第4話偽装カップル学校へ

 学校に到着するまでの間、俺と華は手を繋ぎながら登校した。


「やっぱり目立つよな俺達」


「私は色々な意味で有名だから、皆驚いているんだと思う」


「自分で言って悲しくないか、それ」


 氷華って呼ばれていることは彼女にとっては不本意のはずなのだが、そんなので有名って悲しくならないのだろうか。


「このまま教室に入ったら、流石に大騒ぎだろうな」


「騒がれた方が私としては助かるんだけどね。たとえそれが偽物の関係だとしても、その噂が伝わってくれればそれだけでいいから」


「でも逆効果になる可能性だってあるだろ?」


「その時は亮太が護ってくれればいいから大丈夫」


「自分で言うのもなんだけど、そんなに頼れる男じゃないぞ俺」


「そう言っておきながらいざという時は頼れる男って分かってるから、私は」


 果たして華は自覚しているだろうか。そういう言葉が俺の心を揺さぶるってことを。


(そんな経験今まで何度もあったけど、彼女になったって意識すると余計にドキドキさせられるなこれ)


「もうすぐ校門か。華、そろそろ手を離さないか?」


 そんな話をしている間に、学校の校門近くまで到着する。さっきも言ったようにこのまま教室に行くといきなり大騒ぎになりかねないので、繋いだ手を離してほしいのだが、


「いやっ」


 華はその手を離すどころか、指を絡めて離さないと言わんばかりの表情をしている。


「嫌ってお前、いくら偽装カップルと言えどこのまま教室に行くのはハードルが高すぎるって」


「私は構わないって言ったでしょ?」


「俺が構うんだよ!」


 どんどん校門が近づいていき、今更逃げても遅いところまで来てしまう。どうやら腹を括らないいけないのは、俺の方のようだ。


「どうなっても知らないからな、俺」


「元より私の方は覚悟が決まってる」


「その気持ちの強さ、俺にも分けてほしいよ」


 こうして俺と華は手を繋いだまま、学校の中及び教室へと向かうのだった。


 2

 教室へ入ると、案の定というべきかクラスメイトが一気にザワついた


 当然と言えば当然。あの“氷華”が誰かと手を繋いで教室に入ってきたのだ。ザワつかないわけがない。


「ちょっとあれ、どういうこと」


「確か隣にいるのって天野君だよね? 普段仲良しにはみえなかったけど」


「天野に先を越されたぁ」


 クラス中から阿鼻叫喚の声が響き渡る。


「じゃあ亮太、お昼に」


 そんな彼らを無視して、華はそう囁いてくる。俺は無言で頷き、ようやくいつもの俺達に戻った。


「おい天野、今のどういうことだよ!」


「お前抜け駆けなんて聞いてないぞ!」


「いつからなんだ!」


 自分の席に座ると、俺は早速質問責めに合う。


「成り行きで色々あったんだよ。付き合いだしたのは昨日から。それ以外は答えられることはないからな」


 俺は予め考えておいたセリフで、それらを受け流す。というかそれが全てなのだから、答えられることは何もなかった。


(華は......あっちもいつも通りか)


 華の方を見てみるが、日頃の態度のそれを現すように誰も彼女に詰め寄るような人間はいない。華もそれを気にした様子もなく、いつも通りの澄まし顔で朝のホームルームが始まるのを待っていた。


(あれだけ見たら、俺が嘘をついているようにしか思えないけど、手を繋いでるところ見せつけちゃったからな)


 果たしてこれがストーカーに届くのかは分からない。むしろ届いてもらわないと困るのだが、


(そういえばストーカーがどういう人間なのか聞いてなかったな)


 今更ながら俺はそれに気がついたのだった。


 ーお昼休み


「というわけで、俺はほぼ質問責めが続いたんだが」


「苦労してたわね」


「他人事みたいに言うなよ。自分は何もなかったからって」


 俺と華は二人だけの時間を過ごすために、学校の屋上にやって来ていた。

 12月も近いのであまり外では食べたくないのだが、なるべく二人きりで過ごしたいという華の意向で屋上で昼食を食べることになった。


「そういえば昨日は聞きそびれたことがあったんだけど聞いていいか?」


「聞きたいこと?」


「華が言っているストーカーってどういう人間なんだ?」


「そういえば話をしていなかったわね。告白してきたって話はしたわよね?」


「ああ。だから今、二人きりでいるからな」


「相手は私達の一つ上の先輩で、私の部活の先輩でもあるの」


「華の部活の先輩って、バドミントン部の先輩? でも三年生だから今年の秋で引退したはずだよな?」


「実は部活にいたころから言い寄られていたの。しつこいくらいに。でも部活も辞めたらきっぱり諦めてくれると思っていたんだけど、逆だった」


「むしろ時間が空いたから、つきまとう時間が増えたって訳か」


「私が部活しているときも体育館の外から覗いているのも分かっているし、顧問の先生に何度も相談しているんだけど、何も解決しなかった。だから最終手段として亮太の力を借りた、というわけ」


「俺はあくまで最終手段だったのかよ」


 俺は購買部で買ってきたメロンパンを食べながら、少し不服そうな顔をする。逆に華は自分で作ってきたと思われる弁当を食べながら、ため息をついた。


「正直偽装カップルなんてリスクが高いことくらいは理解していたの。でもそうでもしないと絶対に解決しないって分かったから、亮太を巻き込んだ。それだけは申し訳ないって思っている」


「別に怒っていないからいいけどさ」


「本当に?」


「ああ、本当だよ」


 怒っているどころか喜んでいる自分がいるなんて、口が裂けても言えないがそれは間違いなく本心だ。


「ありがとう、そう言ってくれて。嬉しい」


 華は少しだけ嬉しそうに俺にお礼を言ってきた。こういう可愛いところを俺が独占できるのだから、本当に彼女の頼みを受けてよかったって思える。


 「とにかくその先輩のことは、俺も警戒はしておくよ。絶対に護ってあげるからな華」


 「頼りにしているよ、亮太」


 話が丁度終わったところで、お昼休み終了十分前の予鈴が鳴った。


 「今度は放課後だな」


 「うん。でも私は今日部活があるから」


 「分かっている。教室で適当に待っているから」


 次こうして会えるのは先になってしまいそうだが、またこうして話せるならいくらでも待てるって思いながら俺達はお昼休みを終えた。

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