薔薇色ビーナスを少しはさんで、照れ隠ししないと話せません
いすみ 静江
寝そべりビーナス
アール大学の鐘が五つ鳴った頃、口髭も似合うプロフェッサー
「この花の名を君は口にできるか」
「薔薇と、薔薇の花と思います」
白咲は斬新にも寝かした花を描いていた。
「好みの花の色はなんだね」
「薔薇ですと黄色に惹かれます」
「黄色い薔薇の花言葉を知ってのことか」
「主に『友情』ですが、『嫉妬』とも聞きます」
『友情』を寝そべらせたら『別れ』になるのか、『嫉妬』を寝かせたら『諦め』になるのか。
黒樹は口髭を動かしながら問答をしていた。
「世の中に薔薇色がある」
「ええ、薔薇色の人生などと用いられますね」
白咲は頷く。
「薔薇色とは絵にするならば絵の具はどうする」
教える立場の黒樹が質問をするときは、考えさせるテストだ。
「形は薔薇を描きます。そこへ虹の筆を滑らかに動かし、外側は淡く内側は濃く色をとります」
迷いもなく答えは滑り込んだ。
「なんと、薔薇色はひとつでは支えられないものなのか」
「薔薇色を愛でたければ、様々な色相を渦にも似て着彩いたします」
薔薇色問答の間、モチーフがやや萎れてきた。
「プロフェッサー黒樹、十九時まで油彩をさせてください」
「ああ。ビーナスが寂しがっているからな」
白咲は筆へと手を伸ばしたが、忘れものをしたようだ。
「後程、レストラン・ラメールでご一緒いたしましょう」
「うむ」
黒樹は口髭を愉快に動かした。
約束をしに白咲を探していたのだ。
【了】
薔薇色ビーナスを少しはさんで、照れ隠ししないと話せません いすみ 静江 @uhi_cna
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