ダンジョン破壊バトル

ミハルは自身の背丈よりも長いグレートソードを軽々と肩に担ぐ。


ブルーの瞳に☆のマークを輝かせて、

ギラついた眼差しでダンジョンの床を見下ろした。


「……いっくよーっ!!!」


ミハルが渾身の力で大剣を振り下ろす。


「そりゃぁぁぁぁッ!」


刃が地面に叩きつけられた瞬間、凄まじい風圧が生じ、大理石のような素材で出来た大地に亀裂が走る――刹那、轟音と共に床が爆発的に割れた……!


「や、やった……すごいぜ、ミハルさん!」


「えへっ☆」


満面の笑みでウィンクするミハル。


狂戦士バーサーカークラスの補正によってパワーアップしているミハルのステータスはS級冒険者にすら匹敵するとされている――オークプリースト戦で得た大量の経験値によってミハルもレベルアップしてるしな――罪園に出来ることが、母さんに出来ない理屈は無いってことだッ!


:マジか…

:ヤバすぎて草

:ミハルちゃん強すぎーーー!

:エンゼルを代表して……絶句です

:ミハぴに不可能はない

:こええよ

:ミハぴさぁ…


コメント欄は引いてるみたいだが仕方ない。

今回ばかりは手段を選んでいられないしな、うん。


「いいか、皆。

 これがミハミハスタイルの新境地ってことで一つ……」


「見て、お兄さんっ!」


地面に空いた黒々とした穴。

ダンジョンの自己修復機能により、破壊されたオブジェクトである床は再生して、徐々に穴がふさがり始めていた。


「よし、今のうちに進むとしようぜ!」


俺たちは意を決して、階下へと飛び降りる――!


第二層→第三層へ到達


「えーいっ☆」

グシャア。グシャア。バゴン。


第三層→第四層へ到達


「えーいっ☆」

「オルタナティブ、追撃だ!」


グシャア。グシャア。グシャア。

グシャア。グシャア。グシャア。

バゴン。



…………。

…………。

…………。



第二十四層→第二十五層へ到達


よし、罪園に追いついた!


第二十五層は巨大な柱が立ち並ぶ広大なエリアだった。


柱と柱のあいだを飛び回っていた罪園は、振り向いてこちらに気づくと、錬金術で翼を変形させて柱の上に着地する。


「計算外です。弊社の模倣をしてダンジョンの壁を破壊することまでは予測していましたが……まさか、床を壊すとは。まさにモンスター以上のモンスター……」


「失礼だよっ。

 ミハル、モンスターじゃないもん」


ぷんっ、とぶりっ子じみた所作でミハルが頬をふくらませる。


「ふふん。床の方が壁よりも硬いから……罪園ザイオンちゃん、さては床までは壊せないんでしょ?」


「ちょっと、ミハルさん。

 下手な挑発はやめとけって……」


「質問です。イモータル・リュウ」


「え、俺?」


罪園は唐突に俺に向かって問いを投げかけた。


――あなたの好きなタイプについて。


コホン、と咳払いをして罪園は質問する。



「――ダンジョンを壊す女の子は好きですか?」



「なんだよ、その質問は!?」


普通、女の子はダンジョン壊さないだろ……。


罪園の質問に困惑していると、横でミハルが冷たい声を出した。


「……お兄さん? ミハル、お兄さんが頼んだから壊したんだよぉ?」


「ミ、ミハルさん?」


「お兄さんまで引いたりしないよね……?」


「当たり前だろ! ミハルさんはすごかったって!」


俺が反射的に答えると、罪園は目を閉じて頷いた。


「承知しました。あなたが望むのなら、応えるのが妻の務めです。弊社には理解しがたい性癖ですが……」


「ちょっと待て、何の話だ?」


大母の理解コクマーより亡王の慈悲ケセドへ。花よ咲け、光を束ね、天へと昇る一筋の光の奔流、至純の生命いのちたる大樹の幹を彩れ――」


罪園の背後に現れたセフィロトを模した紋章のうち、第四のセフィラたる「ケセド」に相当する位置に光の花びらが出現した。


罪園の手のひらに光の球が生じる。


「咲き誇れ、そして撃ち放て――」


そう唱えると、四つの花びらが消失し、失われたエネルギーは光の球へと集中していく――チャージされたパワーが、光の球を巨大な光線へと変える!


「【月光華セフィラ】……、

 第四位階・直光閃滅破砕ラディアント・デストラクション!」


放たれた光の奔流は破砕音を立てながら地面を抉り破壊していく。


第二十五層ともなれば、このあたりの床は低階層とは比べ物にならない――ミハルとミハル・オルタナティブの過剰な攻撃力をもってしても、床に穴を開けるのは一苦労である。


「嘘、だろ……!?」


それを、たったの一撃で!?


「どうでしょう。これで好きになりましたか?」


罪園は無表情のまま、雰囲気だけでドヤ顔を作る。


あっという間に人一人が入れるくらいの穴が生まれると、罪園はフライトユニットによって空中を滑空し、穴に向かって飛び込んでいった。



:なぁ、ダンジョン攻略ってこういうのだっけ?

:わからん

:…………笑

:これ意地になってるな

:あの子 芋竜のこと好きなんか?

:エンゼルを代表して脈ありと判断します

:ありえない そんなわけないし

:三角関係キタ

:ラブコメの王道やね



――そう、コメント欄の言うとおりだ。


「あいつは今、意地になってる。これはチャンスかもしれない。プレジデント罪園の実力であっても、床を破壊するには第四位階よりも上のチャージが必要になるってことは……それだけMPの消費も激しくなるし、チャージにも時間がかかる……ここまでいったら普通に攻略した方が効率がいい場面も多いはずなのに、だ」


こっちには盗賊シーフである俺がいる。


ルートを探索し、罠や鍵のかかった扉を解除しながら進んでいけば、最小限の消耗と最大限の効率でダンジョンを進んでいけるはずだ。


「そういうわけで、ミハルさん。

 ここは消耗を避けて……」


「うりゃぁぁぁっっっ!

 【強打攻撃】ッッッ!!!」


【強打攻撃】――

HPを消費することで攻撃ダメージを一時的に強化する汎用スキルである。


ズゴガアアアアアアアアアアアアンッ!


轟音を立てて床が崩れ去った。


「あ、あの……ミハルさん?」


グビグビグビ、と腰に手を当てて回復薬(ポーション)を飲むミハル――


「ぷはぁ。お兄さん、見てた見てた?」


「うん……」


「よーしっ、絶対に負けないんだからっ!

 行こう、お兄さん!」


意地になってるのは……罪園だけじゃないっ!?


ミハルに手を引っ張られて、俺は階下へと降りていく。



そのとき、俺は気づいていなかった……。

罪園がミハルに「罠」を仕掛けていたことに。

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