第22話 生唾
結局ヒナミを休ませるため、一泊することになってしまった。
手伝ってくれた二人には謝礼として金貨を握らせようとしたが固辞された。
俺のお陰で一つ星になれたから、ってそれは言い過ぎだろう。
「ん……またチューしてた」
「だから治療だっていったろ」
「でもアスラさんの大きくなってました!」
「なってねえ……」
翌日、朝から騒々しく中央——エスタフルを目指していた。
あの神官がいっていた女神が勇者を望んでいるという言葉は気になったが、だからといって何かできるわけでもないしな。
今後もヒナミが狙われる可能性はあるかもしれないから、それは気をつけることにしよう。
エスタフルまで、普通の馬なら20日ほどかかる旅程だ。
そんな道のりを、レイジはなんと9日で踏破してしまった。
1日足踏みしたことを考えれば、とんでもない持久力だ。
「あー、お尻痛い」
「ん……分かる」
その分、ヒナミとリルの体には少なくないダメージがあったようだ。
俺はなんともないが、女の子がいるんだからもう少し配慮しても良かったかもしれない。
「エスタフルに着いたらすぐに休めるからもう少し我慢してくれ。ほら、見えてきたぞ」
「あれが中央ってところなんですか?」
「そうだ、俺の生まれた街でもある」
「アスラさんの故郷かぁ……」
ようやく遠くに見えてきた街だが、レイジにかかればあっという間に到着してしまうだろう。
「冒険者タグを用意しておいてくれ」
俺は胸元からタグを取り出すと、二人にそう伝えた。
エスタフルに入るためには身分の証明が必要になる。
そのためにリルも街を出る前に冒険者登録をしておいたわけだ。
「あれ、アスラさんのタグ……前に見たのと違いますね」
「よく見てるな」
俺は苦笑いをしながらヒナミに、タグを見せた。
「アフラ・サルヴァ……こっちが本物ってことですか?」
「まあそうだな。もう1つのほうはあの街でしか使えない
「弟さんに見つからないように偽名にしてるとかですか?」
「そんな感じだ」
俺たちの順番がきたのでタグを見せて、銀貨を1枚ずつ支払う。
衛兵は俺のタグを見て怪訝そうな顔をすると、責任者を呼んで話し合いをはじめた。
結果としては長く足止めされることはなく街へ入れたが、なんか嫌な感じだ。
ただ周りを見ると、別室に連れて行かれている人も大勢いたのでそれよりはマシか。
なんだか以前までのエスタフルより物々しい感じがするな。
「うわぁ、大きい街ですね!」
「そうだな。大陸にある4つの国の中央にあって、大陸としての方針を決める評議会が行われる場所だからな」
「国連みたいなものでしょうか……?」
「それはよくわからんが、ここはどこの国にも属していない特殊な場所でな」
ヒナミに中央の成り立ちを説明しながら街を歩く。
リルは後ろで朝摘んだ花をチューチューと吸っている。
「まずは宿をとって……」
「アッくん?」
随分と懐かしい呼ばれ方だ。
振り返ると、そこにはやはり懐かしい顔があった。
「シェーナか」
「うわ、本当に久しぶりじゃない。家に戻ることにしたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「っていうか結婚したの!? もう子供までいるなんて……」
シェーナはどうやらリルを俺の子供だと思ったらしい。
確かにリルは小さいが、俺とは似ても似つかないだろうに。
「ん……リル、子供じゃないもん」
リルはぷくっと頬を膨らませている。
子供じゃないなんていうと余計子供に見えちゃうぞ。
「かわいー、抱きしめちゃいたい」
「そういえばお前の家は宿をやってたよな?」
「うん、まだやってるよー。もしかして泊まるところを探してるとか?」
「ああ。部屋は空いてるか?」
「一部屋でいいなら! ちょうど戻るところだったから一緒に行きましょ」
そういうと、シェーナはリルの手を自然に掴んで歩き出す。
目に布を巻いているリルを見て、気を利かせてくれたんだろう。
「そういえば最近の
「詳しくは分からないなぁ……けど、神殿と揉めてるっぽい話は聞くよ」
「ライロがいっていたとおりか……」
