第3話

 翌週の金曜日は、学校の創立記念日で休みだった。


 三連休になるので、翔太と透真とうま結実ゆみと私の4人でキャンプに行こうということになった。

 駅集合で、寝坊助の私のことは、翔太が家まで迎えに来ることになっていた。


 もっとも集合時間自体が10時で、その20分前に翔太が来てくれることになっていたので、余裕で用意はできていて、9時半前から、私はベッドにゴロンと横になりスマホを弄っていた。


 ピシッ、ゴトッ、キィー、ガタッ……


 今日はいつもより家鳴りの回数が多い気がするなあと思いながら、もうこちらも慣れてしまっているので、特にそれ以上気にすることもなかった。


 ゲームをしながら、ついうたた寝をしてしまったようだ。



 ミシッ……ミシッ……ミシッ……ミシッ……


 夢から覚めるか覚めないかの一番気持ちのいいところで、また家鳴りが近づいてくる。

 頭はボーッと起きかけているが、体はまだ寝ているらしく動かない。所謂、金縛り。私にはよくあることで、霊的なものではないと、ネットで調べて知っている。が、気持ちの良いものではない。


 カチャ……


 ドアの開く音。


 なあんだ、もう、また翔太? いい加減にしろよ? なんとか起きて、怒ろうとした。


 次の瞬間、バサッと顔に布を掛けられ、押さえ込まれた。

 物凄い力。跳ね除けられない。

 

 ――翔太じゃない!!


 逃げようとするが全く力負けしている。

 顔に被せられた布も押さえられているせいで、息ができない。

 

 ――死ぬの、私? 殺されるの?!


 恐怖が絶頂に達した時だった。


 ドンッ!!

 バンッ!!

 キィイイ!!


 家が揺れるような大きな音がした。


「チッ」


 舌打ちをすると、上に乗っていたものは、大きな足音を立てて玄関から逃げていったのがわかった。


「翔太……翔太!!」

 翔太が助けてくれたのだと思って、名前を呼ぶが翔太はいない。

 ハナちゃんは、デイサービス。この家には自分以外はいないはずだ……

「さっきの音は何……?」


 慌てて翔太に電話した。パニックになりながら、今あったことを話す。

「鍵をかけて、警察を呼べ! 俺も近くまで来てる。すぐ行く!」


 体の震えが止まらない。


 しばらくして、翔太が来てくれた。

 彼に抱きつき、震えながら泣いた。

「怖い……怖い……怖いよう……」

 翔太は、しっかりと私を抱きしめていてくれた。



 後で警察の人に聞いた話では、犯人は、強盗犯グループの一人だったらしい。

 別のところでは、一人暮らしのお年寄りが殺されて金品を盗まれていたり、店員が大怪我をさせられて高級品を盗まれたりしたとのことで、自分も本当に危なかったと知る。


 また震えが止まらなかった。



 一連の強盗事件も、この辺りを狙っていたグループは逮捕されたらしい。

「取り敢えず、もう大丈夫だとは思いますが、最低限、家に誰かいても、施錠するようにしてください」

 警察の人に注意された。


「昔は誰か家にいたら、鍵なんかかけたことなかったのにねえ」

 ハナちゃんが、ばあちゃんに言う。

「荷物が届いたら、玄関先で呼んでくれて、『あ〜、今、手が放せないから、そこ置いといて〜』とかね」

 ばあちゃんも言う。

「物騒な世の中になったもんだ」

「ホントにねえ」



 私は、一人で眠れなくなってしまい、一時的に、ハナちゃんの部屋に布団を敷いて寝ることになった。ハナちゃんの部屋は仏間の隣で、昔はとっても怖かったけれど、

「なあに、じいちゃんや曾祖父ひいじいちゃんが見守ってくれる一等席だよ」

 と、ハナちゃんが笑いとばしてから、私は、この部屋が一番安全で、安心して寝られる部屋だということを知っていたのだ。


 

 学校から帰って、小腹が空いたなあと思った私は、ハナちゃんの部屋に行く。

 大抵、ハナちゃんは、おやつを食べているからだ。

「またポテチとコーラなの?」

「そうだよ」

「普通、年寄りは饅頭とか煎餅じゃないの?」

「ハッハッハ、誰が決めたんだい」

「それは知らないけどさ」

「これが長生きの秘訣なんだよ」

 そう言って、ハナちゃんは、可笑しそうにハッハッハと笑った。


 キィー、コンッ


 また家鳴りがした。


「そうだ、思い出した。あの、犯人に襲われてたときにね、『もうダメだ――』と思ったら、物凄い音がしたの。あれも『家鳴り』だったのかなあ?」

「ほう。そうかい……」

 ハナちゃんは、後ろの戸棚の一番下を開けて、ガサガサと何かを取り出し、その隣に置いてある箱の中からもジュースだろうか、取り出した。

「ほれ、これを」

「ポテチとコーラじゃん」

「仏壇にお供えしておいで」

「えーっ?」


 ミシッ、カンッ、キィー


 なんだか楽しそうに家鳴りがした。


〈了〉

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家鳴り 緋雪 @hiyuki0714

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