うれしー」(飛び上がって喜ぶ)


それを見ていたAとBは目が点になる。


A「オマエ、安全にB棟を爆破する自信あるか?」


B「ない、ぜったい、ない」(強くかぶりを振る)


そこでAは勇ましい顔つきになる。


A「俺、今まで黙ってたけど、ちょっとガツンと言ってやるわ」


B「おい、大丈夫か?やめとけって」


制止を振り解きAはミソラさんの方へ詰め寄る。


ミソラさんは飄然と受ける。そして自分の荷物の中から何かを取り出す。


ミ「あら、Aさん。そうそうそういえばAさんにとっておきの物が。これはうちの父の会社でつくったモテ率100%の“恋モバイルバッテリー”というもので、好きな子のスマホをこれで充電してあげると、その子があなたを好きになってしまうという……」


Aはそれを即行で受け取り懐にしまう。


A「本番の演出については、さまざまな角度から検討を加速します」(敬礼)



🏫  🏫  🏫  🏫



いよいよ最後のシーン。


部「それじゃあ、ショッカー戦闘員たちが現れて二人を襲おうとするところから行きまーす」



         🎭スタート🎭


ショッカー戦闘員現る(数人)


ショ「ヒィー!ヒィー!」

ジュ「きゃー、変なのが来たわーたすけてーノミオー」

ノ「おい、貴様ら、やめるんだ。僕が相手だ!」

ショ「ヒィー!ヒィー!」


ショッカー戦闘員たちと互角に渡り合う100才オーバーのノミオ。

そして激しい攻防の末、揉み合いになり、崖のふちまで……


ジュ「ノミオ!あぶなーい!!」

ノ「あ、あー、ジュジュエットー、愛しているよー」


ノミオはそう叫ぶとショッカー戦闘員たちを道連れにして深い谷の底へ落ちていった。

一人きりになったジュジュエットは泣き崩れる。

でもそこで声が聞こえる。


「おーい」


そう、ノミオのあの声だ。


ジュ「おーノミオ」


ノミオはゴーストとして蘇ってきたのだ。


ノ「僕は天国に行かずに、そなたのそばにいることを選択したんだ。これからもゴーストとしてずっとそなたのことを守っていくつもりさ。in your side そしてこれが102年目のプロポーズさ」

ジュ「まー、うれしいわー」


    ここでなぜかサトームセンのCMの曲


   愛を確かめ合うかのように二人は歌って踊る


 ノ「たしかめよう」  ジュ「みつけよっお❤️」


       「ステキなサムシング」


          カモーン!


    あなたの近所の秋葉原、サトームセン!!


         ブオーン


 二人、スケボーに乗って舞台を飛び出し愛の国へ

            


         🎭終劇🎭



部員たちからパラパラとした拍手。


B「無茶苦茶やろ」


そこへ校長が視察に来る。


校「どうですかー?仕上がってますかー?」 


それを見たミソラさんは額の汗を大袈裟に拭きながら近寄る。


ミ「校長せんせーい、今日も素晴らしいお召し物ですわ」


校「いやーどうもありがとう。ミソラさんの御尊父にはいつもお世話になっておりますです」


ミ「あら、やだわ。父ったら過保護なもので、すぐ、学校に影響を及ぼそうとしてすみません。ちゃんと私から注意しておきますわ。そうそう、校長先生にご相談なんですけども、いっそのことこの学校を秋葉原に移転しません?そのほうが本番のロケーション的にもいいんですの」


校「良いんじゃないですかー」


B「ダメやろ……」


A「検討を加速しましゅ」(最敬礼)








                  おしまい

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