安全なる死
遥 述ベル
安全なる死
雪がチラつく中、私は帰路に着いていた。
私は友達と旅行に行っていた。
何故か帰ってきたら私は死んだことになっていた。
それを知ったのは帰ってきて最初に妹から聞いた言葉だった。
「おかえり。生き返ったんだね」
「私は死んでないよ」
私は冗談だと思って笑い飛ばした。
「お姉ちゃんはもう死んだからこの体がどうなっても大丈夫だよね」
「だから死んでないって」
私はまたも笑い流す。でも、それがすぐに戦慄に変わる。
妹がナイフをポケットから取り出していた。両手でがっちりと握っている。
「ねえ、お姉ちゃん──」
その笑顔は私が普段見ているものと寸分違わず、私は怖くなって逃げ出した。
妹は追ってきていなかった。
私は慌ててお母さんに電話を掛けようとした。足が震えてしゃがみこむ。
スマホを押したが、指も震えが止まらず上手く押せない。
冬の冷気がより一層私を狂わせる。
どうにか通話ボタンを押す。
「お母さん助けて!」
「あなた誰?」
「お母さん何言ってるの? 私だよ、響」
「私、あなたのような人知らないわ」
「何言ってるの! 冗談はやめて!」
私は恐怖に駆られ金切り声で訴えた。
「騒ぐのはやめて下さい。切ります」
お母さんに電話を切られてしまった。
私は脳みそが歪むような感覚を覚えた。世界が間違っていると信じるためにはそれぐらいの異常が欲しかった。
私はその状態から抜け出そうとすることすらできない。
暫くしていると
「響! どうした、こんなところで」
「お父さん!」
私は四つん這いでお父さんの足に縋り付いた。
「お、おお、お母さんが……」
「幽霊としては優秀な体だね」
「え……」
私は理解が追いつかなかった。
「お父さんも何言ってるの!」
「何って、響はもう死んだ。死体もちゃんと埋めたぞ。それで魂だけになった。それなのによくこんな普通の人間に偽装できてるなって感心したんだよ」
「もうお願い……」
私は何を願えばいいのか分からなかった。頭の中は整理できておらず、恐怖以外が体から抜け落ちていた。
「響は生きたいとでも言うのか?」
「は?」
お父さんは至って冷静な佇まいで私を見下ろしていた。
「響が生きてたら
夜霧とは私の妹のことだ。でも、彼女がなんで私をいたぶろうとするのか、心当たりがなかった。
今までそんなこと一度だってなかった。
「あー、そっか。響はよく分かってないのか。まあ、気にすんな。聞いてもろくなことにゃならん。お父さんはもう帰るよ」
「ちょっと待って! 私は! ど、どうすればいいの?」
「俺に聞かれてもなぁ。ここからは専門外なんだ」
お父さんは私の手を解き家に向かって去っていく。
「お父さん! 助けて!」
「俺はもう助けた! 後は頑張れ! 独り立ちだ!」
お父さんは訳の分からないことを言って、本当に帰ってしまった。
この後、妹の夜霧の声が近付いてくるのにそう時間は掛からなかった。
(完)
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安全なる死 遥 述ベル @haruka_noberunovel
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