幼い魔法使いと在りし日の夢の楽章 2話

12月13日 ?

『おはよう はじめまして ようこそ』

 

 ふわり、甘い匂い。ホットケーキ?朝になったのかな?ホットケーキというか砂糖?優しい甘い匂い。なんだか懐かしい。うつらうつらしている意識を起こして瞼を開ける。


「起きた。レヴ、この子起きた。いやここでは起きたと言うより……なんだ………」


 覗き込むのは綺麗な赤毛の可愛らしいお姉ちゃん。こんな人いたっけ……。誰だろう。ふわふわしている意識を戻して行く。ぼやける視界が鮮明になってきた、もう一度さっきのお姉ちゃんにピントを合わせる。


「だれ?」


 横になっていた体を起こして目の前の赤毛のお姉ちゃんに言葉を投げかける。

 あれ?見覚えのない場所。ふわりと香る甘い優しい匂いと暖かいお部屋?明らかに自分のお部屋じゃない。


「エニア、そんなにまじまじと見てはいけないよ。ミナが状況を呑み込めないよ。

 おはようミナ。いや、時間的にはこんばんは……かな」


 赤毛のお姉ちゃんの背後から優しい声色が聞こえる。お母さんに似た声色。

 後ろから青緑の髪を揺らしながら綺麗な人が顔を覗かせている。


「初めまして……。わたし、自分の部屋にいたんですけど……。あなた達は、えっと……。」


 キョロキョロと周りを見渡して2人に再度ピントを合わせる。見れば見るほど不思議な空間。なんだか懐かしくて安心する。この人たちに警戒心が湧かない……。なんでだろう?


「すまないね。自己紹介をこういう時するんだったね。私はレヴェリー、こっちの子はエニア。君のことは知っているよ、杉奈聖奈。ミナと呼ばせてもらっても構わないかい?」


 ニコリとレヴェリーという人は笑う。優しい笑顔だけど少しぎこちない笑顔。模倣?でも何か裏があるとかそんな感じはしない。ぽーとレヴェリーさんを見ていると横から顔をじっと見てくるエニアさんの視線に気づいた。


「こらこらエニアそんなに見つめないの。ほら挨拶を、楽しみにしていたんでしょ?」


「初めまして、ミナ。えっと、私はエニア。レヴの……」

「この子は私の娘だよ」

「えっとそう一人娘、そして始めたレヴに夢世界に連れてこられたからミナの先輩ってやつ」


「はい上出来上出来、よく出来ました」


 エニアさんの頭を撫でるレヴェリーさん。このふたりは本当に母娘なんだなとふと思った。いいなぁ。いいな?羨ましい?わたしは……。

 

「ミナ、悪いね。君を置き去りにしてしまって。この子は私以外のひとと喋ったことがあまりなくてね。さて、少し説明をしましょうか」


 そう言ってレヴェリーさんはこの世界のことについて続けた。

 ここは夢世界っていう世界。夢の中で今私は夢を見てる状態ってことになってるらしい。言われてみればまだなんだかふわふわしている。でも現実味があるかと言われれば全然ない。ぐるりと周りを見渡すと石竹(せきちく)色のような宙に星がまばら。地面は海のような、でも水しぶきは立たず水門が広がる。足元に空の色が写って星も光っている。

 私が横たわっていたところはベッドのような柔らかい雲。なんだか絵本のようなメルヘンチックな世界だなと少し歩いて思った。

 レヴェリーさんはこの世界の情景は見るのものによって変わると言っていて自分の記憶から構築される夢そのものと一緒だとふいに納得した。

 夢世界は時間経過もしない全部夢として処理される、精神世界のシェルターとレヴェリーさんは言った。夢ならレヴェリーさんとエニアさんも私が記憶から作った絵本の登場人物?そんなことを考えているとレヴェリーさんが口を開いた。


「一応ここは夢だけど全部が全部夢じゃなくてね。私やエニアは実在するよ。まぁでも2人とも君と同じように現実あっち眠っている」

 

 またニコリとレヴェリーさんは笑う。なんだかふわふわした説明だけど不確定な感じが本当に夢の中ということを証明している気がした。


「まぁ私たちは随分あちらには戻ってないけど」


 しゃんしゃんと宙の星が落ちている。ここは安心するけど寂しい。そんな雰囲気。自室よりは寒く無くてとても居心地がいいのになぜかそんな気にさせる。


「随分とお目覚めの場所が遠くて悪かったね。着いたよ。ここが私たちの家だ。ミナ、私は君のことを頼まれていてね。これから君に色んなことを教えなくちゃいけない、よろしく頼むね」


 レヴェリーさんが足を止めるとじきに薄い霧が晴れていく。霧が晴れるとそこには可愛らしいお屋敷。本当に絵本の中みたい。白い綺麗で可愛いお屋敷。絵本の中に出てきそうなお屋敷を目の前に唾を飲んだ。


「入ってミナ。私、今日が来るのをずっと待ってたんだ。今日のために色々用意したんだ。なんでも聞いていいんだよ」


 ギィと音を立てながらエニアさんはお屋敷の扉を開ける。中から懐かしい温かさを感じる。かつての私の家と同じ温かさ。

 ここまで歩いてきて初めましての2人に不安を抱かなかったのが不思議だったけどそういう事か。レヴェリーさんとエニアさんからはお母さんとお父さんの同じ雰囲気を感じる。こんな感覚久しぶりでもうとっくに忘れていたはずなのに。優しい記憶と同じ感覚をしている。

 夢なのに、夢だとわかっているのに。ここにいれるならずっと居させて欲しい。そんな事まで考えてしまう。

 懐かしいと思う気持ちを弾ませながら私はお屋敷に足を踏み入れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

交差する世界線/閉鎖する時間軸 古岡 越前 @etizenseika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る