第02話「アセンブルディメンション」

――"チャンヌイ"。それは、亀ヶ島から大陸へアクセスする場合、最短距離で行くことができる港町である。

町には空港、港湾、倉庫、銀行、工場、市場、サッカースタジアム、総合病院、リゾートホテルなど、あらゆるものが一通りそろっており、多様化した産業都市であることが見て取れる。


八潮三姉妹はそんな町の市場で、ゆう 晴奈せいなとの買い出しに付き合い、旅に必要となる最低限の日用品と、それを収める鞄を買ってもらった。

彼女とその母を港で見送った後、早速"羽針はばり"と名乗る青年から鞄をひったくられてしまい、今に至る。


羽 針「強引な方法にはなっちまったが……鞄を返してほしければ、オレと戦えぇい!!」

凪 帆「ミサ姉離れて!」

美 咲「えぇ!」


場所は繁華街の大通り、時刻はおよそ12時頃。空は晴れ渡り、海からの風が多少吹いている。

当然人通りが多い場所で戦闘を持ちかけられたので、その周囲に居た人々は大パニック。

すぐに4人の周りから退散して行った。


羽 針「さて、やっぱりま~ずは前座の……小手調べかな。ほれ、この針を避けてみろ」


そう言うと彼は、両手のひらに、直径最大5ミリメートル、長さ20センチメートル程度の銀色の針を4本ずつ、合計8本魔力で生成し、指で挟んだ。

そして間髪入れずに、素早く八潮三姉妹へ向かって一直線に投げた。

3人と羽針の間は10メートル程度離れている。2秒もあれば全員に届いて突き刺さるところだったが……。


晴 海「"パール・シールド"ッ!!」


晴海が咄嗟に、美咲と凪帆の胴の前と、自分が立っていた場所の背後に小さく防御壁を展開し、自身は隣に居た凪帆の後ろに回り込んだ!

針は全て晴海が展開した防御壁に当たり、地面に落下して甲高い音が響いた。

羽針の狙いは正確だったのだ。


美 咲「きゃっ!?」

凪 帆「うぉっ……思ったより速いな……ありがとな、晴海」

晴 海「うん」


晴海は、維持する魔力を節約するためか、一度使用した防御壁を消した。


羽 針「おや、防御魔法持ちが居たのか。じゃあ……手加減しなくても、いいよね?」


凪 帆「なんだと……?」


次の瞬間、地面に落下した針が、電源を切った時のブラウン管テレビのように一瞬光を発して消えた。


羽 針「……リミテッドマジック、"ハニーヘル"ッ!!」


彼がそう唱えると、自信の目の前に無数の針を渦巻状に出現させた。

その直径は、180センチメートルはあるであろう彼の身長とさほど変わらなかった。


羽 針「さぁ、コイツらを防ぎ切れるかな?」

凪 帆「きゅっ……急に増えすぎだろ……」


羽 針「あっ、そういや言い忘れてたけど、この針が2本以上刺さった場合……最悪、毒で死ぬよ」

三姉妹『えぇぇっ!?!?』

美 咲「あっ、"ハニーヘル"ってそういう……」

晴 海「もしかしなくても、わたしら結構まずい?」

凪 帆「そうだよっ!!」

羽 針「ハハハッ!! いいねぇ!! そういうオーバーリアクションをしてくれると、こっちとしても楽しいよ。ありがとう」


彼は無邪気に高笑いした後、すぐに真顔に戻った。


羽 針「じゃあ……そろそろ、やってみよっか」


次の瞬間、渦巻の中心に配置されていた針から、順番に八潮三姉妹の元へ高速で発射されていった。

しかし、晴海は既に配置していた。3人全体を囲む巨大な防御壁を!

