第2話 初めての店で

 初めて訪れたのは、秋の深まってきたふた月前。仕事の打ち合わせ後に道を間違えた際、ふらりと路地裏のその店に入った。


 店の雰囲気は悪くない。インテリアは、落ち着いたモノトーンをベースに、カクテルの色を思い起こさせるパステルカラーの配色がほどこされている。心地良かった。


 マスターは中年の男で、淡々と仕事をこなしながらも物腰は柔らかだった。


「ホワイト・ルシアン」


「ホワイト・ルシアンですね」



 注文をとったマスターは、笑顔のまま僕の顔を見て、はっとした様子だった。


「何か? 別なものの方が良かったですか? 初めてでよく分からないから」


「いえ、何も。お客様はこの店は初めてなのですね?」


「はい」


 僕は何か違和感を感じた。マスターが「初めて」という言葉を強調したからだ。


 その後、このマスターは二、三、僕に話題を振ってきた。それ自体はこういう店ではよくある事。だけどその話題の振り方は、微妙に僕にカマをかけている感じだった。


「お見かけしないお顔ですが、こちらへは最近いらしたんですか」と訊いたかと思えば、「知り合いがこちらにいるのですか?」とさり気なく訊いてきたり。

 その度に僕は、手短てみじかに答えた。「はい。三ヶ月前から仕事で来ています。半年間の予定ですが」

「はい。知り合いというか、祖父母がこちらで以前、酒屋を開いていました。子どもの頃の話ですが。僕も一時期、ここで暮らしていました」



 僕がこのような目付きに出会うのは、この土地で、この店が初めてではない。

 会社の新店舗の立ち上げを手伝うためにこの土地に来て三ヶ月。街なかですれ違う人達の中に、たまにハッとしてこちらを振り返る人の視線を感じていた。

 きっと僕に似た誰かがこの土地にいるのだろう。それにしても話しかけてきたりせずにすれ違うところをみると、一体僕に似ている誰かってどういう人物なんだろうと考えてしまう。

 好奇心にかられながらも僕には、実は一つ心当たりがあった。


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2024年12月17日 18:00
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ウインター・マーブル・ガーデン 秋色 @autumn-hue

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