遠く離れた場所だってのに、正確に情報をつかめるとはさすがだな。
冒険者のネットワークというのはそれほどに早くで正確ってことか。
「私に聞くより直接行ってみればいいじゃない」
「バカいうな、俺と
「そりゃ知ってるけど。でもご当主サマはしばらく家にいないと思うよ」
「ん、どういう……ああ、もしかして大陸評議会なのか?」
「そ。一昨日くらいから開かれているはずよ。出席者のお付きの人がウチに泊まっているしね」
どおりで街を歩いている衛兵が多いし、ピリついているはずだ。
街へ入るためのチェックが厳しかったのもきっとそのせいだろう。
大陸評議会が開かれている期間、参加する代表者は専用の建物から出られない。
機密性や安全性を担保するための措置らしいが……今の俺からすれば都合がいいかもしれない。
「変わらないな」
シェーナの実家である、宿屋を見上げて思わず呟いてしまった。
この街でも少々お高めの宿なのだが、外装がなんというか……独特なんだよな。
様々な色になる光の魔道具をふんだんに使って、ビカビカと光っているのだ。
「そりゃお父さんのセンスはそう簡単に変わらないよ……目立つことばっかり考えてるもの」
苦笑いをしたシェーナに続いて宿の中へ入ろうとすると、ヒナミが顔を赤くして立ち尽くしている。
「どうした?」
「えっと、ここってラブホテル……じゃないですか?」
「む、ラブホテルというのは?」
「恋人とかがそういうことをする場所、っていうか……あ、私は行ったことないんですけどね? ほら、まだ高校生だし?」
そういうこと、とはなんだ?となるほど俺は鈍感じゃない。
ヒナミが言いたいことは分かるが……ここはただ見た目が異常なだけで普通の宿だ。
「ここは連れ込み宿ではないぞ」
「そ、そうなんですね」
納得したらしいヒナミを伴って宿に入ると、虹色の髪をしたオッサンがカウンターに立っている。
シェーナの親父さん、昔よりもさらに派手になってやがる。
「どうも」
「おお、サルヴァさんとこの!」
「アっくんの部屋はここね」
シェーナがカウンターの向こうから鍵を渡してくれる。
それから少し躊躇いがちに口を開いた。
「ねえ、アっくん……リルちゃんをちょっと貸してくれない?」
「ああ? まあリルがいいならいいが」
ちらりと見ると、リルは小さく頷いていた。
「ん……いいよ、二人のお邪魔だろうし」
「リ、リルちゃん何言ってるのよ!? そんなわけないでしょ!」
ヒナミが顔の前で手をわたわたとさせている。
どうもリルはヒナミをからかって面白がっていそうだ。
「まあいいや、じゃあヒナミと先に行ってるからな」
用意してもらった部屋に入ると、そこはシンプルで高級感のある部屋だった。
部屋の真ん中に大きなベッドがひとつ、それからテーブルにソファまで備え付けてある。
外装はあれだけど、内装はまともなんだよな。
「見てくださいアスラさん! シャワーまでありますよ」
「ああ、それはシェーナのオヤジさん肝いりの魔道具だ。お湯も出せるらしいぞ」
ヒナミは飛び上がって喜ぶと、おもむろに服を脱ぎ始めた。
どうやら早速使ってみるらしい。
「アスラさん、一緒に入りますか?」
「入るわけねえだろ」
じゃあ俺もヒナミが出てきたら、汗を流すか。
それにしてもこんな時期に大陸評議会が開かれるなんて珍しいな。
年に2回の定期開催以外の開催ということは大陸として話し合わなければならない大きな問題があるということだろう。
一体どんな議題が話し合われているんだろうか。
まあ参加する権利を放棄した俺が考えることでもないんだろうが……。
「あの、出ました」
「ん、じゃあ俺も入ろうかな」
考え事を中断して視線を向けると、ヒナミはタオル一枚を巻いて状態で立っていた。
早く服を着ないと風邪引くぞ、そんな一言が何故か出てこなくて。
だから俺は生唾を飲み込んで、足早に水浴びへ向かった。
ゴミ拾いの英雄 〜異世界から転移してきた勇者という『ゴミ』を拾う仕事をしていた俺は、すぐに溜まっちゃう彼女と毎日ディープな行為をする〜 しがわか @sgwk
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