異世界渡航許可試験

ソコニ

第1話

「はい、異世界渡航許可試験を始めます」


試験官の声に、私は思わず二度聞きした。教室には、チートスキル待望組や転生志望者たち約50名が集まっている。まさか異世界にも入国管理局があるとは。


「第一問」試験官が続ける。「あなたは異世界で魔王を倒そうとしています。しかし魔王は『働き方改革』を導入し、部下である魔物たちの労働環境を大幅に改善したことで人気者になっていました。さて、あなたはどうしますか?」


隣の受験生が悩ましげに鉛筆を噛む。「これって、魔王は倒していいの?」


「第二問」容赦なく試験は進む。「異世界の王様から『勇者になってほしい』と言われました。ただし、雇用形態は業務委託。社会保険なし。給与は成功報酬型。さあ、どうしますか?」


「ブラック企業じゃん!」誰かが叫ぶ。


「第三問。チートスキルとして『最強の剣術』を手に入れました。ただし、使用する度に『剣術家口座』から使用料が引き落とされます。初期費用98,000ゴールド、月額利用料29,800ゴールド(税別)。契約期間は10年縛り。解約料は残月分の全額。さて、契約しますか?」


「それただの住宅ローンやん!」


「第四問」試験官の口調が厳しくなる。「異世界でハーレムを作ろうとしましたが、現地の『ハーレム形成規制法』により、申請が必要になりました。必要書類は:

1. ハーレム形成計画書

2. メンバー全員の同意書

3. 経済的基盤証明書

4. ハーレム保険加入証明書

5. ハーレム管理責任者講習修了証

どうしますか?」


教室中が溜め息。


「第五問。スライムに転生しました。ですが、スライム種の最低賃金は人間種の半額で、昇進も難しく、福利厚生も乏しいことが判明。このような種差別にどう対応しますか?」


「労働組合作ります!」誰かが叫ぶ。


最終問題。「異世界転生後、『転生者による地域経済への影響に関する調査』に協力させられました。調査項目は以下の通りです:

- 現地通貨の価値下落について

- 錬金術による市場混乱について

- チートスキル乱用による地域産業の衰退について

- 突然現れた勇者による失業率上昇について

どう答えますか?」


試験終了後、合格者は誰もいなかった。


「実は」試験官が明かす。「これは『現実逃避防止試験』でした。異世界も、結局は社会なんです。税金も、規制も、面倒な手続きも、全部あります」


「じゃあ、異世界に行く意味なくない?」誰かがボヤく。


「やっと分かりましたか」試験官が優しく笑う。「現実から逃げるより、目の前の世界を良くする方が、よっぽど冒険だと思いません?」


私は履歴書を取り出した。明日から就活だ。


「あ、でも」試験官が付け加える。「これは全部嘘かもしれません。だって異世界ですから」


なんだかすっきりした気分で、私は教室を後にした。


(終)

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