第1話 快勝! 失業……そして旅立ち その3

「儲け話?」


 男の言葉に俺は男を訝しげに見ながら考える。


 現状、路銀に事欠く事は当分無い。贅沢や浪費をしなければ半年は暮らせるだけの金はある。金の面から言えば男の話を聞く必要性は無い。しかし、行商人である男が態々俺向きという儲け話に俺は興味を抱いた。どっちしても現状ではやる事すら見つけられない無職だし、話に乗ってみるのも一興かな。


「俺向きという事は、戦える者が必要な話という事かい?」


 俺の問いに男は頷く。


「あぁ、そういう事だ。と言っても、この話は俺が直接聞いた訳じゃなくて行商人仲間から聞いた話だ。現地に行って嘘だったとしても恨まないでくれよ?」


「噂話か……まぁ、いいさ。とりあえず聞かせてもらうかな。」


 勿体ぶった割には人づての噂だった事に俺はガッカリしながらも男を促すと、


「よしきた!そうこなっくちゃな!」


 男は残っていたエールを飲み干すと意気揚々と話し出した。


「兄さん達が北からこの街に来る時、途中に通った街道沿いの小さな村を覚えているかい?大きな森の近くにある村だよ。あそこはゴドブルグって名前なんだが、今あの村で大きな化け物騒ぎが起きているらしいんだ。」


「化け物騒ぎ?」


 如何にもな話に俺は眉を顰めるが、男は構わずに話を続ける。


「あぁ、そうだ。何でも、朝になったら村の作物が荒らされている事や家畜がいなくなっているなんて事が頻発しているらしい。」


「それだけでは化け物の仕業とは言えないな。食い詰めた野盗か獣の仕業としか思えない。」


「勿論、村の連中も馬鹿じゃないさ。そんな事はとうに考えたよ。だが、実際に化け物を見ちまった村人が大勢出てきたって話だ。見た奴の話じゃ、どう見ても人間には見えなかったそうだぜ?」


「噂に聞くエルフやドワーフじゃないのか?ああいった手合いの連中は俺達と姿が違うって聞いた事がある。」


 俺の言葉に男は首を横に振る。


「いや~、ドワーフは土の中に住んでいるって話だからな~。それにエルフだったら化け物にはならんだろうさ。連中は随分と見目麗しいって聞くからよ。見た連中の話ではとてもそういう感じの見た目じゃなかったそうだぜ。」


「ふ~ん、まぁいいよ。それで、それがどんな儲け話ってなるって言うんだい?」


「なぁ~に、単純な話さ。村の方は化け物騒ぎに困り果てていてな。何せあの村は街道に近い事もあってちょっとした宿場に使われる事も多かったからさ。それが、この化け物騒ぎの噂で人が寄り付かなくなっちまった。村としては作物や家畜の被害で出費が多い上に外から人が来なくなったら外貨も稼げなくなっちまう。まさしく泣きっ面に蜂ってやつさ。そこで、村としては何としてでも化け物騒ぎを解決すべく、腕の立つ奴を雇って化け物を退治してもらおうと考えたって話だ。」


「なるほど。それが俺向きの話って訳か。だけど、その話には少し疑問が残るな。ただの村だろう?いくら化け物退治とはいえ、大した報酬が出るとは思えないんだけど?」


 至極真っ当な俺の疑問に男は俺に向かって指を振る。


「チッチッチッ、甘い。兄さん、甘いよ。さっき言っただろ?あの村は宿場としてもそれなりに人気の場所だって。村とはいえ貯めてある財貨は馬鹿に出来ない量らしいぜ?聞いて驚け。何と報酬は……」


 男が話した報酬額は確かに悪くない額だった。もっとも……


「確かに報酬額はそれなりに多いが、化け物退治としては安いな。」


「へっへっへっ、まぁ、それはそれって話さ。それに、あれだけ言った俺だって化け物が本当にいるなんて信じていないんだ。兄さんだって本当に化け物がいるなんて思っていないだろ? 」


「それは確かに……そうか。食い詰めの野盗退治で貰える報酬と考えれば破格の仕事だという事か……」


 俺の呟きに男は我が意を得たりと笑みを浮かべる。


「そういう事!どうせ兄さんもする事無くて困っているんだろう?だったら、その腕を鈍らせるよりは村を助けて兄さんも儲かる!万事皆幸せで言う事無しって奴だ。どうだい?興味が湧いてきただろう?」


「どうかな?詳細が分からない仕事には危険が付き物だからね。」


「またまた、そんな事を言って~!兄さんの腕なら大丈夫だって!」


「あなたに腕を見せた記憶は無いけど……?」


 この街への移動の際にトラブルなどは無かった事を覚えている。男が俺の戦う姿を見る事は不可能な筈である。


 俺の指摘に男は笑いながら、


「何を言っているんだい?兄さんがここにいるって事は兄さんはこの間の戦を生き残ったって事だ。それに、見た限りでは大した怪我もしてない。それこそが兄さんの腕を証明しているってもんだろ?」


 商人らしく洞察力のある意見を口にする。どうやら目の前の男はそれなりに観察眼がある様だ。

 男は俺を囃し立てながらエールを飲もうとするが、その中身は当の昔に空になっており、


「おぉっと、無くなってしまっていた。俺は追加を頼むが、兄さんも一緒にどうだい?と言っても、次の一杯は自腹だけどな。」


 自腹を強調する男の言葉が少し可笑しく、俺は久しぶりに笑みを浮かべながら男の言葉に頷いた。


「分かった。俺の分も頼んでもらおう。」


「了解だ!今日はとことん飲もうぜ。俺の商売繁盛と兄さんの未来にな!」


 楽しそうにする男の姿を見ながら、俺は男が話した仕事に興味が湧いてきている事を感じていた……

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元傭兵と女神と妖精 オノヒロ @Onohiro_Novel

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