お願いだから普通に作って!!!
「つ、疲れた……」
どうにかぽよぽよちゃんたちを集め終えた私たちは、騒ぎを起こした詫びを入れつつ自宅へと戻ってきた。
ドアを閉めると同時にフィリアの手を離れたぽよぽよちゃんたちがふわふわと家の中を漂い始める。今度はちゃんと部屋中の窓という窓を閉め切っているから、ぽよぽよちゃんたちが外に流れていくこともない。その代わりにぽよぽよちゃんたちはあるものはランプにくっついて一緒に部屋を照らしたり、ある者は花瓶の中に入ってピカピカしたりしてる。……自由化この子たち。
「師匠、ありがとうございました! やっぱり師匠はすごいですね、ぽよぽよちゃんハンティングとってもお上手でした!」
「あ、あはは、それはどうも」
……褒めてるこれ? いやうん、フィリアのことだから褒めているんだろうきっと。残念なのは、そんなスキルがあったところで結局ぽよぽよちゃんハンティングにしか使えないということだ。
曖昧に微笑む私を他所に、フィリアはぺこりと頭を下げたかと思うとニコニコしながらぽよぽよちゃんたちの下へと駆け寄っていく。
「えへへ、ぽよぽよちゃんがいっぱいー♪」
ぽよぽよちゃんたちが放つ虹色の光の中でくるくると回ってみたり、そのうちの一体を手に取ってほおずりしたりする姿は何と言うか、年相応の女の子だなぁって感じがする。突拍子もないことをあれこれ巻き起こすんだけど、結局こういう姿が可愛らしくて、私はこの子から目が離せないんだ。
「そうだ師匠! 今日はお疲れの師匠のために、師匠の大好きなクリームシチュー作っちゃいますね!」
「大盛でお願いします」
「がってん!」
あと、こんな感じで胃袋を掴まれてるのも大きいかもしれない。
いやホント、明るく素直で魔法の才能もあって家庭的な美少女と欠点らしい欠点が見当たらないこの子が、なんで私なんかを師匠と慕ってくれてるのかが全くわかんないんだよね。フィリアに聞いても「師匠は私の憧れなんです!」っていうばかりでそれ以上何も教えてくれないし。
「……師匠? そんなに見つめられてもシチューができるにはまだかかりますよ? ……はっ、それともまさか、シチューを作る時間を短縮できる魔法を教えてくれるんですか!?」
「そんなのないから普通に作って」
「承知です!」
私の言葉に従ったフィリアが手際よく調理を進めていく。するとその姿に興味でも持ったのか、ぽよぽよちゃんたちがふわふわとフィリアの周りに集まり始めた。なんかチカチカ点滅してるのもいるけど、もしかして応援でもしてる? 繰り返しになるけどホントに意識あるのこの子たち?
「みんなありがとう! 私頑張るから見ててね! 師匠に相応しい世界一のシチュー作るから!」
いや返事するってことはホントに応援されてるの? フィリアがそう解釈してるだけだよね? いやでもフィリアだもんなぁ。ホントに応援されてるんだろうなぁ。あと私なんかに作るのは一般的なシチューで充分だからね?
……なんかこの光景見てたら、細かいこととかどうでもよくなってきた。まぁいずれフィリアもちゃんとした魔法を学ぶためにここを巣立つ日が来るだろうし、その時までは何とか師匠として彼女を導こう。とりあえず、彼女の才能の邪魔をしない範囲で。
「そうだ! このシチュー用の牛乳にぽよぽよちゃんのときみたいに魔力を込めたらもっと美味しくなるかも!」
「お願いだから普通に作って!!!」
「はい師匠っ!!!」
出来上がったシチューはすごく美味しくて、文句の付け所がなかった。ただ一つ、虹色の湯気が立っていたことを除けば。
……弟子の心配の前にまず自分の身を案じる必要があるかもしれない。フィリアが巣立つその時まで、私、無事でいられるかなぁ……?
私、そんな魔法教えてないけど!? ~凡才師匠と天才弟子の穏やか? な魔法生活~ ひっちゃん @hichan0714
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます