だからそんな魔法教えてなああああああああああああああああああああいっ!!!
私、レナは一応、この村唯一の魔法使いだ。
そんな風に言うと大層な人間みたいに聞こえるかもしれないけれど、やることと言えば、村人たちの困りごとをちょっとした魔法で助けて回るような、いわゆる便利屋みたいなもの。
私にもっと魔法の才能があれば、国の騎士団とか魔法研究所なんかに努めることもできたんだろうけどね。あいにく私の能力は凡人の域を出ないものだったから、こうして生まれ育った村に戻って細々と暮らしているという訳だ。
で、そんな凡庸な魔法使いである私のもとに、ある日突然押しかけて来たのがフィリアだ。何でも私の姿を見て魔法使いになりたいと思ってくれたらしいのだけれど、正直何が彼女に刺さったのかさっぱりわからない。
それでもキラキラした目でぐいぐいこられるのは悪い気がしなくて、まぁ本格的に勉強する前の段階くらいなら私にも指導できるでしょ、なんて軽い気持ちで引き受けたのが、およそ三か月前。
当初は非常に楽しかったし微笑ましかった。私も新米のころに躓いたことに引っかかっては悩んで、あれこれと試しては失敗して、また考えて。そうやって真剣に取り組む彼女に助言しつつ導くのは、今までに感じたことのないタイプの喜びが感じられて、私にとってもすごく充実した日々だった。
――そして、現在。
「師匠! このぽわぽわちゃんにもっと動きをつけてあげたいんですけどどうしたらいいですか!?」
いや知らんし! そもそもどうやって魔法生物なんて生み出したのさ!? そんなの王宮勤めの魔法使いができるかどうかってレベルの芸当じゃないの!? こちとらぽわぽわちゃんの存在自体飲み込めてないのに改善なんてできるかいっ!?
数秒前の私の絶叫なんて何のその。ぽわぽわというよりぽよぽよしているそれを抱きかかえて楽しそうな弟子に、心の中だけでツッコミを入れる。
そう、どうやらこのフィリアという子、魔法に関して天性の才能をもっているらしいのだ。
うまくいかなかったのは最初だけ。一度コツをつかんでしまった彼女は瞬く間に成長し、私が三年間かけて勉強し十年近く実践してきた魔法技術をほぼ全て吸収しきってしまった。何たる理不尽。これだから天才というのは困りものだ。
……なのに、この弟子はどうやら自分のその才能に全く気付いていないらしく、今も素直に私の指導を仰いでくるのである。正直ここから何を指導すればいいの課なんて全く分からないんだけど、私だって一応これでも師匠。薬包紙一枚分くらいの意地がある。
考えろ、考えるんだ……! 何かここから、フィリアの実になるアドバイスを……!
「そ、そうだね、語り掛けるイメージでできたものだから、今度はその声を聴いてあげればいいんじゃないかな」
「声を聴く、ですか?」
「そう! どう動きたいのか、どうなりたいのかはおのずと魔法が教えてくれる! その声に耳を傾けてあげれば、どうすればいいのかきっとわかるよ!」
……なんだこの謎理論。いや理論とすら呼べるのこれ? 感覚的すぎるうえに結局何をすればいいのか教えられていないじゃないか。誰だよちょっと前に「魔力に語り掛ける」とかいう適当アドバイスした奴おかげで私が今苦しいアドバイスしかできないじゃないか。……私かそうか。うん、何も言えない。
「……うーん……?」
ほら見ろ、あのフィリアですら難しい顔して黙り込んでしまったじゃないか。早く訂正するんだレナ、今ならまだ間に合う。これ以上わけわからん指導で意味不明な魔法を生み出す前にフィリアという将来国を左右しかねない才能の塊にあるべき魔法の姿を――。
「……あっ!」
その時、フィリアが急にパッと顔を輝かせた。……マズい、猛烈に嫌な予感がする。
「聞こえた! 聞こえましたよ師匠、魔力の声が! わかったよぽわぽわちゃん、君は空を飛びたいんだね!」
待て待て待て、聞こえた? マジで言ってる? 百歩譲って頭に浮かんだとかならまだわかるけど、魔力の声が聞こえた? そういう比喩じゃなくて?
唖然とする私の前で、フィリアはぽわぽわちゃんを胸の前に掲げる。
「ふんふんなるほど、ここをこうして……えいっ!!!」
そして、魔力をぽわぽわちゃんに込めた直後――ぽわぽわちゃんがフィリアの腕を離れ、ふわりと浮かび上がった。
「……は?」
私の驚きの声なんてお構いなしに空中をふわふわと漂うぽわぽわちゃん。ついでになんか、彼女(?)が放っている輝きも増したように見える。
「やった、成功です師匠! 見てください、ぽわぽわちゃんもとっても喜んでます! ねー、ぽわぽわちゃん?」
「いやあの、えっと」
まるで穏やかな波に揺られるクラゲみたいに気持ちよさそうに空中を漂うぽわぽわちゃんは、確かに喜んでいるように見えなくもない。……いや、てかホントに意志あるのこれ? だとしたら世紀の大発見の可能性だってあるんだけど? てか今フィリアの呼びかけに応じて光が点滅したよね? もしかしてそれで返事してるの?
「やっぱり師匠はすごいです! 師匠の魔法は世界一!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら讃えてくれるのは嬉しい。……嬉しいんだけど。
「――だからそんな魔法教えてなああああああああああああああああああああいっ!!!」
どうかこんな謎の生命体の製造責任まで、師匠に押し付けないでほしい。
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