見えちゃうわたしの、見ないふり。(お題:試験)
羽鳥(眞城白歌)
十二月二十一日 月曜日(晴れ時々雪) 模試の結果が出ました!
今日は、本番前最後の模試の結果が出る日でした。心配していたけど、二條先生にいい報告ができそうです。良かった!
試験前夜の詰め込みなんて記憶に残るはずないし、毎日コツコツ積み重ねてるんだから大丈夫なのに、お父さんもお母さんも心配性がすぎる。
大学生って卒論とか就活で忙しいというし、先生は別に教員を目指しているわけじゃないのに、いつも無茶振りばかりして申し訳ないです。でも、教え方が上手だから先生は教員に向いているとわたしは思うけど。
とにかく、スケジュール外だっていうのに前日も来てくださった先生のご恩に報いるためにも、試験当日は朝にコーヒーを二杯飲んで、気合を入れて行きました。それなのに!
始まってすぐはわたしも緊張していて必死だったので、周りを気にする余裕がなく、気づかなかったのです。事件が起きたのは三科目目、一番苦手な数学のときです。集中が切れちゃって意識が散漫になったわたしも悪かったんですが……。
まさかまさか隣の席で、タヌキちゃんが試験を受けてるなんて思わないじゃないですか!
うっかり見つめてカンニングを疑われてはいけないですから、隣を見ないようにはしてました。でも、頭に柿の葉を乗せたタヌキちゃんが椅子の上で後ろ足立ちして机に向かい、配布された鉛筆を両前足で挟んで、試験用紙に一生懸命書き込んでるんです。
椅子から足を滑らせてこけたらどうしよ、とか、会場内の誰かが気づいて騒ぎになったらどうしよ、とか、そもそもどうしてタヌキちゃんが、とか、気になりすぎて集中どころじゃなくて!
それでも、わたし、先生にいい結果を報告したかったから、すごく頑張りました。偉いです。褒めてもらいたいくらい。
試験が終わったらタヌキちゃんに話しかけてみようと思っていたのに、気づいたときには隣の席は空っぽで、最初にどんな子が座っていたかも思い出せなくって、わたしってば試験中に白昼夢見てたのかなって、実はちょっと不安になってました。
夢を見るくらい完全に意識が飛んでいたなら、試験用紙は真っ白だったはずです。でも、結果はこの好成績! だから隣でタヌキちゃんが試験を受けていたのも夢じゃなく、現実だったのは間違いないです。
二條先生は口癖みたいに、「俺は自分が見たものしか信じない」って言ってますけど、わたしの話は信じてくれてると思うんです。お父さんやお母さんとは違って、いつもわたしの話を最後まで聞いてくれるからかな。
無事に大学へ行けたらイラストの練習をして、わたしが見ているものを描いて先生に見せてあげたいです。
こんなハプニングがあってもちゃんと集中できて成果を残せたんだから、本番で何があっても大丈夫。わたしはきっと合格確定です。だからやっぱり先生は教え上手で、教員に向いていると思います。
現実だってことが確定してからずっと気になっているんですけど、あのタヌキちゃん、模試の結果はどうだったんでしょうね?
見えちゃうわたしの、見ないふり。(お題:試験) 羽鳥(眞城白歌) @Hatori
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