無数の針たちは、全て防御壁にぶつかり、地面に落下した。


羽 針「へぇ、その防御魔法……結構丈夫みたいだな。君たちが元居た世界でも、魔法を使った経験があるとか?」

晴 海「いや、つい数時間前に初めて使ったばかりです」

羽 針「マジか!? すげぇなぁ……才能あると思うよ君! えっと……"榛名山はるなさん"さん、だっけ?」

晴 海「いえ、赤城山あかぎやまです」

凪 帆「変な自己紹介したせいで混乱させてんじゃねーか!! あとアンタはちゃんと自分の名を名乗っただろ!!」


羽 針「まぁ名前はともかく、そこのオレンジ色のドレスみたいな戦闘服を着ている子がすごいのはわかった……だが」

美 咲「……?」


羽 針「君たちは、攻撃手段を持っていないのかい? さっきからそのような素振りを見せずに、俺の攻撃を防いでばかりじゃないか」

凪 帆「ッ……!」

美&晴「……。」

羽 針「図星のようだね……。手の内を見せない作戦のつもりなのかは知らんが、初心者なら正々堂々反撃したらどうだ?」


そう言うと彼は、自分の左後ろに頭を向け、チラッと路地裏の方向を覗いた後、すぐに八潮三姉妹の居る方向へ戻した。


羽 針「……じゃなきゃ、これを見ているギャラリーもつまらないと思うぜ?」

美 咲「……そっちに誰か居るの?」

羽 針「えっ? なっ、何のことかな?」

美 咲「さっきあなたが見た方向に、お仲間さんでも居るのかな~……っと思いまして」

羽 針「いっ、いいやぁ? 別に向こうを向いたのに深い意味はないよ!!」

凪 帆「ほぉ~んとかなぁ~~??」


羽 針「くっ……あぁもうこうなりゃヤケだ!! 君たちが反撃するまで、俺は攻撃を続ける!!」


羽 針「……リインフォースマジック、"フェニックス・プロテクト"」


彼がそう唱えると、自身の周りを"紅い火の粉のようなもの"がほんの一瞬だけ包んだ。


羽 針「さぁ、遊びの時間チュートリアルは終わりだ」

晴 海「何その当て字。厨二病?」

凪 帆「アンタにだけは言われたくないだろうよ」


羽 針「なんとでも言え。俺は君たちがちゃんとまともに反撃してくるまで、暴れ続けるだけだ」

美 咲「無茶苦茶ねぇ……」

羽 針「あっ、ちなみにこの針は俺の射程圏内から出たら自動で消えるから、君たちが流れ弾の心配をする必要は無いよ」

晴 海「お~! それならよかった……」

凪 帆「心底ほっとしてそうだな」


羽 針「……リミテッドマジック」


彼は魔術技能を発動するための詠唱を始めた直後、地面を蹴って高く跳ね上がった!


羽 針「――"ニードル・サージ"ッ!!」


そう叫んだ瞬間、自身の前方に針を10本並べた列を5回生成し、左、右、左と、1列ずつ交互に大きく弧を描く変化球のような動作をしながら発射した。

晴海は前方からくる針にだけ集中して防御壁を展開したため、横から針が飛んでくることを想定できていなかった。


晴 海「なっ!?」

美 咲「ガハッ!?」

凪 帆「うおっ!?」


晴海は咄嗟に左右にも防御壁を広げたが、1歩遅かった。

晴海の左隣に居た美咲の左腕と左足に1本ずつ刺さり、被弾してしまった。


晴&凪「ミサ姉!!」

美 咲「うぅっ……動かせない……。左足と、左腕が……」


美咲はその場で崩れ落ち、跪いた。

凪帆は美咲が居た方を見て一瞬怯んだような目をしたが、すぐに視線を羽針の方へ戻し、眉間にしわが寄った。


凪 帆「……野郎ォーーーー!!」


凪帆は走り出した。自分の魔術技能が遠距離攻撃主体であることも忘れて……。


晴 海「凪帆ッ! あなたの魔術は遠距離攻撃でしょ!!」

凪 帆「ハッ……! えっと、"デイブレイク"ッ!!」


彼女は羽針に殴りかかりそうになる直前で、咄嗟に爆発する光球を3つ程自身の前方に繰り出した。

しかし、光球は羽針と接触した瞬間に爆発したため、至近距離に居た凪帆も巻き込まれ、二人とも吹き飛ばされて宙を舞った。


晴 海「凪帆ぉーー!!」

凪 帆「うおおぁぁぁぁぁーー!!」


晴海は自分の後ろに、地面から30度の角度がついた防御壁を展開し、凪帆を受け止めて倒れた反動で防御壁を後ろへ動かした。

足はそのまま引きづられているので、それがブレーキになって止まった。


晴 海「えっ、すごい。本当に一度出した防御壁が動かせちゃった」

凪 帆「妹を助けた後の第1声がそれかよ!」


爆破対象となった"奴"は、爆発によって巻き上げられた砂埃の霧に包まれていた。

退避していた大衆は、突然の爆発に悲鳴を上げながら、より遠くへと逃げて行った。


美 咲「……安らぎのさざ波」


その間に、美咲はまだ動かせる右手で左足と左腕の針を抜いて回復魔法を使っていた。


晴 海「あっミサ姉、大丈夫? 動ける?」

美 咲「う~ん……さぁ、どれくらいで動けるようになるか……でも今は左半身の感覚があまり無いわね」

凪 帆「えっ」


砂埃の霧が晴れ、羽針が姿を現した。


羽 針「おぉ~アンタ回復役だったのか。偶然だったけど、真っ先に動きを封じられて良かったよ」

凪 帆「お前ぇ……!」


晴 海「……ミサ姉、右腕は十分に動かせる?」

美 咲「えっ? ……えぇ、なんとか」

晴 海「よしっ! "パール・シールド"!!」


晴海は唐突に、美咲の目の前に、1メートル四方の正方形の防御壁を、地面に敷く形で展開した。


美 咲「……?」

晴 海「さぁ、乗って!」

美 咲「えっ……えぇ!」


凪 帆「"デイブレイク"ッ!!」

羽 針「フンッ! 同じ手は二度も食わないぞ?」


美咲は戸惑いながらも、右腕で身体を支えながら右足で地面を蹴り上げ、飛び乗った。

そして晴海はそれを確認した直後に、10センチメートル程度防御壁を浮かせた。


美 咲「わっ!」

晴 海「よっしゃ! 成功した! これで動けるよ!」


凪帆が再び起こした爆破による風が、砂を運びながら八潮三姉妹を包んだのだ。


晴&凪「うっ……!」


晴 海「……ハッ! "パール・シールド"ッ!!」


晴海は同時に3つの防御壁を生成した。高さ2メートル・幅1メートル程度の防御壁を、3人の前に作ったのだ。

――その直後だった。3人の目の前から毒針が3本ずつ、風を切りながら飛んできた。


"カランッ!"


