そんな魔法作ってなああああああああああああああああああああいっ!!!
あくる日。
「師匠、師匠、大変です!」
私の本業である村の便利屋稼業を終えて自宅へと戻ってくると、フィリアが何やら慌てた様子で駆け寄ってきた。もうこの時点でろくなことがない気しかしないのだけれど、一応師匠なわけだし話は聞かなければ。
「どうしたのフィリア、そんなに慌てて」
「ぽわぽわちゃんがさみしがってます!」
「おやすみなさい」
「師匠!? ダメですダメです聞いてくださいー!」
寝室に行こうとする私を全身で引き留めてくるフィリア。くそっ、体は小さい癖に意外と力があるんだよなこの子。まぁ本気で無視しようとしてたわけじゃないからいいけど。
「はぁ……それで、さみしがってるっていうのはどういうこと?」
「ぽわぽわちゃんが言ってるんです! お友達が欲しいって!」
「もうフィリアがいるじゃない」
「そうじゃないんです! 同じようなお友達が欲しいって!」
まぁ確かに、私たち目線だとぽわぽわちゃんはペットか何かにしか見えないみたいに、ぽわぽわちゃん目線で見ると私たちは自分とは別の生物に見えててもおかしくはないのか。
……いやいやおかしいおかしい流されるな私。そもそもただの水魔法で生成した水に意志があるって何なんだ。そういうものに意志があるように動かせるのが魔法ではあるけれど自分の意志で勝手に動くとか聞いたことなさすぎるんだけど?
まぁそのあたりを論じてたら夜が明けそうだから考えないことにして、というかその前に。
「……だったらフィリアがもう一体作ればいいんじゃない?」
そう、既に一度作った実績があるんだからもう一体や二体生み出すなんて簡単なんじゃないの? と思ってしまうんだけど。もしかしてフィリアをもってしてもぽわぽわちゃん生成術(仮称)は難しいのだろうか。まぁそうだよね、意志がある水の生成なんて言う難易度不明の超魔術そうそう簡単に――。
「それじゃあ面白くないじゃないですか!」
うん知ってた。誰だよこの子に「魔法に重要なのは遊び心、いろいろと試してみることが大事だよ」とか教えた奴。……私かそうか。うん、何も言えない。
「師匠、何とかなりませんか? ほら、ぽわぽわちゃんも寂しくて泣いてるんです、何とかしたいんです……!」
リビングを我が物顔でふわふわしているぽわぽわちゃんからは悲しみの波動は感じられないのだけれど、少なくともフィリアは純粋に彼女(?)のために解決策を本気で欲しているようだ。……なら仕方ない、私にだって師匠として、着火用の声だ一本分くらいの意地がある。ちょっと本気で考えてみよう。
えーと……寂しいってことは増えればいいの? 増える……分裂……そうだ、スライム系統の魔物は分裂して増殖するんだっけか。じゃあこの子も同じようにして増やせるってこと? いやでもこの核もないスケルトンボディのぽわぽわちゃんが分裂なんてできる?
「師匠……?」
あぁもうそんな不安そうにしないでよフィリアああああああっ! わかった、もうこうなったらいつも通りフィーリングで行くしかないっ!
「そ、そうだね、要は増えればいいんでしょ? フィリアの中でぽわぽわちゃんがバーッとたくさん増えるイメージをしてみたらどう?」
「たくさん増えるイメージ……」
「そ、そう! ほら、ぽわぽわちゃんって元は水でしょ? 例えば雨みたいにたくさん散るような感じならどう!?」
「……うーん……?」
うん、これはない。今までの中でもトップクラスにノリと勢い任せのアドバイスだ。アドバイスどころかむしろ混乱を誘ってないかこれ? いやそんなこと言ってもこんなん誰が適切なアドバイスができると? 今のフィリアにアドバイスできるような才能を持ってたら私は今ここにいないわけですよ。ホントなんでこんな私が師匠やってるんだろうね? ほら今すぐ誤って――。
「……はっ!?」
……ん?
