死腸履歴

翡翠

映像クリエイターカケル

 カケルTVを観てる君たち、映像クリエイターカケルだ。これが最後の投稿になるかもしれないが、聞いてくれ。



 ◇◇◇


 人々が求めるのは、所詮しょせん、分かりやすいもので、幽霊が出るとか、心霊スポットで奇妙きみょうな音がするだとか。それには正直飽き飽きしてた。


 こんなことを言っても、君たち視聴者には理解できないだろうな。だって、君たちはただ映像の向こう側で俺を見ているだけでしょう? 俺が感じている恐怖とか、興味とか、発信すら出来ないんだから。


 まあ、そんな愚痴ぐちを言っても仕方がないけどね。俺が映像を撮る理由は単純で、生きていくためで、金が必要で。最初はただの趣味だったけど、いつの間にかそれが仕事になって、今では食っていくために続けている。映像を撮ることで、何か大きな意味があるわけじゃない。日々のかてを得るためにやっているだけだ。


 映像を撮り始めたのは、大学を出てからだ。大学では映像学部だったけど、あんまり真剣には勉強してなかった。あまり学校が好きじゃなくて、何かを学ぶより、ただダラーっと過ごしているだけの時間が好きだった。


 俺の親父は、いつも言ってたんだよ。お前は何か熱中できる物事をしなければダメだ、って。でも正直言って、やりたいことなんて、最初からないから、そんな言葉なんか意味を成さないんだけどね。


 そんななんの興味もない俺を変えたのは偶然見た映像だった。それは何かの特番で流れた、事故の映像だったんだ。死んだ人の顔が映っていて、その瞬間、ああこれだと思った。


 俺の仕事は、人が死んだ瞬間を切り取ることだって。だから映像を撮ることに決めた。自分が撮った映像を見返すと、何かが引き寄せられるような気がして、もっと深く知りたくなった。


 でも、これが人生だとは思いたくない。思われたくもない。実際、俺はずっと孤独だった。映像を撮ることが全てだと思っていたけれど、気づけば俺は周りとのつながりを断ち切っていた。友達も彼女も何も無かった。


 でも、分かるだろ? そうやって生きることに、どこかで疲れを感じることがある。俺もそんな時期があったんだ。なんとなく、毎日が過ぎていくのが嫌で、もっと刺激が欲しくなった。でも、無理に刺激を求めても、ただの浅い面白さしか得られない。


 だから、俺は次第に異常なもの、恐怖が詰まったものを追い求めて撮るようになった。それが、求める最大の刺激しげきだった。


 それに導かれるように、メールで送られてきた『死腸履歴しちょうりれき』のリンクを開けた。あれが、俺の全てを変えた。まるで、今までの俺の生活が、あの一瞬で崩れ去ったような気がしたんだ。


 最初はただの都市伝説かと思った。でも、映像を見て、投稿者の一人に会ってみた。そして、あれが起こった。


 俺が撮る映像が、あんなものに繋がっていたなんて。最初は信じたくなかった。けれど、あのフォーラム、あの記録、あの奇妙な出来事は…運命を変えたんだよ。これから何が起きても、もう元には戻れないだろうな。


 じゃ、また会う日まで。

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死腸履歴 翡翠 @hisui_may5

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