……針が落下する音がした。

その直後、砂埃の霧が晴れた。毒針は全て、防御壁に当たって落下していた。


羽 針「……へぇ、この視界の悪さを利用して攻撃することも読んでいたっていうのか。状況察知能力が高いようで何より」

凪 帆「えっ……マジか、晴海」

晴 海「いやぁ~、なんかやりそうだな~とは思ってた」


羽 針「ではこの調子で、君たちの対空戦力も"測らせてもらおう"かな」

凪 帆「……は?」

美&晴「うん?」


そう言うと彼は、右足を大きく上げて、地面を思いっきり蹴った。

奴が腰に巻いていた黒いマントが、ひらりと舞いながら飛び立ったのだ。


羽 針「ハッハッハ~! 人さんこ~こま~でお~いで~!」


凪 帆「なっ! アイツ空を飛べるのか!?」

晴 海「人間じゃない……ってコト!?」

美 咲「そこ! 語尾をカタカナにしちゃったらアウトでしょ!」

晴 海「現実には字幕ついてないのによくわかったね」

凪 帆「いや呑気なこと言ってないで早く追うぞ!! 鞄持ってかれたままだぞ!!」

晴 海「よしっ、それ動かすよ! しっかり端っこ掴んで! ミサ姉!」

美 咲「は~い」


八潮三姉妹は、空飛ぶ羽針を走って追いかけた。ただし、1名は防御壁の座布団に乗ったまま平行移動している。


凪 帆「くっ! 人混みをかき分けながらっていうのもあるが、走ってるだけじゃとても追いつけそうにない!」

美 咲「どうしよう……早く追いつかないと鞄と持ち物を全部失くしちゃう……!」

晴 海「何か……何か空を飛ぶ手段はないものか……!?」


晴海は少し頭を下げて、走りながら考え事を始めた。


晴 海「空を飛ぶ……空飛ぶ……」


美 咲「……絨毯じゅうたん?」

晴 海「それだーーッ!!」

凪 帆「そんなメルヘンチックなもんあるわけないだろ!」

晴 海「ここにあるさッ!! まだ座布団だけど!!」

凪 帆「ハッ……マジか!? 出来るのか!!」


そして晴海は、ここで"ある言葉"を思い出した。

亀ヶ島の十八代目巫女"晴奈せいな"が言った、ある言葉を!


晴 海「……魔術とは。"要は己のイマジネーションと精神状態、そして運が頼り"」

凪 帆「やるしかないッ!! このミサ姉を載せている防御魔法を拡張して、3人で空を飛んでいる私たちの姿を! 強くイメージするんだッ!!」

美 咲「おぉ~~!!」


やがて、片側3車線の広い道路との交差点が近づいてきた。

渋滞こそしていないものの、車やバイクがひっきりなしに通過しており、大変混雑している。

だが、"絨毯"という名の防御壁を展開するには十分な場所だ!


凪 帆「おい! 開けた場所が見えてきたぞ! やるならチャンスはここしか無い!!」

晴 海「……よしっ!」


晴海は頭と目線を上げ、右腕を大きく上げた!


晴 海「"パール・シールド"ーー!! 飛び乗って!!」

凪 帆「おう!」


彼女は大通りを抜ける直前に、美咲が乗った"座布団"を3メートル四方まで広げ、それに2人は走りながら飛び乗った!


晴 海「上へ参りま~す!」

凪 帆「うわわわやべぇって! 落ちないかコレ!?」

美 咲「かがんで端っこを掴んでしがみつくのよ!」


3人は地面から20メートル程度上昇し、周囲を見渡して羽針の位置を確認した。


晴 海「居た!! 右へ曲がりま~す!!」

凪 帆「うおおっ怖い怖い!! めっちゃ風切ってるぅ!!」

美 咲「結構速度出るのね~コレ……痛っ。 舌かんだ……」

凪 帆「なにしてんだよ」


ついに羽針の姿を捉え、3人は10メートル程度の距離を空けながら追いかけ、飛んでいた。

彼は微かに八潮三姉妹の声が聞き取れた背後に視線を向けた途端、その光景に驚愕した。


羽 針「げぇっ!? なんじゃあそりゃあ!?」

晴 海「さぁ~観念しなさい!! 無駄な抵抗は止めて、さっさとその鞄をこちらに渡しなさい!!」

羽 針「クソッ……俺は舐めていたのか、コイツらの"爆発力"を!!」

晴 海「まだまだこんなもんじゃないよ~」


そう言うと晴海は、美咲、凪帆、そして自身が座っていた場所に合わせて、防御壁を分割した。


凪 帆「……へっ? うおおぁぁぁぁぁーー!!」


直後にそれぞれの防御壁は、前方に向かって伸びたかと思えばL字型に降り曲がり、捕まるところを確保したと同時に、前面を保護した。

その乗り物はまるで、22世紀の空飛ぶセグウェイのようだ!


