フェアリー ∞ キッド ― 超侵略的科学から妖精姫を守るボディガード ―
てぃえむ
第1話 この世界は、あと50年で劇的に変化するらしい。
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*
この世界は、あと50年で劇的に変化するらしい。
『では次の話題は、エネルギー危機がもたらす我が国の未来について。お話を聞かせてくださるのは海外のハーモニア大学で教授を務めてらっしゃるイサム博士です』
これを聞いたのは、僕が「しごと」に向かう車の中。運転席と助手席に座る黒服の男――若手の20台半ばくらいの2人が車内のラジオの音声を聞きながら交わす雑談だった。
「この教授、前もSNSで叩かれてたな。よくやるよ」
「エネルギー危機ね、本当にそんな事があると思うか?」
「戦争が2つも起きてるからな。それによる株価暴落・価格高騰・加えて一部の国じゃエネルギーの独占もされてるって話だ。エネルギー危機があったとしてもおかしくはないだろうな」
「でもさ……」
「なんだよ」
「「大丈夫だろ、この国は!!」」
男たちが軽快に笑い飛ばした後、助手席の男の通信機器が鳴った。
『ターゲットは発見したか?』
「はい、順調です。あとはリュウが任務を遂行するだけです。おい、リュウ! 準備はいいか?」
電話が鳴るなりぴたりと笑い声を止めた男たちは、まるで八つ当たりするかのように僕に乱暴な言葉を浴びせる。いつもの事だ、こんなのは慣れた。
「はい」
「先日は任務から戻るのが3分遅れたって聞いてるぞ? 現場に居座るなって何度も言われてるだろ。手ェかけさせんなよガキ」
3分の遅延の原因は送迎がトラブルで到着が遅れた事だ。撤退に失敗した僕が逃走に相当苦労したのを、こいつらは知らない
「はい、すみません」
僕が謝ると「ちゃんとやれよ」と、居丈高に言って2人は再び雑談を再開した。
『世の中を支えるエネルギーが枯渇すれば、格差が生まれ、苦労するのは未来ある若者たちだ。今立ち上がらなければ我々は緩やかな崩壊を迎えるだけだ』
「まだ言ってやがるよ、持続可能エネルギーと太陽光発電、エネルギー枯渇の対策は世界中でされてるって知らねぇのかな?」
「知らねぇんだろ? じぃさんだから頭固いんだよ。さっさと消えねぇかなこいつ」
「エネルギー枯渇なんて気にかけてる場合じゃねぇんだよ! こっちはその日その日の飯代を稼ぐのに精いっぱいなんですぅ」
「そういえば、お前娘が生まれたんだって?」
「ああ、かわいいぞ。今度見に来いよ」
「そうだな、この任務から生きて帰れたら、な。」
男たちの声が乾いた笑いに変わった。
そう、僕たちは生きる事にせいいっぱいなんだ。余計な事を考えている暇はない。守りたいものが出来れば自由を失い、がむしゃらに働くしかない。それが僕の目の前に映る「若い大人」だ。さっき僕に浴びせた罵声やラジオの教授に向けた暴言だって、普段周りにペコペコ頭を下げている彼らからしたら「数少ない怒りのはけ口」なんだろう。
「いつから俺たち、こうなったんだっけ?」
「さあ? でもやらなきゃ死ぬだけだ。この国で生きたいなら、な。おい、リュウ。お前もそう思うだろ?」
男たちの言葉に僕は激しい違和感を感じた。でも……
「はい」
僕の返答に彼らは返事をしなかった。
窓の外を見れば、高層ビルと繁華街のイルミネーションが夜空を照らしている。賑やかな街……不倫やスキャンダルのニュースが後を絶たず、若い野球選手が海外で活躍し、それに一喜一憂する人々。
そして皆口を揃えてこう言う。
――俺たちが貧しいのは政治家が悪い。
――俺たちの立場が悪いのはあの思想家が悪い。
そんなイタチごっこに見える個人を対象にした悪口は、SNSでもニュースでも、そこらじゅうで目にする世間話のようなものだ。
でも、僕にはそれは世の中が「平和」そのものである証のように思えてならなかった。
どれも子供の僕にはどうでもよかった。
僕にも「守りたいもの」があったからだ。でも……
知らなかったんだ。
既に世界は緩やかな崩壊に向かっている事。そして、それに抗う「何か」が少しずつ動き出している事に。
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フェアリー ∞ キッド ― 超侵略的科学から妖精姫を守るボディガード ― てぃえむ @tiem112011
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