最後の戦いが始まる!

ついに決戦の日がやって来た。


ダンジョン出現の知らせを聞いて、俺は自転車で夜の闇を駆ける。


昭和記念公園の敷地に広がるネモフィラの畑は、見渡すかぎり一面の青い絨毯だった。夜風がそよぐたび、無数の小さな花々が波のように揺れる光景は、どこか幻想的で、夢の中に迷い込んだような気分になる。


しかし、その中央に異質な存在が現れていた。


ネモフィラ畑の中心、周囲を青の海に囲まれるようにして立っている「それ」は、まるで時代を超えてここに現れたかのような古代の祭壇である。

苔むした巨大な石が積み上げられて出来た祭壇、その表面には解読不能の紋様が掘られており、紋様が描くラインは微かに青白い光を放っていた。


ダンジョン名『悠青の祭壇』――

アプリに表示されたその名こそが、俺とミハル、罪園つみぞのが覇を競う決戦の地である。


俺は意を決してダンジョンに足を踏み入れた。



ダンジョンでは既にミハルと罪園が待っていたようだ。


「リアムちゃん……」

警戒するような様子で罪園と対峙するミハルに対し、


「今の弊社はプレジデント罪園ザイオンです。

 あなたがであるように」

と、罪園は鉄面皮の無表情で応える。



プレジデント罪園ザイオン――

冒険者としての罪園つみぞのを間近で見て、俺は思わず息を呑んだ。


全身を覆う近未来的なシルバーのボディスーツは、彼女の身体にぴったりとフィットしており、その素材は滑らかに光を反射していた。

腰まで届く銀髪がボディスーツの輝きと調和して、動くたびにさらさらと流れるように揺れる。

サファイアのように澄んだ瞳が鋭く周囲を射抜き、氷のように威圧感を高めていた。


だが、否応なく目を引くのは罪園のスタイルだ。


スーツの密着具合によって際立つ曲線美は、無機質な装備によってむしろ強調されている。露出度はほとんど無いはずなのに、見てはいけないものを見ているような――特に胸元は、そのボリュームを否が応でもサイズを赤裸々に主張している。


普段は着痩せしているから気づかなかったが……

あれって、ミハル(母さん)と同じくらい大きいんじゃ……


「どうかしましたか?」


と、振り向いた罪園が不思議そうに首を傾げた。


「な、なんでもないッ!」


慌てて俺が目を逸らすと、その先には女子高生風の衣装に身を包んだミハルがいた。

ピンクのツインテールを揺らしながら、上目遣いで俺を見上げる。


「お・に・い・さ・ん~~~?」


「なんだよ、ミハルさん……」


「ああいうの、女の子は目線で気づくんだからね?」


「えっ、そうなのか!?」


罪園を見ると、彼女は「計算通りです」と無表情のままピースをしていた。


や、やられた……!

あの無知っぽい仕草まで計算されてたのかよ……!


ミハルは頬をふくらませる。


「お兄さん、あの子に手玉に取られてるようじゃダメだよ。今日の配信には……ミハルたちの運命が懸かってるんだからっ!」


「ああ……そうだな」


周囲では冒険者たちが人だかりを作っていた。

みんなワイワイ騒ぎながら、俺たちを遠巻きに眺めている。


人気配信者である星羽ミハル(+俺)と、

S級冒険者であるプレジデント罪園のコラボ配信――


ミハルのアカウントで告知された今晩の配信はSNS上でも話題となっており、今晩駆けつけた冒険者たちは現地で実況するためにやって来た連中のようだ。


彼らが知らない事実がある。


今日のダンジョン攻略は単なるゲームでは無い。

敗北した場合、俺たちは恋人営業の全容を罪園に暴露されてしまうのだ。


俺たちに近づいてきた罪園は、声を潜めて伝えた。


「――以東くんとお義母かあさまが実の親子であるという動かぬ証拠は、すでに週刊誌の記者を使って抑えています。彼はいつでも記事を公開するでしょう、弊社が指示をしたならば」


「罪園……ッ!」


「それを防ぎたいのでしたら、お義母かあさまは示さなければなりません。今晩の対決を制して、以東くんのつがいとしての価値を」


「つ、つがい!?」とミハルは赤面する。


「では、配信を始めてください」


罪園の宣言に、俺とミハルは目を合わせて頷いた。


ドローンカメラをセットして、配信をスタートさせる。



「ミハミハ~☆ 今日の配信は特別編っ! あの伝説のS級冒険者であるプレジデント罪園さんとのコラボだよ☆


題して――

『ガチ攻略勢が本気を出したなら、たとえソロ攻略であってもダンジョン配信者などには負けない説』

――の検証っ!」



勝つのはガチ攻略勢(プレジデント罪園)か――

それともダンジョン配信者(俺たち)か――


戦いの火ぶたが切って落とされた!

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