晴 海「この防御壁は全部わたしが操縦するから、ミサ姉は少し離れた位置から動きの指示をお願い!」

美 咲「わかった!」

凪 帆「ったく、合図無しでまた危険なことしてさぁ」


凪 帆「……まぁこの際、その突拍子の無さも構わねぇさ! アタシはよぉぉッ!!」

晴 海「あっ、凪帆の一人称が戻った」

美 咲「"みんな"戦闘で高揚して、緊張状態が解けたからかしら?」

晴 海「えっ、じゃあわたしも?」

美 咲「えぇ、さっきからあなたの一人称がひらがなに変わってるわ」

凪 帆「だからなんで字幕無いのにわかんだよ」


羽 針「……準備は済んだか。俺はもう待ちたくない」

凪 帆「あぁ……さっさと鞄を返してもらうぞ、羽針ッ!! "デイブレイク"ーー!!」


凪帆はすぐさま爆発する光球で羽針を囲んだ。


羽 針「ほぅ……?」


奴は逃げもせず、そのまま迫って来る光球を受け止めた。

その瞬間、全ての光球は爆発した。さっきまでよりも火力が格段と上がっているのか、一瞬だけ炎を上げた。


美 咲「ちょっ!! 今更だけど鞄大丈夫なのそれ!?」

凪 帆「……あぁ~、どうだろ」

晴 海「考えてなかったか……」


煙が晴れ、奴が姿を現した。

気づけば奴は、戦闘開始時よりも猫背気味な姿勢になっていた。疲弊しているのだろうか。

服装も所々が傷ついているように見える。

そして肝心の鞄は、ほんの少しだけ表面が焦げついているものの、なんとか無事だった。


凪 帆「……あの鞄は随分と丈夫な素材で出来ているようだな?」

晴 海「すっごーい! さすが異世界!」

羽 針「ッ……!」


美 咲「凪帆、今度は足元付近を狙って爆発させてみなさい」

凪 帆「おう! "デイブレイク"~~!!」


続けて凪帆は奴の足元に光球を配置して爆破した。

その瞬間、ガラスが割れるような音がした。

空中を赤い半透明の破片が舞ったと思えば、すぐに消えた。


羽 針「なっ!?」

美 咲「はい続けて! あのぉ……レーザーみたいなの出すやつ!!」

凪 帆「レーザー……? あぁ、アレな」


羽 針「……"ディサイド・ザ・サクリファイス"ッ!!」

美 咲「ッ!! 晴海、凪帆を動かしてッ!!」

晴 海「はいよーー!」


奴は自身の前に5列の針を召喚し、凪帆の頭に向かって連続で発射し始めた。

晴海はすかさず凪帆を避難させるが、針は凪帆に少しだけついて行った。

どうやら自動で追尾するようである。


凪 帆「うおおぁぁぁぁぁーー!! もうちょっと丁寧に運んではくれんか!!」

晴 海「恐れ入りますが、そのご要望にはお応え致しません」

凪 帆「"致しかねます"じゃないのォ!? なんだよその無駄に固い意志は!!」


5秒程度経過しただろうか。針の連続発射が止まった。

流れ弾を含め、何本か3人の防御壁に当たったが、どれも身体に命中することは無かった。


凪 帆「……よし、今だッ!! "ハリケーンミキサー"ッ!!」


すかさず凪帆は熱線を発射する光球を羽針の周りに集中配置し、そのまま発射した。


羽 針「ハッ……!? 熱線系の攻撃魔法もあったというかぁーー!!」


――ハリケーンミキサーをモロに喰らった羽針は、自分を空中で維持する力を失い、地面に背中を向けながら落下していった。


美 咲「ちょっ……この高さ落ちたら死ぬわよ!!」

晴 海「よし、追おう!!」

凪 帆「ちょ待てよアタシたちを放置するなよ!?」


晴海は地面に落下していく羽針を一直線に追いかけて行った。

追いかけ始めた直後、彼女は少しの間後ろを振り向き、美咲と凪帆が乗っている防御壁を自身の背後に引き寄せて1列になった。


晴 海「"パール・シールド"ォ!! 間に合えーーーー!!」


晴海はすぐさま羽針の下で、奴に追従するように防御壁を生成してキャッチし、ゆっくりと地面に降ろした。

八潮三姉妹もゆっくり地面に降りて、無事着地することができた。


凪 帆「あぁ~~~~、やっと地面にありつけた……マジで生きた心地がしない……」

晴 海「そんなに怖かった?」

凪 帆「こえぇよ!! ちょっとでも足滑らせたらコイツみたいに地面へ真っ逆さまだぞ!?」

晴 海「いや、ちゃんと捕まるところ作ったんだから、それにしがみついていれば落ちる心配なんて無いよ?」

凪 帆「それはそうだが……よく魔力的なの切らさずに済んだな……」


着地した場所は、一方通行の車道1車線分と、歩道だけがある閑静な路地だった。

幸いにも車の通りは一切無く、車と衝突することは無かったが、付近の歩行者たちは空から4人も人が降ってきたことに驚いていた。

美咲は人目を特に気にすることも無く、奴のもとへ駆け寄り、鞄を取り返した。


美 咲「あ~よかった! ちゃんと鞄も持ち物も無事よ!」

晴&凪「お~!」


