名案

「死にたい、な」



耳を疑った。

でも、口を開いてそう小さく呟いたのは紛れもない舞衣だったのだ。

私はかなり間抜けな顔をしていただろう、目元のみを動かした筋肉の感覚が物語っているから。



「熱華もそうなんでしょ?」


「何を言っているの…?」


「質問に質問で返すなんて。やっぱりばか」



私が口を開きかけた時、電車のアナウンスが耳を通り抜けた。



「ほら、乗ろう」



君はそうやって私を振り回す。でも今日は一味違ってるかも。

それに私はどうしようもなく思ったことが、この数分で1つある。


“この人と死にたい”


ああ、何故今まで思ってもみなかったんだろう。何故思おうとしなかったんだろう!

愛する人と間違いを歩めるなんて美しいことがあっていいものか…?

この人ならわかってくれるはず。


素晴らしい思考に陥ることができて満足だ。これこそ私の幸せかもしれない。

狂っていると言われることもあった私を認めてくれるのは彼だけだし、大切にして死ななければいけないな。




「ただいま。お父さ…」




血の気が引く感覚がした。

神様はどうも私に厳しいようだ。











「お父さん?」

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死の延長線 羽根衣 @han_e-kor0rno

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