雨の出会い
しゃおぽん
1話
冷たい雨がしとしとと降り続く夜。
家の近くのビルの裏路地を通りかかった時、かすかな猫の鳴き声が聞こえてくる。
「……猫の声?」
気になった周は、声のする方へ足を向ける。
そこには段ボールの中で震えている白い子猫が一匹、必死に鳴いていた。
「かわいそうに……」
周はコンビニ袋を片手に持ち直し、子猫を拾おうとした。
その時、不意に近くから苦しげな人の声が聞こえてきた。
「……誰かいるのかな?」
子猫を腕に抱きながら声の方へ向かうと、そこには壁にもたれ腹部から血を流している男がいた。
鋭い目つきと身体の雰囲気から、ただの通行人ではないことはすぐに分かる。
しかし、今の彼はひどく弱々しい姿だった。
「これは……小さな子猫と、大きな猫さんかな?」
周は冗談めかしながらもその場に立ちすくんだ。
暫く考え、子猫を抱えた片腕でビニール傘を肩にかけ、もう片方の手を男に差し出した。
「キミ、立てるかい?」
男は痛みに顔をしかめながらも、無言でうなずきゆっくりと立ち上がった。
周はその男に肩を貸し、家まで連れて帰ることにした。
自宅に着くと周はまず子猫をタオルで優しく拭き、男の傷の手当てに取り掛かった。
包帯を巻き終えると、周は男に声をかける。
「病院に行ったほうがいいんじゃないの?」
「……いや、大丈夫。」
その言葉に、周は思わずため息をついた。
男の風貌からして、彼が何者かはおおよそ察しがつく。
仕方なく周は彼をしばらく自宅で休ませることにした。
彼の名前は
侑李はヤクザの者だという事も知った。
たまたま1人の時、侑李は敵対する組の者に通りがかりにナイフで腹部を刺されたらしい。
「すごい人を拾ってしまったね」
数日が経ち、侑李の傷が少し癒え始めた頃、突然スマホが鳴り出した。
侑李はすぐに電話を取り、短いやりとりを交わす。
「キミが寝てる間、ずっとスマホ鳴ってたよ?」
「……そうだったのか」
侑李はしばらくうなされており、スマホの音に気づく余裕もなかったようだ。
「……迎えが来るらしい」
「大丈夫?もう動けるかい?」
「なんとか。世話になったな」
侑李は立ち上がると、電話の相手が自分の組の者であることを周に伝えた。
しばらくして、迎えに来た組の者が家の外で待っていた。
彼らの助けを借りて、侑李は周の家を後にした。
後日、傷が完治した侑李は再び周の家を訪ねた。
「助けてもらった礼をしたいんだけど」
「いいよ、そんなの。俺も子猫を拾ったついでだっただけだしね」
周は軽く笑って侑李の申し出を断ったが、侑李は何度も感謝の言葉を口にした。
その後、二人は不思議な縁で連絡を取り合うようになり、時折顔を合わせるような関係へと変わっていった。
雨の出会い しゃおぽん @pnsk04
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