「そっか。師匠、そういうことだったんですね! 生み出した水に対する水流操作を応用してぽわぽわちゃんを雨のように細分化、その状態で定着させてあげれば数えきれないくらいのお友達ができる! 完璧に理解しました!」
え、いやいやいや言ってない、そんなこと一言も言ってない! 確かに水の形状変化は起訴中の起訴でフィリアにもみっちり仕込んだけれど雨みたいな細分化? もとから雨粒サイズの水を生成するならまだしも既存の水塊をそんなに細かくできるの? いやできたとしてそんなレベルでぽわぽわちゃんが増えたらヤバくない!?
「じゃあ行きます! ……えいやー!」
私が止められるような時間もなく、フィリアがぽわぽわちゃんに向けて魔力を放出したその瞬間――ぽわぽわちゃんが音もなく破裂した。
「うわぁっ!?」
思わず顔を手で庇う私だったが、いつまでたっても手にも体にも何かが当たる兆しがない。恐る恐る手をどけると――。
「やった! 成功です師匠! 見てください、ぽわぽわちゃんがこーんなにいっぱい! これはもうぽわぽわちゃんじゃなくてぽよぽよちゃんですね!」
目の前には、透明なのに虹色の輝きを発する大量の水玉――ぽよぽよちゃん? に囲まれて、嬉しそうに飛び跳ねるフィリアの姿があったのだった。
……いやあの、ただでさえ理解が追い付いてないのにネーミングで変なツッコミどころを増やすのは止めてほしいんだけど? と呆然とする頭にかろうじてそんな一言が浮かんだその時。
「きゃっ、急に風が!?」
「ちょまぁっ!?」
不意に開けっ放しだった窓から風が吹き抜けて、ぽよぽよちゃんたちが家の外へと流されて行ってしまった……!? マズい、あんなのが村の人たちの目に触れたらどんな噂が立つかわかったもんじゃないよ!?
「ふぃ、フィリア、早くあの子たちを連れ戻すよ!」
「はい師匠! 大丈夫だよぽよぽよちゃんたち、必ずお友達みんな集めてあげるからね!」
と、危機感の抱き方がずれているフィリアを連れて、私は自宅を飛び出した。
「お? なんだこのキラキラしてるの、なんか肩に乗ってきて可愛いなぁ」
「みてみてママー、ぽよぽよしてるー!」
「あらホントねぇ」
「ごめんなさいごめんなさい! すぐ回収しますので!」
「こらー! そこのワンちゃん、ぽよぽよちゃんを追っかけ回しちゃダメでしょー!」
「落ち着きなさいフィリア、ぽよぽよちゃんをあなたのところに引き戻せば済むでしょ!?」
「はっ、確かに! さっすが師匠! えっと、こうして……あれ? 師匠、なんかぽよぽよちゃんたちが光り始めました! くるくる回って楽しそうです!」
「おぉ、こんな時期にホタルの群れを見られるなんて驚いたなぁ」
「ですねぇ。いくらでも見ていられそうだわ」
「何余計な仕事増やしてるのフィリアああああああああああっ!?」
……とまぁ、紆余曲折ありながらもなんとかぽよぽよちゃんたちを全回収することはできた。……できた、んだけど。
「フィリアねーちゃん、このきらきらしたのなにー?」
「これはぽよぽよちゃんだよ! レナ師匠が教えてくれた魔法で作ったの!」
「すげー! オレも作りたーい!」
「わたしもわたしもー!」
「あらあらあんなに子供たちを喜ばせてくれて、レナちゃんはすごいわねぇ」
と、何故かこの魔法が私謹製のものだという風に村中に広まってしまった。
いやまぁ、悪い方に言われなかっただけマシなんだけどね? 十中八九危険もないだろうけどね? 勝手に名前が売れていくのって恐怖でしかないんだよ?
「えへへ、みんな師匠のことすごいって! やっぱり師匠の魔法は世界一!」
……私のことを嬉々として自慢しているフィリアを前にして、そんな本音を言えるはずもなく。
――そんな魔法作ってなああああああああああああああああああああいっ!!!
そう心の中で叫ぶしかできない私なのであった。
……誰かこの、見栄っ張りで弟子に甘くて押しにも弱い私の心を正す魔法、教えてくれないかな……。
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