第5話彼の好きなところ
放課後。
俺は約束通り学校の教室で勉強をしながら華の部活終わりを待っていた。
(こういう時だけ帰宅部でよかったって思えるよな)
特にやりたい部活もなかったので、自然と帰宅部を俺は選んだのだが、どうやらその選択が今になって活きてきたらしい。別に待っていることに退屈も感じないし、華と帰れるなら我慢だってできる。
(こういうの性に合わないけど、悪くないな)
今までの自分だったら授業が終わるとすぐに帰宅して、ゲームやアニメを見て時間を潰して、夜になったらご飯を買いに行くっていうくらいの自堕落な生活を送ってきたのだが、こういう時間があっても悪くないのかもしれない。
(今頃華は何を考えているんだろう)
部活のことだと言われれば、当然と言えば当然だろう。けど少しでも俺のことを考えてくれていたりしたら、嬉しいなって思う。
(らしくないこと考えてるな俺)
心躍るというのはこういうことを言うのだろうか。昨日は戸惑うことの方が多かったけれど、少しずつその実感も湧いてくる。
ーそれがたとえ偽物だったとしても
今俺は華の彼氏だ。護らない時は護らないと俺も男ではない。先輩が相手だとしてもだ。
(いつかみたいな後悔だけは、絶対にするもんか)
俺は夕暮れに照らされながら黙々と勉強を続けた。
2
今日はどうしてか分からないけど、バトミントンの練習に集中できた。最近はストーカーの件もあって練習に力が入らない時間も多かっただけに、亮太が助けてくれるって考えただけで気持ちが軽かった。
「華先輩、今日は気合いが入っていますね」
練習が一区切りして一息を付いていると、一つ下の後輩の野田榛名(のだはるな) が私にタオルを渡しながら話しかけてきた。
「私そんなに気合い入っていたかな?」
「はい! 特にスマッシュのキレがすごかったです」
榛名は何故か私のことを入部当初から慕っていてくれていて、体格が小柄で人懐っこいこともあって、私も彼女のことを気に入っていた。
「それも彼氏ができたからですか?」
そんな榛名から突然爆弾が落とされる。
「......もう榛名の学年まで噂が回っているんだ」
「当たり前じゃないですか。もう学校中で大騒ぎになっていますよ。あの氷華に彼氏ができたなんて」
「相変わらず酷い言われようだけど、事実だから仕方ないわね」
「じゃあやっぱり本当に彼氏ができたんですか?」
「ええ、本当よ」
予想通り、ではあるけれど本当に悪い意味で有名人な自分が悲しくもなる。
(ということはもう先輩の耳にも届いているって考えていいのかな)
その先輩の気配は今日は感じられない。効果はちゃんとあった、と考えたら少しだけ安心はするけどまだ安全とは言い切れない辺り、この先が本当の戦いになるのは間違いなかった。
「榛名はどう思った? 私に彼氏にできたって噂を聞いて」
「勿論驚きましたよ。華先輩って彼氏は絶対に作れないと思っていましたから」
「さりげなく失礼なことを言うのね」
「でもほんとうのことじゃないですか? それに先輩のお相手の天野先輩って幼馴染みの方ですよね?」
「うん。亮太は幼稚園の頃からの幼馴染みよ」
「やっぱり幼馴染みだからお互いのことを沢山知っているんですよね? だから気持ちが通じ合ったとか?」
「そうなのかもね」
全てが偽物の関係なので、嘘を本当のことのように話さなければならないのは難しい。一つ言葉を間違えればそこからボロも出てしまうし、最悪の結果だって招きかねない。
(私はいつも通りの私でいれば大丈夫。誰もそれに違和感を覚えることはないんだから)
「それにしてぉ先輩は、その幼馴染みさんのどこが好きになったんですか?」
「え? どこがって......」
榛名から想定していない質問をされて、私は一瞬戸惑う。
(亮太のどこが好きかって、そんなこと言われても)
「まずは優しいところかな。昔から私のわがままをよく聞いてくれたり、私に何かあったらすぐに助けにきてくれたり。常に私のことを考えてくれているみたいですごく優しいの」
「あ、あの?」
「あとはやっぱり格好いいところも好き。見た目の好みは人それぞれかもしれないけど、私は亮太は格好いいと思っている。本人は恥ずかしがっているのかいつも否定しているけど」
「せ、先輩?」
「昔は確かに色々あって、亮太もそれに悩んでいるのも知っている。でも私はもう乗り越えているよって言ってあげたい。そういうのも全部含めて好きなんだって」
これくらいしか言えることないし、それで榛名が納得してくれるのかな。
「これくらいしかないかな」
「お腹一杯です。もう充分なくらいに」
あれ?
3
校門のところで本を読みながら時間を潰していると、最後のチャイムが鳴り響き部活を終えた生徒達がゾロゾロと出てきた。
「お疲れ、華」
その中に華の姿を見つけると俺は彼女に駆け寄った。
「あ、亮太。本当に待ってくれていたんだ」
「当たり前だろ?」
俺と華は朝と違ってごく自然に手を繋ぐ。やっぱり目立ちはするが、堂々とすると二人で決めているので周りの目を気にせずに学校を出る。
「今日は例のストーカーは大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫。部活中は一度も顔を出さなかったみたい」
「でももうその話は向こうまで伝わっているって考えていいんだよな?」
「部活の後輩も知っていたくらいだから、そう考えて大丈夫だと思う」
「とりあえず最初の問題はクリアか」
俺達の通っている高校は決して大きくはないので、華の有名度も含めてそう思って問題はないだろう。
「それじゃあ今日もどこかに出かけるか?」
「そうしたいけど、時間も遅いし今日は亮太の家に行ってもいい?」
「俺の家? いいよ、どうせ母さん達仕事だから」
「ありがとう。じゃあ今日はおうちデートで決定ね」
淡々と語る華だが、その言葉の節々に少しだけ高揚を感じられる辺り、喜んでくれているらしい。
(おうちデート、か)
今まではただ遊びに来ていただけの彼女が、今日からは彼女として家にやって来る。
(どう考えても意識するよな、これ)
俺の理性は果たして保っていられるか、少しだけ不安になった。
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いつもクールな幼馴染と甘い秘密の関係 りょう @ryou385
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