羽 針「――なんだよ……やれば、できるじゃねぇかよ……うぁッ」


そう言いながら、彼は震えていた瞼をそっと閉じて静かになった。


晴 海「えっ、ちょっと待って死んだ?」

凪 帆「あれぇ〜……これ結構アタシたちヤバい感じ〜〜?」

美 咲「即死じゃなかったから多分まだなんとかなるんじゃないの……?」


???「いンや、この人は気絶してるだけだよ。安心しな」


今度は路地裏のような小道から、インナーカラーとメッシュが赤い、黒髪の女性が歩いてきた。

身長は180センチメートル程度あるのではないだろうか。なせかそのくらい大柄な女性だった。

それに続くように、後ろから二人の男性が出てきて、会話をしながら羽針を担いでどこかへ運んで行った。


男性1「ったく、いくら珍しそうだからってぇ何も女に手を上げるこたぁ……ねぇだろ~お?」

男性2「まぁ羽針はただ戦いが好きなだけだから……なんかいつもよりあっけなくやられたみたいだが」

男性1「最近の外来人は随分とたくましいんだなぁ~……」


晴 海「……なんだか次々と新キャラが出てくるなぁ」

凪 帆「キャラって言うなよ」

美 咲「……ところでぇ~、あなたは?」


アンネ「あぁ、私はこの辺に住んでいる"アンネ"っていうんだ。なんだか騒がしい様子だったから、安全な場所から野次馬してみただけさ」


アンネ「それより、君怪我してるみたいだけど……大丈夫なのか?」

美 咲「あぁ、お気遣いありがとうございます。回復魔法と包帯を持っているので、その内治ります」

アンネ「それならよかった。……ところで、あなたたちは外の世界から来たんだって?」

晴 海「はいっ!そ~~うなんす!」

凪 帆「それちょっとここで言うには危ないぞ晴海」


アンネ「すごいなぁ……次元が違うのにどうやって来たのかめっちゃ気になるよ!!」

晴 海「寝て起きたらなぜかこの世界に瞬間移動してました!」

凪 帆「いざまとめられると、本当にわけがわからんな……」

美 咲「きっとこの世界にご縁でもあったんじゃない? 知らんけど」

凪 帆「"知らんけど"はやめて?」


アンネ「アッハハ! 君たちって面白いねぇ」


そう言うとアンネは、おもむろに自身の右手首を目線の前に持ってきて腕時計を確認した。


アンネ「……ちょうどお昼時だし、そこのレストランで食事とかどうかな?」

美 咲「えっ……?」

アンネ「外の世界のこととか、すごく興味があるんだよ。是非聞かせてくれないか? もちろんお代はあた……私が全額支払う!」

凪 帆「……いいよな?」

晴 海「まぁ、いいんじゃない?」


二人は互いで確認すると、美咲に目線を送った。


美 咲「……なんで最終判断が私なの?」

凪 帆「ほら、長女で一応社会人手前だし?」

美 咲「……えぇ、まぁ私たちもこの世界の勝手がまだわかりませんし……お言葉に甘えさせていただきます」

アンネ「ありがとうございます!」


アンネに道案内をしてもらいながら、三姉妹はレストランに向かって歩き始めたのであった。


凪 帆「……そういえば、なんでアイツ私の攻撃を避けようとせずに、素直に喰らったんだ?」

美 咲「さぁ……。アレじゃないの? あの……なんとか・プロテクトとやらを過信してたんでしょ」

凪 帆「ふ~ん……」



  ◇



八潮三姉妹一行はレストランに入店した。

木製の椅子に、天板が正方形となっている木製のテーブル。黄色い天井に一定間隔で埋め込まれた白熱電球。

店内はTシャツを着た若者や、老夫婦、子連れなどでごった返していた。

一行は、正方形のテーブルの周りを囲むように配置された椅子へ着席した後、なんとか店員を捕まえて注文をしているところだ。


アンネ「これとこれとこれを1つずつ……あと、これを4つ頼む」

店 員「かしこまりました」


注文を済ますと、店員は伝票を持って厨房へ渡しに行った。


凪 帆「う~ん……結局何語なんだこれ。写真も無いから分からん」

アンネ「だいじょぶだって~! 私は何回かこの辺の店にも来るからなんとなく分かる」

凪 帆「えっ、この変な文字が読めるわけでは無いのか?」

アンネ「この辺の方言は複雑だからねぇ……単語のニュアンスが全然違う時もあるから正直具体的には分からん」

美&凪「えぇ……」


そんな気の抜けた会話をしている一方で、晴海はこの景色からメニュー表の文字まで、全てが物珍しいからか全体をとにかく見回していたのであった。


凪 帆「お~い、あんまキョロキョロしてるとそういう馬鹿だと思われるから止めな」

晴 海「おっと」


アンネ「……しかし、アイツの弱点が熱を伴う攻撃だなんて、よく分かったね」

凪 帆「えっ? そうだったんすか?」

晴 海「何それ知らない」

美 咲「たまたま凪帆の攻撃手段が爆発と熱線レーザーしか無かったので……」

