「付いてくるもの」1

2026年

5月にも関わらず、春をスキップしたかのような熱気が立ち込めていた。

ザっという音とともに、少年は左頬に熱を感じる。

その熱は、すぐにヒリヒリとした痛みとして知覚された。

手が痺れ、彼の意志に反して手に持った木刀を地面に落としてしまった。

そして、今しがた頬に感じた熱は、うち倒されて地面にこすりつけたために生じたものだと気づいた。


すばるは相変わらず全然駄目だねえ」


倒れた少年を見下ろすようにして、女は持っていた木刀を肩に担いだ。

「うるせえよ、脳筋女」

昴と呼ばれた少年は、目の前の女に向かってそう毒づく。

「ああん?もっかい倒しちゃろか?」

昴より少しだけ年上に見えるその少女が、独特なイントネーションで昴をねめつける。

「はあ…」

昴はそんな因縁をものともせず、まるで何事もなかったかのように立ち上がり、

体中についた雑草をパラパラと払い落した。

少女はそんな昴を見て、やれやれといった様子で肩を竦めた。


「あっ」

突如、昴は雑草を払う手を止め、思い出したかのように顔を上げた。

「そう言えば、築嶋つきしまさんに呼ばれてるんだった」

「あのクソ坊主?」

「一応、だいぶ年上だよあの人」

間髪入れない少女の暴言に、一応のフォローを入れる。

「依頼?」

少女はいくぶん神妙な顔つきになる。

「たぶんそう」

昴の言葉に、少女はふうっと軽く息を吐いた。

そして先ほど昴をうち倒した木刀を手に持ったまま、ぐぐっ大きく伸びをした。

「じゃあ、行くかあ」

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モノノケ喰い @takaishi_riku

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