幼い魔法使いと在りし日の夢の楽章 3話

『座ってお話を』


 開かれたお屋敷へ足を踏み入れるとそこにはレトロな洋風のフレッシュピンクの内装が目に入る。玄関から入って目の前まず飛び込んできたのは中央に位置する2階へ伸びる階段。そして左右に伸びた廊下があった。

 天井にはシックなシャンデリアが吊り下がっており優しく室内を照らしている。

 よくテレビのドラマで出てきそうなお屋敷だ。

 2人の後ろに付いてお屋敷の中を歩いていく。最初から気になっていたけど2人はピッタリくっついて歩いていてちょっと可愛いかも。

 ついて行くとティールームへ案内される。中の棚には茶葉缶が並んで一つ一つが綺麗にディスプレイされており、その隣にはティーセットが置いてある。星のシャンデリアに照らされて棚の物はキラキラしている。

 

「ミナ、ここが君の席ね」

 

 そう言って椅子を引くエニアさん。

 言われるがままに席に座ると目に前に温かくなっているティーセット。奥にシフォンケーキが置いてある。

 

「紅茶は飲める?ケーキ、今はシフォンケーキしかなくてね。この子が食べちゃって。」

 

 私はこくりと頷くとレヴェリーさんは目の前の温かくなっているカップに紅茶を入れる。

 ふわり、紅茶の香りが鼻を通る。林檎の紅茶のようだ。いい匂い。

 

「お砂糖はこの瓶に、ミルクは入れる派?」

「ミルクはあったら嬉しい……です」

「じゃあ持ってくるね、待ってて」

 

そう言ってエニアさんはたったったと奥の部屋に入っていった。

 

「嬉しそうだねあの子。君が無事に来れてよかったよ。正直心配してたんだ来れるかどうか」

 

 レヴェリーさんが席に着くと 

「まず何から説明しようかな。ここに来た理由から話そうか」

 と言って話し始めた。



 レヴェリーさんは頼まれて私をこの場所に呼んだらしい。その頼んだ人物達については濁されてしまった。その人達に私の面倒を少し見てほしいと言われたと。まだよく分からないし信じられないかもしれないけどレヴェリーさんはそのことはあとから話すから今はこの事に留意して欲しいと言われた。

 この世界は文字通り夢の中であり外とは時間の経過が違うから好きにいて欲しい、でもあまり長居すると時差ボケを起こすから気をつけるように。そしてレヴェリーさんやエニアさんとは違い私はいわば異分子。何かイレギュラーが起こるかは定かではないこと。3人でいる分にはいいけど1人で行動する時は言う事。屋敷の中で1人になるのはいいらしい。

 この世界は曖昧な位置にあるから危険なこともあるかもしれないと。


 留意して欲しいことを言うとレヴェリーさんは次は本題と称し続けて

 

「頼まれた人達にね、君たちの言う『魔法使い』にしてくれって頼まれてね」

 

 魔法使い?聞いたことあるけど私がよく知っているのは魔術師であって魔法使いはよく知らない。

 私が今住んでいる所は魔術師達の街、人が人の為に作り出した神秘の真似事を生きるために使う街。

 勿論人の為の魔術は人にしか使えない。レヴェリーさんの言った『魔法使い』は本物の神秘の使い手。ずっと昔お母さんが童話で教えてくれた、星と契約して神秘を使う者。確か灰かぶりを読んでいる時だっけ妖精の魔法使いが出てきてそんな話を聞いた覚えがある。

 私たちは人間、普通は魔法使いにはなれない。なるとしたら人じゃないって事になるけどなぁ。

 ぽや〜と考えていると

 

「急に突拍子のないことを言ってすまないね、そっちは確か基本は魔術を使うんだっけ」


 魔術の街にずっと住んでいる私は魔法を見た事すらない。どうやって魔法使いになるのかも知らない。レヴェリーさんは……いやこの事をレヴェリーさんに頼んだ人達は何を考えているんだろうか。


「レヴ!ミルクあるって言ったのにない!」


 ぽやぽやと考えていると奥からエニアさんの声がツカーンと通った。

 ミルクがないらしい。今の魔法使いになるという現実味のない話とよくある日常のミルクがない話。頭の中で紅茶とミルクがカップの中でクルクル混ざっていくような変な感じ。温度差でなかなか混ぜきらない。でも時間が経って溶けきればきっとわかる日が来るだろう。目の前の紅茶のように。

 あれ?ミルク?

 円を描いて溶けていったミルク。顔を上げるとミルクピッチャーを持ったレヴェリーさんが立っていた。

 

「量は普通ぐらいで良かったかい?」

「あっはい!ありがとうございます!」


 出来上がったミルクティーに口をつける。甘い。優しい味。

 ふんわりとした優しい味に無意識に頬がほころぶ。ここって本当に夢なのかな。夢見心地といえばそうだけど目の前のミルクティーが本物に感じて仕方がない。


「まだ何を言われているか分からないと思うから実感が湧くようなことから話そうか。」

「実感が湧くようなこと……ですか?」

「君の家族の話、特にお父さんとお母さんの話をしようか」


 わたしの家族、ずっと前に壊れてしまった4人家族。レヴェリーさんはわたしの家族のことを知っているの?教えて欲しい。なんでもいいから教えて欲しい。


「まぁまずは事実のすり合わせを。私も聞いた話で私は当事者としていなくてよく知らないこともあってね。

 で簡単に聞くけどあの日は長庚抗争の真っ只中だったね。君は病院地下のシェルターで待機してたんだっけ。」


 そう、確かあの時はちょうど長庚記念病院に用事があってそのままの流れで避難した。そしたらお母さんたちと連絡が取れなくなったんだ。

 もう随分の前で記憶が曖昧になっている。あの時妹の茜のお見舞いで1人で病院に行ったんだっけ。茜のいる病棟に行こうとしたら爆発音が聞こえて…………。走って茜のいる病室に行った。そこにあの子はいなくて大きく開かれた窓が外の景色を私に見せつけていた。

 その後の事はよく覚えてない。けど小さいながらに私は茜を名前を呼びながらずっと探していたはずなのにいつの間にか地下のシェルターに連れられてた。

 

「あの日茜を探してたはずなのに私、ずっと茜が怖がってるから早く探さないと見つけてあげないとって思って」


 言葉が詰まる。あの日何があった?夢ではよく見てたのに何も浮かばない。

 

「いつも病室で茜と絵本を読みながらいつかこんな風に魔法が使えたら病気も治るかなって話してました。お父さんとお母さんみたいに魔術じゃなくて本当の奇跡を起こせれるようになったらって」


 違う。何を言っているんだ。こんなことは聞かれていない。あの時を状況を聞かれているのに口から出るのは言い訳みたいな文章。


「うん。病院中を探したけど結局手を引かれて地下のシェルターに連れてかれたんだね。

 じゃあ、あの日あの2人には結局会えずじまいだったか……」


 そう言ってシフォンケーキにフォークを刺すレヴェリーさん。なにか考えているように見えた。

 

「姿を見せずにか……2人らしいといえば2人らしいね。私に似たか」

「レヴ?」

「いや……ミナ、さっき病気を直せるような奇跡を起こせたらって言ったね、君を魔法使いにしたとて病気を治すのはできなくてね……

 そうだね、魔法使いになったらできることできないことをまず話そうか、

 それと君に寂しい思いをさせた不甲斐ない愚弟と愚妹についても……ね」


 そう言ってレヴェリーさんはまた話し始めた。 

 


 

 

 

 

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交差する世界軸/閉鎖する時間軸 古岡 越前 @etizenseika

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