主人公の語りで綴られる物語だから、もちろん本人の外見の描写はない。よほどのナルシストでもない限り、「俺は烏の濡れ羽色の黒髪で――」などと自分の外見を思うことはないだろう。ところが、本作は最初こそぽつりぽつりと途切れがちな文章に多少の違和感を覚えるが、それが功を奏している。その無骨な語り口調から、いつの間にか主人公の表情が浮かんでくる。きっと古傷もあるはずだ。読み終わる頃にはすっかり、無骨なならず者がこちらに語りかけてくるのである。
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