瞳の中でも息をしたい

@yuki0141

 ある日の私に、気づいたことがある。

あなたの目を見て思い知った。

紛れもないあなたのその瞳。

嘘を知らないみたいに、私を映し出してはくれない。


ずっと小さかった頃。

私、世の中に蔓延る色が全く見えませんでした。

世界的名画を残した画家は、ちいさいひとの絵を追い求めたらしいけど。


そんな童女の描いた絵は、上下逆さまに飾ってありました。

あなたがご満悦なものだから、ゆっくりと呑み込んで封じたのです。

だから今もね。


私のことどう思ってるの?

あなたを取り巻く匂いや、暖かみやその中に儚くもしゃんとして背を伸ばす冷たさは、本当にお喋りなようでして。


まだ、あなたを見つめている。

嘯いてないで演ってないで、私をその眼差しの上に、のせてみて欲しいの。ただそれだけ。


だのに、返ってきたのは

アンビバレントのたねひと粒です。

それもあなたの花から落ちたらしいひと粒。

これ育つの?


時には切羽詰まったような顔もしてみせるあなた。

そして度々、私が順当に生かされてるのを確認したいのか、この口からの息吹を欲しがります。

憎しみに塗れた言葉どころか、愛情に生きる言葉すらぴしゃり止めるくせしてね。

あの日から、あの時から、お互い何も変わってなんかないのです。


結局のところ、人っていうのは安らかに何もままならないものだから。

そうしていても世は回るのだから。

私は確かに、順当に、生かされてはいるのだから。


世界的名画をうみ落とした人のように、私を出迎えるのは空蝉からの賛美であるべきだとつくづく思います。

本当はずっと昔に、そうなるべきだったのかも知れないけど。

願ってるんですから。

待ちわびていますから。


人間が空を飛ぶためには天使になるしかないんだって、あなたいうけどね。


くしゅんっ!


あ、ほら、くしゃみがでちゃったじゃない。

寒い台詞のせいか、あの花が咲いたせいか。どうせわかりっこないんだけど。


私の行動が作用するなんて、あなたも一応、心があるのね。神様なのに。


でも残念。もう元、になっちゃった。

だって私がちゃんと見えるんでしょう?

それならさ、今度こそ私のこと置いてけぼりにしないでね。

私の体温、とり零したらいけないからね。

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