脅威のアルケミスト!

「フライトユニット、点火イグニッション――!」


罪園がそう告げると、彼女が背負った銀色の翼から魔力の焔が噴出した。

ダンジョン攻略バトルが始まった直後のことである。


「錬金術の応用かっ……!」


冒険者としての罪園のスタイルは事前に確認していた。


彼女の職業(クラス)は錬金術師アルケミスト――魔法職でありながら、戦士職並みの近接戦闘力さえも発揮できる万能職である。


その秘密は「錬金術」という独自の魔法体系にある。


MPを消費することで非生物の物質に変化を加えることができる魔法――これによって強力な装備を作り出したり、状況によって装備を変えることによって自身の戦闘力を底上げできるのだ。


あの背後に背負った錬金術師アルケミスト専用装備――フライトユニットは、魔力を燃料代わりに噴出することで空中に浮遊し、錬金術で翼の角度や形状を変化させることで自由に飛行できるようになるというもの。


罪園が駆ける空中道路には、信号も渋滞もありえない。

スピードが問われるダンジョン攻略対決では圧倒的に有利ということだ!


「お先に失礼します。

 モンスターの相手は任せました」


「くそっ!」


大理石のような素材で出来た広大なダンジョン内部、中でも第一階層は天井が高いエントランスのようになっていた。

行く手を阻むモンスターたちの頭上を越えて、罪園は先へと進んでいく。


「ミハルさんっ!」

「まかせてっ☆」


だが、俺たちもやられっ放しではない。


影下分身シャドウメーカー】――ッ!


ミハルの影からもう一人のミハルが現れる。

影から影人形を生み出す俺のユニークスキル――これによって、暴力の化身であるミハルと同じ戦闘力を持つミハル・オルタナティブを生成できるのだ。


ミハルが二人いれば、進行速度も二倍だぜっ!


「えーい、大殲滅ッッッ!」


グレートソードを振り回しながら大回転する二人のミハルは、モンスターの山をなで斬りにしながら道を拓いていった。


:さすがミハぴ

:うおおおお

:ミハぴの影ほしい

:お兄ちゃん負けるな

:エンゼルを代表してがんばれと伝えます


コメント欄からも応援のメッセージが届いている。

よし、負けないぞ……!


第一階層を踏破して、第二階層へと足を進める。

そこは第一階層とは様相が変わっていた。


「お兄さん、ここは迷路タイプのステージみたいだね……」


「ツイてるかもしれないな。天井が低い迷路タイプでは、空を飛んでもモンスターは回避できない……あいつのアドバンテージが一つ失われたぜ」


だが、そんな俺の希望的観測は打ち砕かれる。



「【月光華セフィラ】――」



目の前のダンジョンの壁が光に包まれて崩れ去った。

壁の向こうには空を舞う罪園の姿。


罪園の背後には樹のような形をした光の紋章が浮かび上がっている。


ミハルは驚きの声をあげた。


「あれって……」


「罪園のユニークスキルだな……!

 既にチャージしていたのかよ!」



月光華セフィラ】とは罪園のユニークスキルの名だ。

光属性最強のスキルとして知られている。


MPを消費してチャージするごとに光の紋章に花が咲いていき、咲いた花の数に応じて威力が上がるビームを放つことができる。


第一段階の「思惟の王冠ケテル」から、

第十段階の「栄光の王国マルクト」までチャージ可能だ。


低階層のダンジョンの壁程度なら第三段階の「王母の理解ビナー」で破壊が出来る――と、Wikipediaの個別項目記事に書いてあった……!


「古い情報ですね、その記事は。「父祖の知恵コクマー」で充分です……現在の弊社の戦力を持ってすれば」


罪園は表情を変えないままに云う。


「ちなみにですが【月光華セフィラ】というスキル名は弊社が名付けました。このスキルは……」



「いや、わかるよ。数秘術カバラにある「生命の樹」を図式化した系統樹「セフィロト」、それを構成する十の球体(セフィラ)に自身のスキルをなぞらえたんだろ? スキルで咲いていく十の花とセフィロトを対応させた――花と樹というモチーフを重ねて、それに光属性の攻撃スキルであることを含めて「月光華」にルビを振った。キバナアマの別名である「雲南月光花」とかけているんだな。良い名前だと思うぜ。それにセフィロトになぞらえたってことは……スキルでチャージできる最大値は、本当は第十一段階まであるんじゃないか?」



「…………好き」


と、言いながら罪園は翼をひるがえす。


「ですが、勝ちは譲りません。

 あなたを真人間にしてみせます──妻として」


ふたたび魔力の焔を噴出して、罪園はダンジョンの奥へと飛んでいく。



:やばいな あれ

:ダンジョンの壁壊せるなら勝てないよ

:いや、こっちにも暴力はある

:妻とかいってなかった?

:こうなったらなんでもアリやね



コメント欄を見て、俺はミハルと目を見合わせた。


「ミハル、やっちゃってもいい……かな?」


そうだ――向こうがその気なら、こっちもそれでいく。



「ダンジョンを……ぶっ壊すぞ!」

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