アンネ「意外と深くは考えない戦法なのねあなたたち……」


美 咲「いや~……そうなると、やっぱりスズメバチモチーフってことよねぇ……。なんか色合い蜂っぽいし毒針発射するから、まさかとは思ってましたけど」

アンネ「おう、そこまで察することができるんだったら上出来だよ。スズメバチっていうのは、他のミツバチと比べて、僅かに熱に弱いんだ。よく知ってるね」

晴 海「しかも平然と空飛んでたよね。地面を蹴ってさ」

凪 帆「羽も無いのにどうやって……というかアイツそもそも人間なのかぁ?」


アンネ「いや、人間じゃないよアイツは」


三姉妹「え゛っ!?!?」


アンネ「この世界の住人達は、大きく分けて7つの種族に分類できる」

凪 帆「いや多いな……」


アンネ「まず"人間"、それから"魔法使い"、"妖怪"、"天使"、"悪魔"……そして、"魔妖人まようじん"だ。」

三姉妹「"マヨウジン"……?」


アンネ「あぁ。魔法使い・妖怪・人間の3つの要素を持った、この世界で最も強いと言われている種族の1つだ」

晴 海「あっ、放浪者みたいな生物が居るんじゃないのね」

凪 帆「迷い人の読み間違えではないだろさすがに……多分漢字なんて無いだろうし」


美 咲「つかぬ事をお訊きしますが、今ここを"この世界"と呼称していましたよね……正式名称はありますか?」

アンネ「ん? あぁ、この世界全体の名前は【アセンブルディメンション】だ。といっても、ちゃんと固有名詞で呼ぶことなんてあんまり無いけど」

晴 海「アセンブル……ねぇ」


アンネ「元々この世界は、"様々な次元に存在していた世界が何者かによって統合された世界"なんだ。この名前はそれを意味している」

凪 帆「様々な……次元?」

アンネ「例えるなら、元々バラバラに配置されていた惑星が突如として1つの惑星に統合されて、地続きになっちゃった感じ?」

三姉妹「すごい分かりやすい!!」

アンネ「おう、そりゃ良かった」


アンネ「ちなみに、次元の終端だった所は水路みたいになってるから、見つけたら"ここと向こうは元々別次元だったんだな~"くらいに考えてくれ」


アンネ「……で、話を戻すけど、まだもう1つ空きがあるな?」

晴 海「うん、まだ6つしか聞いてないね」


アンネ「最後は……【人型魔術機関】だ」

凪 帆「……はい?」


アンネ「魔術機関っていうのは……まぁ、簡単に言えば魔力を含む石……"魔石ませき"を燃やして発生した、気体状の魔力で動く内燃機関だ」

美 咲「蒸気機関の仲間では……無さそうですね」

アンネ「もちろん。石のような物を燃やすところは似ているが、全くの別物だ。蒸気機関は水を蒸発させて、その蒸気でシリンダーやタービンを動かすことで初めて動力となるわけだが、魔術機関は魔石を燃やした時に発生する気体をそのまま動力に使っているからな」


晴 海「そんな大掛かりになりそうな装置を人型に?」

アンネ「できちゃうんだな~これが。なんたって魔力で動かす最大のメリットは、"魔法陣でいくらでも省スペース化できるから"だ」

凪 帆「魔法陣ってそんなに便利なんですか?」

アンネ「あぁ、魔法陣に予め"これを受け取ったらこう動け"ってプログラムして設置すれば色んなことができるんだ。正に可能性は無限大ってヤツよ!」

晴 海「魔術と科学の合わせ技ってスゲー……」


アンネ「まっ、開発もまだ全盛期には入ってないから、そいつに会いたいなら"キッシュブレン・シュタッド"にでも行くんだな」

美 咲「あっ! そこ私たちの目的地なんです!」

アンネ「おぉ~そうだったか! じゃ結構な道のりだな」


アンネ「キッシュブレンは、この世界で最も栄えている大都市の内の1つであり、魔術と科学の最先端技術が詰まっている都市でもある。そこに行けば、この世界の大体の情報はもらえるよ」

凪 帆「へぇ~、じゃあアタシらで言うところの東京みたいなもんかな?」

晴 海「聞く限りじゃそうっぽいけどね」


アンネ「ちなみに場所によっては、一方通行の4車線道路とかあったりするぞ。面白いだろ?」

晴 海「東京じゃなくて大阪だったか……」

美 咲「うちらの世界にある"大阪"っちゅう所には、"御堂筋"という一方通行6車線道路があるんですわ」

アンネ「なんと……!?」

凪 帆「言い出しっぺのアタシが言うのもアレだが日本のことで天狗になるのは止めてくれ。あとキャラがブレッブレだぞ今のミサ姉」

晴 海「日本だけに"天狗になってる"ってこと?」

凪 帆「やかましいわ」


そうこう話している内に、2人の店員が料理を運んで来た。

運ばれてきたメインディッシュは、揚げ焼きにされた羽虫を盛った野菜炒めや、タレがたっぷり塗られた爬虫類であろう生物の唐揚げ、得体の知れない大きな魚の姿焼きの計3つで、それぞれ大皿に盛られていた。

