交差する世界線/閉鎖する時間軸

古岡 越前

幼い魔法使いと在りし日の夢の楽章 1話

『砂嵐』 

 思い出せ。思い出せ。あれは夢なんかじゃない。現実なのだ。

 炎の中でお母さんは私に何を最後言ったの?

 あの頃見た両親の優しい顔も。景色が混濁していく。苦悩する私を嘲笑うかのように記憶はかすれていく。

 烈火でもやし尽くされたあのささやかで優しい宝石箱のようなを日々を思い出せずに。砂嵐になったテレビの前に私は立ち尽くしているだけ。


 

12月13日 夜 

『おやすみなさいの前』

 

 家族の記憶はほぼありません。あるのは赤い赤い炎の色と喉を絞める煙だけ。もうあれから何年経ったっけ、もう随分経っただろう。夜になるといつも思い出すあの時の情景。幼い日の唯一の記憶。

 時計の音がカチカチなっている。針は11時を指す。もうこんな時間になってしまった。明日は早い時間に家を出なければならないのに何もせずまた時間を無駄にした。


「あーあ。もうこの日かぁ。早いなぁ」


 明日は家族の命日。お母さんとお父さんと妹の命日。みんなの命日。跡形もなく消えちゃった私の家族。そしてまっさらになったこの地。明日は長庚抗争があった日。青い街が真っ赤に染ったあの日。時の流れはとても無常ね。そんなことを思いながら夜は深くなる。

 早く寝ないと。電気を消して寒い冬の夜の中にこの部屋も染まる。私はこの冬の夜が嫌い。何もかもが静かになって私から大事なものを取ってしまう。寒い寒い夜。そんな夜に私は1人取り残された気がしてシングルサイズの布団の中で縮こまる。夜は怖いの。

 嫌な夢を見るから。昔の赤い赤い街の夢をずっと見ている。先生はPTSDでゆっくり治していくしかないって言ってたけどもう治療を始めて何年になるんだろう。この手の病気はずっと付き合っていくしかないのかな。これからの夜が怖くて、見る夢が怖くて1人で眠るのも本当は怖い。この歳になって言うのもだけど。

 だからいつも明日は晴れるといいな。明日は暖かいといいな。そんな小さな期待を持って目を閉じる。瞼と瞳にできた間の暗闇にそっと息を潜めて。

 おやすみなさい。私。杉奈聖奈。明日は記憶の中のみんなに会えるといいね。

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