【番外編】ゲーム作りは大変です

※本日の更新は番外編です!


これは罪園つみぞのとのダンジョン攻略バトルより少し前。


罪園に呼び出されて、俺は彼女が社長を勤める罪園CPのオフィスを訪れていた。


「何の用だよ、罪園。母さんとの恋愛営業については、ダンジョン攻略バトルで決着を着けるって話だっただろ?」


「本日は別件です」


社長室にいた罪園は相変わらずのビジネススーツ姿。

いつものデスクではなく、何故か会議室などで見かける長机の前に座っていた。


「別件って?」


「以東くんに協力してもらいたい案件がありまして」


そう言って取り出したのはカードゲームのデッキだ。

背面に書いてある文字は――


「スピリット・キャスターズ?

 聞いたことないゲームだな」


「まだ存在を知らないはずです、弊社が開発中のカードゲームですから。他言無用にお願いします、社外秘の案件ですので」


社外秘なら部外者の俺にベラベラと喋るなよ……。


「あれ? 罪園の会社って、たしかコンピュータゲームの会社だったよな……カードゲームって言ったらアナログゲームだろ? 今度はそっちの業界にも進出するのか」


「否定します。これはアナログゲームではなく、コンピュータゲームの中で遊ぶカードゲームです。テストプレイ用に印刷したサンプルですね、ここにあるデッキは」


「なるほど、DCGってやつか」


DCG――デジタルカードゲーム。


スマートフォンやPCといったコンピュータのアプリで遊ぶDCGは、近年大きく流行っているゲームジャンルの一つだ。

既存のアナログゲームをデジタル化したゲームはもちろん、最初からデジタル用に作られたオリジナルDCGもヒット作は数多い。


「DCG、俺もちょくちょくやってるけど面白いよな。デジタルだから対戦相手はすぐにネット上で見つかるし。強すぎるカードが出てもナーフ(弱体化)でゲームバランスの調整がしやすかったり、たくさんデッキを作っても持ち運びが楽だったりさ」


「DCG? 弊社はDCGを作るとは言っていませんが」


「え、でもカードゲームを作るんだろ?」


「否定します。です、弊社が作るのは」


――は?


「お、乙女ゲーム???」


乙女ゲームって、ギャルゲーの女の子が遊ぶ版みたいなやつ、だよな……?


「主人公が女の子で、イケメンの攻略対象キャラクターとイチャイチャしたりして、好感度上げてルートに入ってっていう……あの!?」


罪園はこくり、と頷く。


「肯定します。弊社が作るのは攻略対象がデュエリスト(カードゲーマー)しかいない乙女ゲームなのですから」


「なんなんだよ、そのゲームは!?」


「攻略対象がデュエリストしかいないので、ゲーム内でカードゲームを遊ばなくてはなりません。そこで生じたわけです、オリジナルのカードゲームを開発する必要が」


「いや、でもさ……カードゲームを遊ぶのって、普通はガキかオタクだろ?」


俺自身もカードゲーマーだから、他人のことは言えないのだが。


「攻略対象がみんなカードゲーマーって、なんだかシュールなゲームだな……」


舞台は秋葉原で確定――いや、最近は池袋、新宿、高田馬場あたりもカドショ(カードショップ)は多いか。


俺がそう言うと、罪園は首を横に振った。


「否定します。ゲームの舞台は異世界です」


「異世界だと!?」


「物語の舞台は『エリクシル』と呼ばれる世界。

 中世ヨーロッパをモデルにした、

 いわゆる「剣と魔法とカードの世界」です」


「それを言うなら「剣と魔法の世界」だろ。

 なんか変なの混じったぞ」


決闘デュエル――カードゲームの実力が全てを決めるその世界では、王侯貴族の子女はカードゲームを学ばなくてはなりません。そこでカードゲームを学ぶための王立アカデミーが設立されるのです」


「世界観がホビーアニメすぎる……」


「そこに平民でありながら光魔法を使える少女が、貴族しか入れない学園に特別に入学を許されて――学園内でイケメン王子や他国から留学している貴族の御曹司などに「へー、おもしれー女」と見染められて恋に落ちていきます」


「急に乙女ゲームになるなぁ!」


「しかしカードゲームで世界を滅ぼそうとする闇のデュエリストたちが現れて――」


「またホビーアニメになった」


「主人公の少女は攻略対象のイケメンとタッグを組んで、闇魔法の使い手に挑み……二人はついにカップルとして結ばれるのです、悪の手先に勝利して!」


「……これは、乙女ゲームか? いや、ホビーアニメな気もするな」


乙女ゲームとホビーアニメの寒暖差で整うつもりか?

意味不明のサウナをやめろ。


「そういうわけで、以東くん」


罪園はプレイマットを机の上に敷くと、デッキをシャッフルし始めた。


「以東くんにはテストプレイをお願いします」


一応、頼みたい内容は理解したが……


「どうして、俺なんだ? カードゲーマーならいくらでもいるだろ。別に俺じゃなくたって」


罪園はサファイアの輝きを秘めた瞳でじっと見つめる。


「弊社が――」


シャッフルしたデッキを俺に差し出しながら、罪園が云った。



「遊びたかったからです……以東くんと」



「……っ!」


「高校を卒業してから、母の言いつけで、弊社は罪園ザイオンCPの社長に就任しました。それからはプライべ―トの時間を取りづらくなり……」


「母親――罪園のお母さんって、あのザイオンテックの社長なんだよな?」


ザイオンテック――

「揺り籠からミサイルまで」で知られる巨大多国籍企業だ。


ダンジョン公社とも提携しており、その独自の技術開発力によって、俺たちの装備品やアイテムは全てザイオンの関連企業で製造されている。


「母は日本支社のCEOです。

 いずれは、弊社に後釜を任せたいと」


「ここの社長業も帝王学の一環ってことか……」


大学生としての生活、

社長としての生活、

冒険者としての生活――


罪園にはプライベートの時間はほとんど無い。

今、こうしているのも社長業の一部。


「だから、俺を呼んだのか。仕事にかこつけて、カードゲームで遊ぶために」


「肯定します。これは合法的なサボタージュです」


普段は表情をぴくりとも変えない罪園の唇が、少し上がった気がした。


合法的、って。

別に仕事をサボるのは違法じゃないだろ……でもまぁ。


俺も罪園と会えなくて寂しかったのは事実だ。


「……オッケーだ。そういうことなら、とことん遊び尽くそうぜ」


差し出されたデッキをカットして、罪園のプレイマットに戻す。

俺も自分のデッキを手に取ってシャッフルする。


「テストプレイとはいえ、本気でやらなきゃテストにならないしな」


互いにデッキを置き、目線を交わす。

久しぶりにワクワクする気持ちが戻ってきた。


俺と罪園は、声を合わせて叫ぶ――



「「決闘デュエルッッッ!」」

















「で、初期手札は何枚なんだ?」

「……あっ。ルール説明を忘れてました」



番外編【ゲーム作りは大変です】 おしまい


※次回は本編に戻ります。

 明かされる罪園 リアムの真意とは……!?

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ダンジョンで助けた美少女配信者が、母親!!! 秋野てくと @Arcright101

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