それに続けて、謎の赤黒いブロックと葉菜類が入ったヌードルスープと、何も載っていない小皿が人数分運ばれてきた。


凪 帆「……お~ぅ」

美 咲「えっと……可食部はどこでしょうか……」

晴 海「ビジュアルすごいね……」

アンネ「ハッハッハッ! まぁなんだっていいじゃないか。こんなに繁盛した店で出てくる料理なら、何食べても美味いだろうよ!」


店 員「ご注文は以上でよろしいですか?」

アンネ「あ~……いいよね?」

晴 海「これだけの量有れば十分でしょ」

美 咲「そうね」

凪 帆「大丈夫っす」


アンネ「じゃあ、お会計頼む」

店 員「はい、326ルバになります」

凪 帆「その場で会計するんだ……」


アンネ「はい、ちょうどだ」

店 員「……はい、確かに326ルバ頂きました。領収書です。ごゆっくりどうぞ~」


テーブルへの配置と会計が終わると、2人の店員はスタッフルームに戻って行った。


美 咲「……ルバってなんですか?」

アンネ「あぁ、この世界の共通貨幣だよ」

美 咲「……例えば、パンを買おうとすると何ルバくらいですか?」

アンネ「パンねぇ……店とサイズにもよるけど、直径10センチメートルくらいの丸いパンなら、大体1個10ルバが相場かな」


晴 海「……日本円換算で大体1ルバにつき10円くらい?」

凪 帆「多分そんなもんじゃね? 多少物価は高いかもしれないが」


――そうして、料理を前にして全員で手を合わせた。


4 人「いただきます」


食べ物の恵みに感謝した後、アンネはまず、料理と一緒に運ばれてきた半透明のポリ手袋をはめて、大きな魚を解体した。


晴 海「おぉ~! 結構手慣れているんですね」

アンネ「おうよ、このくらいの大きさの魚なら、あた……私と友達でよく行く食堂でシェアして食べるからね。もう慣れたよ」


そう言いながら、アンネは空の小皿に魚の塊を載せた。

一番見た目がまともそうな魚を先に載せたのは、外来人に対する配慮なのだろうか。


アンネ「他のメインディッシュは、自分のナイフとフォークで皿に載せてくれ」

晴 海「は~い」


4人は小皿に載せられた魚の切り身を、ナイフとフォークで切り分けながら食べ始めた。


晴 海「んっ! ちょっとしょっぱいけど、結構脂がのってて美味しい!」

凪 帆「うん、悪くは無いな」

美 咲「いやぁ~、今更だけどこんなに食べたら太っちゃうわねぇ~~」

凪 帆「どうせこのカロリーほぼ全部消費するくらい歩くんだろうし、むしろめっちゃ太るレベルで食べなきゃもたないだろ」

美 咲「ヒェッ……太ることよりも筋肉痛が心配になってきたわ」

晴 海「アハハ! 確かに!」


ある程度食べ終わると、各々目についた料理に挑戦した。


美 咲「虫が入っているとはいえ、野菜炒めですから。野菜と一緒に食べればそんなに気にならないはず……」

凪 帆「えぇ……勇気あるなぁ~」


美 咲「……あら、カリカリしてて意外と美味しいわね。エビを素揚げしたみたいな食感。味は醤油みたいなものが染みてて普通に美味しいわね」

晴 海「おっ! じゃあわたしもも~らい!」

凪 帆「アタシも~」

アンネ「んじゃあ、私も」

三姉妹「どうぞどうぞ」

アンネ「なんだその完璧なハモリは!? まるで事前に訓練でもしていたかのように!」

晴 海「わたしたち日本人なら大抵の人はできると思いますよ」

美 咲「とある国民的なコメディアンのネタでしてよ」

アンネ「日本人ってすげー……。どこの国かは知らないけど」

凪 帆「ハハッ……」


魚と野菜炒めを完食した後は、爬虫類であろう生物の唐揚げを小皿に載せ、食した。


晴 海「ンムッ……おぉ~ほとんど鶏肉の唐揚げだべ。タレも甘辛くて美味しいし」

美 咲「このお肉がトカゲなのかヤモリなのか、それすら我々の科学力では分からないのですわ……」

アンネ「いやこの大きさでヤモリは無いでしょ……こんな12センチメートルくらいあるヤモリがその辺跋扈してたらビックリだよ」


凪 帆「なぁ、このスープに入ってるブロック……なんかプリンみたいな食感だし、さっぱりしたスープの出汁が染み込んでて美味いぞ!? なんだこの食べ物……」


アンネ「どれどれムグッ…………ゴクッ。これアレじゃないか? なんかの血を固めてゼリー状にしたヤツ」


凪 帆「えっ……」

晴 海「えっ……」


美 咲「あら、この世界にもあるのね。血の塊で出来たゼリー。確かベトナムだと鴨の血とか使ってた気がする」

凪 帆「もしかして私たちがやってることって、実はただのベトナム観光? 異世界に居るというていでベトナム観光してもらうドッキリ企画?」

晴 海「わざわざ南の島に拉致したり魔法を習得させてまでやることかいな」

凪 帆「ほなベトナム観光とちゃうか~……」



  ◇



料理を全体の半分以上食べ進めた段階で、アンネは本題に入り始めた。


アンネ「……で、あとなんか訊きたい事はあるかい?」

美 咲「私たちは、"青姫"という名前の、青い亀の姿をした神様を追ってキッシュブレン・シュタッドに向かう予定なのですが、その神様についてなにかご存知でしょうか?」

晴 海「この町の港からモーターボートで20分くらい行った先にある、"亀ヶ島"の出身らしいんですけど!」


アンネ「青姫……? 知らないな。ずっとここに住んでるけど、それっぽい事は聞いたこと無いよ」


晴 海「はぁ……聞いたことない、ですか……」

アンネ「亀ヶ島って言ったっけか? あの島は別に観光向けでもないし、引っ越しに行く人もそうそう居ないだろうから、アンタ達が思っているよりも結構排他的な所だと思うよ」

