青に響いて夢は醒む

三椏咲

青に響いて夢は醒む

―――私は今、夢を見ている。夢でなくては困るのだけれど……。

私が今立っている場所は、ただ草が生い茂っているだけの何もない場所。青空も広がってはいるが、雲が一つもなく、どこか寂し気な空だった。


……とりあえず歩いてみよう。歩いているうちに、目を覚ますかもしれない。

そう思い私はただ広いだけの世界を歩く。歩いても、歩いても……景色が変わらない。

いい加減、そろそろ夢から覚めてほしい。そうしたら二度寝をして、もっと楽しい夢が見られるかもしれないというのに。

しばらく歩いていたら目の前の景色が少し変わった。


―――人が立っている。今まで何もなかった場所にいきなり人が現れたので、私は後ずさりそうになる。けれどもう少し近くによって、立っている人の顔が見れる位置まで向かう。ひとりでいるのは寂しいのだ。それに、なんだかあの人とは一緒にいなきゃいけない気がする。

私は顔の位置がうっすらと見える位置まで移動して、草原に立っている人の顔を確認する。


あぁ、なんだ、―――か。


よ~く見知った人の顔だったので、私は安心した。私のそばにいてほしい人が立っていたらしい。

私は声をかけるべく、―――の元まで向かう。しかし、向かおうとした瞬間に、―――が走り出してしまった。


「追いかけなきゃ!」と思い、走り出した―――を追いかける。

でも、私は知っている。あなたが私よりも足が速いことを。追いつけないと分かっていても、私は走るのをやめなかった。

この何もない世界でようやく人に出会えた、それも一番会いたかった人に。だから、あなたには私の隣にいてほしい。


そう思って、私は全力で駆ける。手を伸ばしてただひたすらに―――。

それでもあなたとの距離が縮まらな……い?あれ?あれれ?


私はいつの間にか―――に追いついていたらしい。―――の手を、私は強く握っていた。

ようやく―――の顔が間近で観れた。うん、私がいつも見ている、私の大好きで大切な彼女の顔だ。

それにしても、どうしてこんなにも早く追いつけたのだろうか……、私と彼女が離れていた距離はそれなりにあったはずなんだけど。

彼女に会いたい気持ちが背中を押してくれた……とかかな。それだったら納得がいく。ここは私の夢が作り出した世界なのだから、私の思いが反映されるのは当たり前なのだ。


つまり私は、夢の中でも彼女と二人で一緒にいたいと思っているのか……。

私、彼女のこと好きすぎじゃん。……きゃー、恥ずかしいー。


そう思っていた時、どこからか鐘の音が聞こえてきた。どうやら、そろそろこの世界ともお別れらしい。

別に、特別何かあったわけじゃないけれど、私が彼女のことをどれだけ思っているかが分かったので良しとしよう。


世界が揺らめき始めて、夢の終わりがやってくる。まだ彼女の顔ははっきり見えているので、何か伝えておくべきか……いや、それは現実の彼女に伝えるべきだ。

なら今私がすることは現実の彼女にできない、ちょっとだけ恥ずかしいこと。


私は彼女の顔に自分の顔を近づける。そののまま彼女のおでこに自分のおでこをくっ付ける。これは私の夢なんだから、これくらいならしてもいいはずだ。


いよいよ私の意識が朦朧としてきた。私は彼女の体温を感じながら夢から覚めていく。

夢なのに体温を感じるのはちょっとおかしなことだけれど、それでも確かに暖かかった。


終わる世界に鐘の音が鳴り響く。永遠の愛を約束する鐘の音。その音が青空に響いて私たちの愛を祝福するかのようにこだましていた―――。



「―――お、きて、ねぇ起きてよ~」


ゆさゆさと私の体が揺れる。どうやら夢の時間は終わって、現実に戻ってきたようだ。


「起きて!遅刻しちゃう!」


どうやら私の彼女が起こしに来てくれたらしい。最後に聞こえた鐘の音はもしかしたら彼女の声だったのかもしれない。まぁ、どちらにしろ心地のいい音だ。


「ごめん、すぐ準備するから」

「もぉ~、しょうがないので手伝ってあげます!」


そう言って、彼女が私が学校に持っていく物の準備をしてくれる。そんな彼女を見て、私は夢の中の彼女に伝えなかったことを、現実の彼女に伝えてあげる。


「いつも一緒にいてくれてありがとうね」

「え?急に何?なんなの~⁉」


そう言いながら照れる彼女の手を繋ぐ。


うん、あったかい……熱いかな?


今の私の顔はきっと彼女と同じくらい顔が真っ赤に染まっているのだろう。

私たちがいる空間にはお互いがお互いを思う好きのオーラが溢れている。

この場所が私たちが帰る場所で、一緒にいられる

場所。そしてこれからも、私たちの『夢』が叶っていく場所なのだ―――。

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