第42話 エピローグ 一歩づつ進む未来

高校の卒業から一年が過ぎた。


もうすぐ、春を迎える三月。


自宅で、私と遊びに来た要くん。

両親に、お姉ちゃんと宏樹くん。

全員が固唾飲んで、パソコンをチェックしているお姉ちゃんの言葉を待っている。


「出た! あった! 有紗、おめでとう、合格だよ!!」

そう、今日は私が受験した音大の合格発表の日だった。


視覚障害で弱視の私は、受験に際して特別措置を受けつつ試験を受けた。


そんな試験の結果、私は四月から無事に大学に通える事になった。


「おめでとう、有紗!」

「おめでとう」

家族から口々にお祝いをもらい、そのままお祝いとしてお父さんや宏樹くんは飲みだした。


あれ? お祝いにカッコつけて飲みたいだけじゃない ?

そんなお父さん達をクスクス笑いながら、合格通知を受けたことでみんなで楽しくその日を過した。


この一年で、私もすっかり白杖を使って歩くことが上手くなりひとりで外出することも増えた。


時間が少しかかるけれど、料理もできるしお裁縫はまだ難しいけれど編み物はかなり上手く編めるようになった。


見えなくなって手先の感覚がよくわかるようになって、編み物はそれなりの物を編めることが分かった。


そうした生活の中で受験のため音楽教室にも自力で通い、無事に大学入試を突破することが出来た。


合格発表の翌日。

私は久しぶりに日菜子と蒼くんに会うことになった。

待ち合わせは学校の最寄り駅。


その前は夏にみんなで遊んだけれど、大学一年生のみんなは単位を取るために平日は結構忙しい。

年末は私が受験のために忙しく、久しぶりの再会である。


駅のコンコースのベンチで待っていると、先に来たのは要くんだ。


「有紗! 待ったか?」

焦った声と走る足音に、私はクスクス笑って答える。


「ちょっと前に着いた所だから待ってないよ」

「有紗は可愛いから、ひとりで待たせるの心配なんだよ」

また、要くんはキュンとさせることを意識せずに言うんだから困った彼氏だ。


私たちがそんなやり取りをとしていると改札口から声がしてきた。


「あ! ほら! 蒼が遅いから要と有紗もう着いてるよ!」

「わ! ホントだ」


そんな声とともにふたりの足音が私たちの前で止まる。

「ごめんね、有紗待った?」

「大丈夫だよ」

「あ、有紗! 合格発表どうだったの?」

私の受験と合格発表の日を知ってる日菜子は、思い出して聞いてきた。


「昨日が発表だったの。合格したよ! 四月から一年遅れたけど大学生だよ」

私の言葉に日菜子と蒼くんは口々におめでとうと言ってくれた。


「それじゃあ、今日のランチは私たちがお祝いに奢るわ!」

少し前まで、よく来ていたファミレスに久しぶりに四人で入る。


楽しく、食べてドリンクバーをお代わりしながらいろんな話をした。


日菜子は教育学部の幼児教育学科で幼稚園教諭と保育士どっちの資格も取るべく奮闘中。

来年からは実習も入るらしく、付属幼稚舎に行くのが楽しみだという。


蒼くんは日々スポーツに関する座学や実技をしつつ教員課程の勉強も頑張っているみたい。

卒業までの単位を取るのが一苦労だとか。


要くんは理系の授業を満遍なく取りつつ教員課程の授業を取っている。

元々好きな理科の実験や座学の授業を楽しんでいる。


みんな着々と自分の道を歩み始めている。

私もこの春からその一歩を踏み出すことが出来そうだ。


「有紗と要は相変わらず仲が良いわね。要もちょこちょこ有紗が難しいことにはサッと手助けしてるし。昔より連携取れてるから、そんなふたりがとても自然に見えるよ」


そんな日菜子の言葉に、蒼くんも言った。

「うん、それでいてさ、要は有紗ちゃんを見るよその男にはガン飛ばして牽制してんだよ? 有紗ちゃんは知らないでしょ? 要はすっごい有紗ちゃんが好きだって、傍から見てるとよくわかるよ」

蒼くんの話に要くんは慌てつつ、言った。


「あー、蒼が言ったのは間違いない……。もうずっと有紗に、恋してるから」

ストレートな要くんの言葉は、変わらず私をドキドキさせてくる。

恋をしないと思ってた私を変えた、そんな要くんとお互いを大切にして自分の未来を歩み出す。


「私も、毎日恋をしているよ! 要くんが大好き」

私にとって、最初で最後の恋はきっとこの先も続くだろう。

たくさんの好きを詰め込むように増やしながら。




Fin

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眩しさの中、最初で最後の恋をした。 織原深雪 @miyukiorihara

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