凪 帆「そうっすか……なんか意外」

美 咲「景色は綺麗でしたけどねぇ~」


アンネ「なんだ、アンタ達実際にあの島に行ったのか。何をしに行ったんだ?」

晴 海「行ったというか、気が付いたら亀ヶ島で目が覚めたっていうか……」

アンネ「リスポーン地点がアセンブルディメンション最南端の島ってマジかよ」

凪 帆「いや"リスポーン地点"て……」

アンネ「こう見えて、私も小さい頃は兄とテレビゲームをよくやってたもんだよ。といっても"付き合わされてた"って感じだったけど」

凪 帆「あぁ、そういうこと……」


会話のテンポが落ちてきたことを気にしているのか、晴海は"待ってました!"と言わんばかりに、話題転換をするべく会話に割り込んだ。


晴 海「それじゃあ、わたしたちの住む世界……"地球"の事をお話ししましょうか! 何から訊きたいですか?」

アンネ「おっ、いいのか! そうだなぁ~……山ほどあるけど、まずその地球とやらに魔術は存在するのか訊いてみたいな」

晴 海「魔術……事実上フィクションの世界ですね。特定の土地の民族が伝統的にそれっぽいことをしている国もあるみたいですけど」

アンネ「えぇ~~マジか……じゃあ魔妖人は居るか?」

晴 海「居ませんね」

アンネ「天使も?」

晴 海「うん」

アンネ「悪魔も?」

晴 海「うん」

アンネ「人型魔術機関もぉ~??」

晴 海「普通に科学の力を駆使した人型ロボットしかありませんよ」

アンネ「なんと……この世界は地球とやらには無い物ばかりだったのだな……」


凪 帆「逆に言えば、どっちの世界の"当たり前"も通じないって事か……」

美 咲「所謂異世界ってそういうもんじゃないの? "アセンブルディメンション"とやらは、中世なんかよりもやたら現代的みたいだけど」


アンネ「魔術が無いなら、大きな外傷とかはどうやって治すというのだ……」

晴 海「えっ……けがの程度や種類にもよりますけど、消毒して止血して薬を使って治療しますけど……」

アンネ「随分と面倒くさいんだな」

晴 海「えぇ!?」

アンネ「でも安心してくれ。この世界には"医療用回復魔法"っていうのがあって、病院に行けばどんなけがも数十秒で治せるよ!」

三姉妹「何それすごいッ!!」



 ◇



晴 海「ふぃ~~……意外と美味しかったね」

美 咲「そうね! やっぱり見た目で決めつけてちゃダメみたいねぇ……」

凪 帆「んじゃ……」


三姉妹「ごちそうさまでしたっ!」

アンネ「えっ、何その掛け声。なんかの宗教にでも入ってるの?」

晴 海「わたしたちが住んでいる"日本"という国では、食事の始めと終わりの時に、食べ物の恵みに感謝するのがマナーなんですよ~」

アンネ「へぇ~~、終わりの時もか……なんだか、ちょっと厳かなんだね。日本の食事って」

凪 帆「そう……なんですかね?」


4人はレストランを去り、片側2車線程度の大通りに出た。

するとアンネは、遠くの方に山脈がうっすらと見える方角を指さした。


アンネ「あの山に向かって、ひたすらこの道を辿っていけば、いつかはキッシュブレンに着くさ。あのひとつだけじゃなくて、何回も山を越えるから、覚悟しとき」

凪 帆「うへぇ〜……ヤバそ」

美 咲「方角は……北北東になるみたいね」


三姉妹はゆう 晴奈せいなとの買い出しの際、方位磁針も購入済みであり、カバンの中に仕舞っていたのだ。


アンネ「おっ、方位磁針を持ってるのかぁ。じゃあ大丈夫そうだね! わかんなくなったら、その辺の通行人にでも聞きな」

三姉妹「ありがとうございました!」

アンネ「あぁ! 気を付けてな!」


アンネはそう言いながら北北東とは反対の方向へ歩き出し、八潮三姉妹に背を向けながら軽く手を振った。

三姉妹はそれを見送った後、キッシュブレン・シュタッドへ向けて再び出発した。




……アンネは、三姉妹が自身の方へ目線を向けなくなるほど遠ざかったのを確認すると、懐から小型の無線機器を取り出した。

その瞬間、アンネの表情が一転し、目つきが鋭くなり、口角が下がった。


アンネ「こちらコードネーム"アンネ"。やっと外来人共へのチュートリアルごっこが終わったよ……。集合場所には着いたかい? バカ共」

男性1《おうよ。羽針も意識を取り戻してぇ、会話が出来るようになったぜ~》

羽 針《ども……》

アンネ「よし、あたいがそっちに到着次第、報告の準備だ。さっさと帰還しないとハイウェイも混むし、迅速にな」

男性1《了解したぁ》




――同時刻。外来人の噂を小耳に挟んだ少女が、ここに1人……同じく大通りのどこかを歩いていた。


???「……外来人ねぇ。そんなに珍しいことなんだったら、会ってみたいなぁ〜」




――次回、第03話「存在しない記憶」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マギアポリス探訪記 アノルデンこまち @Anorden_Komachi27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