電波少年
於田縫紀
電波少年
受かっていてくれ!
俺は祈るような気持ちで、メールを開く。
『受験番号K908133L 院棒 縁常 様
試験結果は、以下の通りです。
試験科目:SNS書き込み資格認定試験
試験級別:3級
判定結果:不合格』
やっぱり落ちていたか。
これで次の試験まで3ヶ月、
しかし俺は知っている。
俺の実力が足りなかった訳じゃない。これは陰謀なのだと。
◇◇◇
当たり前だがSNS書き込み資格を取らないと、SNSへ書き込めない。
他人の出来事やニュース、それらに対する他人の感想といった書き込みを、ただ読むだけしか出来ないのだ。
しかも認定された級によって、書き込み可能な文字数が違っている。
3級は140文字。
2級で150文字+動画10分まで。
1級となると2,200文字+動画60分まで。
特級は全て無制限だ。
かつてはSNSに書き込むのに、資格は必要なかったそうだ。
それどころか人と人が直接会って話をするなんて危険なことすら、現実にやっていたらしい。
人と人が直接会う事が禁止されたのは、俺が生まれる前の事だ。
理由や状況は資格試験の為に勉強したから知っている。
当時、無敵の人と呼ばれる連中による、無差別犯罪が増えた。
更に闇バイトによる凶悪犯罪も激増し、日常生活を普通に送ることすら危険となった。
そのくせ犯罪が発生しても、人権尊重とやらで実効性のある捜査活動ができない世情だったらしい。
その結果、人が人に会うという事そのものが危険であり、規制するのが合理的と判断された。
すぐ後に電話も禁止された。音声で話して記録が残らず即時検閲が出来ないから、犯罪を助長すると見做された結果だ。
今の俺達の生活は、その時代の延長だ。
危険を避ける為ということで、基本的には居住区の居室に1人住まい。
出歩く際は、外出申請をして許可を取った上で、定められたコースを定められた時間で歩く。
勿論他人に出会うなんて事はない。
そうならないよう許可制にして、時間とコースを調整しているのだから。
さて、人と人が直接対面するという事が禁止された結果、社会活動のほとんどは、当時ネットと呼ばれた空間へと移動した。
具体的にはWebページ、SNS、メール、ブログ等といったものへ。
今はSNSをのぞいて絶滅しているから、俺はよく知らないけれど。
その結果、犯罪もそういった空間へと移動した。
詐欺が頻発し、実害性のある陰謀論、個人や企業への誹謗中傷、デマ流布、攻撃的書き込み等が増加したのだ。
『社会の公器』とか『確かな情報』なんて自称している機関は、そういった事象の防止には全く役に立たなかった。
むしろセンセーショナルな話題を偏った見方でヒステリックに取り上げ、社会と人々の分断を煽っただけ。
その結果、ネット空間も大幅に規制されることになった。
ニュース等はAIによる検閲が入り、事実誤認の問題が多ければ配信されない。
アナウンサーやコメンテーター等の会話も全てAIが検閲し、問題が生じた場合は直ちに配信中止。問題を起こしたアナウンサーやコメンテーターは資格を剥奪となる。
個人の発信は、公共SNSのみに一本化された。
Webページやブログ、更にはメールは全て禁止。
テレグラムみたいな匿名可能な連絡方法は、勿論禁止だ。
◇◇◇
俺は思うのだ。
こんな試験だの資格だのって、本当に必要なのかと。
このままでは、俺は何も発信できない。
誰かと繋がりたいと思っても、SNS書き込み認定試験に合格するまでは、何も……
来年には俺も15歳だ。
しかしこのままでは、恋人どころか友人さえも出来ない。
AI相手なら会話出来るだろうなんて言わないでくれ。
俺は人間の相手が欲しいんだ。
こんな社会、絶対おかしい。
SNSに書き込むのに、資格認定は必要ないだろう。
人は誰も、自由に物を言う権利がある筈だ。
何故こんなおかしい事がまかり通っているのか。
実は俺は、本当の事を知っている。
これらの法律は、犯罪防止とかされているけれど、実は違うということを。
俺はかつて、SNSで読んだのだ。
真実に間違いない情報を。
この情報は、あっという間にSNSから消されて読めなくなった。
消された理由は簡単だ。
読まれると都合が悪い。真実を知られるとまずい。
そう体制側が判断したからだ。
つまり消されたという事実が、情報が真実であると証明している。
俺が知った真実を、ここで語ろう。
SNS書き込みに資格認定が必要なのは、陰謀のせいだ。
陰謀を企てて実行しているのは、政府や与党、更にはそれらを背後から操っている宗教団体や海外巨大組織の陰謀。
こうなる前にも病気の予防とされるワクチンで、大量殺人が企図したという事実がある。
この情報も知られると都合が悪いから、すぐに消されたけれど。
俺が試験を何度も落とされた理由だって、想像がつく。
俺が真実を知っているから、警戒されているのだ。
もしくは真実を知っているから、迫害されているのだ。
しかし、俺は負けない。
真実を知る者として、陰謀に立ち向かっていく。
それが俺の正義であり、社会的使命だ。
でも今は書き込みが出来ないから、SNSをパトロールする。
世界の隠された真実を知り、正義を追求する為に。
電波少年 於田縫紀 @otanuki
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