ピザ試験
味噌野 魚
私と彼が上顎デロデロ殺人チーズになる話
ピザザザザザザッ
試験は朝目覚めたときからすでに始まっている。
ピザを止めて私は布団から飛び出した。
着替えにかけられる時間は10秒。
この10秒に全てがかかっている。
1、2…11秒。
くそっ。1秒ロス。帰ったら顔面マルゲリータの刑だ。
リュックを背負って窓から飛び降りる。
「ポチ! 任せた!」
『チーズゥ チーズゥ』
愛ピザであるクアトロ・フォルマッジのポチは、無事私を受け止めた。
「ナイス、ポチ。今夜は蜂蜜祭りだ!」
『チーズゥ! チーズゥ!』
千切れんばかりにチーズを振るポチに別れを告げ、学校に向かってひた走る。
「おはよう、真希ちゃん」
「賢之助…」
ペスカトーレを片手に併走してきたのは幼なじみの賢之助だ。
濃厚な笑みに騙されてはいけない。
この男はそのピザをもって多くの女子の指をコンスターチまみれにしてきた、紛うことなき女の敵だ。
「どうせ試験の邪魔しにきたんでしょ!」
「ひどいなぁ。僕はただ真希ちゃんとピザりたいだけなのに」
「あ、朝から破廉恥よ!」
これだから賢之助は嫌いなのだ。
いつもいつも私を揶揄って。彼にとって私はただのピザパンだってわかってる。
それなのに私の胸はこんなにもピザピザして…ほんと馬鹿みたい。
「あれ? 真希ちゃん、顔赤くない?」
「あ、赤くない!」
「揶揄ってるわけじゃないよ。この赤みは…っ! 危ない!」
賢之助が私を抱きしめた。
普段なら熱々のチーズだ。でも今は、チーズが冷えて固まっていく。
「ぐっ…」
「け、んのすけ? これ、ケチャップっ」
ぐったりと私にもたれかかる賢之助の後頭部には大量のケチャップが付着していた。
野良ピザにやられたのだ。
今が試験中であることを忘れて周囲の警戒を怠っていた。私のせいだ。
「ニンニクの香りがする。急いで病院にいかなきゃ」
「なに、馬鹿なこと言ってるのさ。真希ちゃんは試験に戻りな」
「ふざけたこと言わないで!」
ペパロニのソーセージに賢之助を乗せ、私はチーズ側に乗る。
私が丹精込めて育て上げたピザだ。
これなら確実に病院に間に合う。
「賢之助をピザになんかさせないんだから」
「僕のことなんか別にいいのに…真希ちゃんは昔から変わらないな」
私を野良ピザから庇った男がなにを言うのやら。
「…なんで私を庇ったりしたのよ」
胸がピザピザする。
ちらりと横目で賢之助を見れば、彼は蕩けるような濃厚な笑みを浮かべていた。
「真希ちゃんは僕にとっての上顎デロデロ殺人チーズだからさ」
「…馬鹿」
試験は確実に不合格だ。
だけどそれでいい。試験よりも大切なものがあるから。
賢之助も私にとっての上顎デロデロ殺人チーズだよ。
ピザ試験 味噌野 魚 @uoma
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