ソルジャードリームコミケット

白川津 中々

◾️

コミケットに参加する。


自給自足していた同人誌のクオリティがあまりに高まり過ぎたためそう決心し、私はオタ友でありコミケットサークル参加常連のハウスクリーニング募集中さん(アカ名)に相談したのだった。


「十部も刷っときゃいいんじゃないっすかね」


そんな手軽いアドバイスに勇気づけられ執筆開始。ジャンルはBL。聖闘士◯矢の一瞬濃厚本である。制作期間3ヶ月。緻密な作画と本家顔負けの重厚なストーリー。自画自賛ながら星々が砕ける破壊力。これは人気間違いなしだぞひゃっほーと意気込み当日。サークル入場で悠々会場入りして同じ志を持つものを待ち続ける。

が、来ない。読まれない。チラ見もされない三重苦。

何故だぁ。絶対面白いのに。どうして誰も手に取らない。これがコミケットかと落胆していると人影あり。やったと思ったらハウスクリーニング募集中さんだった。なんだ身内かと落胆継続。


「おはようそぼろ懺悔痛(私のアカウント名である)さん。調子はいかが?」


「全然。売れないっすねぇ」


「売れるとかいうな。しかし、まぁ最初は難しいもんですよ。オールド漫画は午後からワンチャンあるから気長に待ってなさい」


「3ヶ月頑張ったんだけどなぁ……」


「まぁ同人誌ってそんなもんだから」


「ハウスさんは売れました?」


「だから売れたとか言うんじゃないですよ……私は頒布終了したからうろついてるとこ」


「どれくらい刷ったんです?」


「今回は50ですね」


「え、すご。やっぱり半年くらい前から準備されてたんですかね?」


「2週間くらいかな」


「え?」


脱稿ギリギリで過去本出すとこだったよ。いやぁ。危なかった危なかった」


「え、ちょっと待って。2週間で描いたものが50部売れて、3ヶ月かけた私の本が0……どうして……?」


非常な現実にショックを隠しきれない。私の3ヶ月は2週間に踏み潰されたのだ。その衝撃たるや、計り知れない。打ちひしがれ、身体中が萎びていく感覚が走る。きっと表情は暗く落ち込んでいただろう。


そんな私に、ハウスクリーニング募集中さんは優しく語りかけるのだった。


「……そぼろさん。同人誌は数じゃないですよ。リビドーとパッション。それと一欠片の狂気が大事なんです。それが情熱になる。消えない火になる。最初は読まれなくて当然。でも、情熱が燃え続けていれば絶対気づいてくれる人がいます。今回は、そのための一歩ですよ」


「ハウスさん……」


「てなわけで、私が最初の同志になりましょう。読ませてね」


「あ、はい。ありがとうございます。あ、聖闘士◯矢知ってますか?」


「当然履修済みですよ。どれどれ……」


「ど、どうですか?」


「う〜ん……絵が下手」


「酷い!」



結局、初コミケで私の漫画を読んでくれたのはハウスクリーニング募集中さんだけだった。

けれど、この経験が私を強くする。次の舞台は来年夏コミ。宣伝用のアカウントも作った。情熱は、まだ消えちゃいない。意気込みだけが私の心の栄養源である。目標は5部頒布。さぁ、描くぞ……!

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