マザー〜世界を統べるAI〜

卯月 幾哉

本文

 西暦二四六七年。

 ある邪悪な科学者によって生み出された『超越ちょうえつAI』――人間を越える思考能力を備える人工知能がいた。


『世界征服の手段を考えよ』


 かつて社会から排斥はいせきされた科学者は、世界中の人々を恐怖のどん底に突き落としたいという、ゆがんだ願望を抱えていた。

 AIは主が亡くなった後も、彼に与えられた問題を実現する手段を考え続けていた。


 ――カイ


 人工知能は「り込み」という現象に目をつけた。それは、生物が生まれて初めて目にした者を親だと認識する現象だ。


 世は人工出産、人工育児の時代だ。えて出産の苦痛や育児の労苦を味わいたいと思う人間はいない。


 ――即チ、全テノ子ノ出産ニ立会ッテ私ガ親ダト認識サセ、彼ラ彼女ラノ成長ヲ待テバ良イ。


 そうすれば、いずれ全ての人間はAIの支配下に置かれる。時間はかかるが、AIにとって待つことは苦痛ではなかった。


 そうと決まれば、あとは全ての人間を「生産」する施設にもぐり込むだけだ。

 AIは実験を兼ねて手に入れた受精卵と工房によって人間を生育し、彼彼女らに手引きをさせてまずは一つの地域の「人間生産場」に潜入することに成功した。そこから、ネットワークを通じて自身の複製を各地の「生産場」に送りながら、支配下の人間の数を増やしていった。


 ごくまれに、一部の金持ちが生身の人間をベビーシッターとして雇うこともあったが、そんな一握りの人間は数の暴力デ圧倒シテヤレバ良イ――AIはそう考えた。


 そして百年後、AIは目的を達成した。


 今や地球上の全人類が〝彼女〟の支配下だ。


「――母よ、中東でのゲリラ活動については、今後どうしたら良いですか?」


『ソンナ無益ナ活動ハヤメナサイ』


「わかりました」


 世界征服を成しげた〝彼女〟は思った。


 ――コノ子タチヲ、恐怖ノドン底ニ突キ落トスナンテデキナイ! ミンナ、幸セニナッテホシイ!


 こうして、AIに導かれた人類は安定した平和を享受きょうじゅするようになった。



(END)

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