キミと記憶の管理人
しの
出会い
この世界の始まりは、一人の男の夢を叶える形で幕を開けた。
彼は神と呼ばれた。
彼は自分の肉体から大地を作り、その涙から海や川を作り、その心から太陽を作った。
最後に残った意思でこの世界を記録し、保存する管理人を作った。
彼は管理人に居場所と彼の残りの全てを託した。
ここは記憶の保管庫・
緩やかに滅びゆく世界をどこかの誰かに繋ぐために。
彼が託した意思の為に。
・・・
管理人の朝は早い。
まず朝5時きっかりに目覚めると寝ぼけ眼を擦りながら洗面所へと向かい顔を洗い、歯を磨く。
手早く身支度を済ませたら朝食の時間だ。
米を炊き、味噌汁を作る。
米が炊けるまでの間に糠床を混ぜて今日食べる分を取り出す、そんなことをしているとあっという間に米が炊けて朝食だ。
炊き立ての白米、ネギと鳥つみれの味噌汁、きゅうりの糠漬け。
質素だがとても美味しい。
「なんて誰に伝えるでもないんだけどね」
一人でこんなことを呟いているのは誰かって?
それは管理人こと、私だ。
朝食を食べ終えたら次は新しく搬入されてきた記憶の書の整理だ。
と、言っても整理されてる状態かつ、もうすでに棚に並んでいるから特にすることはないんだけどね。
え、結局何をしてるのかって?
記憶の書を読んで時間を潰すかな。
そんなこんなでもう15時だ。
お昼寝でもしようかな。
キンコーン
と、静寂を打ち破るベルがなり、
ガラガラガラと音を立て、立て付けの悪い戸が開く。
「ごめんくださーい」
「今行きまーす!」
取り敢えず声はかけた、だが今日は来客の予定なんてない。
知らない声だ。
どうしよう、人と話すのなんて何百年ぶりだ。
茜屋堂は確かに現世の世界に存在する。
存在しはするのだが、茜屋堂の中は現世とは隔絶されていて、茜屋堂には見つけても路傍の石のように気に留めなくなる、人よけの効果がある。
茜屋堂を意識することができるのは、茜屋堂と繋がっている管理人、もしくは魂が希薄になり今にも死んでしまうようなヒトの魂が稀に迷い込んでくることがあるくらいだ。
そんなことを考えているとあっという間に玄関についた。
そこにいたのは、年端もいかない様な少年だった。13、いや12歳ぐらいだろうか。
短く切り揃えられた黒髪に整った顔立ち、いわゆる中性的というやつだ。
少し丈の長い喪服。
表情からは陰鬱と少しの怯え、だろうか。
「あ、あのあまりじっくり見られると、少し恥ずかしいと言いますか、その、、、。」
「勝手に入ってきた事ははすみません。ただどうしてもここに入らなければいけないような気がしてしまって…」
続けて少年は自分の両親が事故で死についさっきその葬式を済ませてきたこと、自分にはもう頼れる親戚もいないこと、そして今の自分にはどこにも居場所がないことをポツリポツリと語った。
「すみません、こんな陰気な話あって間もない人に話す事じゃないですよね、ほんとごめんなさい。」
恐らく両親の死で気が動転して精神のバランスが崩れてしまっているのだろう。
誰かに吐き出して仕舞わなければおかしくなってしまうほどに。
「事情はなんとなくだけどわかったよ。
私はここ茜屋堂の管理人だ。私で良ければいくらでも話を聞くよ。」
これが私とキミの出会いだった。
キミと記憶の管理人 しの @shinono002
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