負けヒロインじゃだめでした
……尊死するかとおもった。
王子の寝室に忍び込んで日記帳を見た私は、推しの尊すぎる愛の告白を読んでしばらく気絶していたらしい。日記帳を手に取った時はたしかに立っていたのに、今こうして寝室の天井を見上げているのだから。
婚約破棄フラグは立っていたから、油断していた。まさかこんな重すぎる私への愛を推しが隠し持っていたなんて。
私と推しのハッピーエンド、実はあるんです。推しが望むなら私だってもちろんそのルートを選択したい!
でも、大きな問題が1つあって。
そのハッピーエンドを私はまだクリアしたことがないの。だってそれ、実装されたばかりの大型追加コンテンツの内容なんです――
◇
乙女ゲームをやり込んでいた25歳の社畜OLが悪役令嬢へテンプレ転生しまして、学園入学式直前に前世の記憶を取り戻しました、ちゃんちゃん。
入学式の時は、ぶっちゃけ楽勝だと思ってました、ええ。やり込んでいたおかげで主要キャラのセリフもイベント内容も記憶したままだったし。
ところがいざ学生生活を始めるとそれはもうめちゃくちゃ大変。重要シーンのセリフこそゲームとほぼ同じ内容だけど、自動で動いてくれることもなくすべて私なりに行動しなければいけなかったのだ。
学園生活の大半はゲーム描写されていない日常の連続な上に、セリフや選択肢が表示されることもない。このため、フラグ管理が非常に難しくキャラのセリフや立ち居振る舞いから推測するしかなかった。
さらにイベント戦闘をクリアするための地道なレベル上げや、学校の課題に試験対策までしないといけない。なにせ私は成績優秀な“悪役令嬢”なのだから。
何度も心が折れそうになったけど、推しの尊さだけが心の支えだった。推しの完全実写化はあまりにも尊すぎて、生死を賭けて不眠不休で動き回っているのに、ついつい笑顔がこぼれてしまうほど。
ちなみに白状しますと、大型追加コンテンツの販売直後から徹夜でプレイしてまして、田舎追放エンドをクリアした達成感にまかせてフラフラと歩いていたらトラックに轢かれました。運転手さんごめんなさい。
その大型追加コンテンツの目玉は2つ。新しい攻略キャラの追加と悪役令嬢を主役とするプレイが可能となること。悪役令嬢ブーム万歳。
1回はバッドエンドを迎えないと、推しと悪役令嬢が結ばれるハッピーエンドにいけないゲーム仕様だったので、泣く泣く田舎追放エンドをプレイしたんだけど、そのおかげでこの世界ではここまでなんとか生き延びることが出来ている。間違えたら終わりのこの世界で、未プレイのハッピーエンドルートは無理ゲーすぎ。
ちなみに田舎追放エンドの条件は、私と聖女への恋愛フラグを攻略対象キャラ全員へし折って私が婚約破棄されること。例外として、聖女と王子のフラグだけは残す。
今晩、王子の日記帳をのぞき見しに来たのは、フラグ管理の確認のため。プレイヤーなら簡単に出来るのに、キャラクターの私は、レベルを上げて見つからないように忍び込まないといけないからそうそう来れない。しかも王子に取り憑いてるラスボスにもバレないようにしないといけないし。
それでやっとの思いで王子の日記帳を見たら、あの重すぎる愛の告白が書いてあって気絶してしまったというわけ。推しと相思相愛なだけでも嬉しいのに、私の幸せを願って生涯理想の王子を演じるとまで決意してくれていたのだ。
そんな尊すぎる推しの願いを叶えようとしないなんてファンじゃない!ハッピーエンドルート、やるっきゃないでしょ!
ハッピーエンドをクリアしたことはないけど、やり込んでゲームだし販売前情報や攻略情報を見ていたので、ある程度推測はついている。
この乙女ゲームの攻略対象キャラは全部で6人。その全員に悪魔が取り憑いていて、個別エンディングを迎えるためには攻略キャラに取り憑いている悪魔を倒す必要があるのだけど、ハッピーエンドルートでは全て悪魔を倒さないといけないらしいのだ。やりがいがあると喜んでいた私を殴りにいきたい、死んでるけど。
しかも新キャラの帝国の皇子は完全初見だし、他の5人の悪魔も強化されているとか。なぜ乙女ゲームなのに戦闘の難易度をここまで上げちゃうのかなぁ、ひどすぎる。
卒業式まであと1週間。おそらく卒業式当日に王子の悪魔(ラスボス)を倒せばクリアのはず。となると、それまでに5人の悪魔を倒して、エンディングに必要な2人の思い出の品をゲットしたらきっとハッピーエンドだぁ!あれ、聖女と王子のフラグどうしよ。折っとくか?
やっぱこれ、控え目に言って無理ゲーすぎませんか? 推測と仮定が多いし、なにより時間が無さすぎる。
……さすがにやめとく?? だって、このまま田舎追放エンドでも、王子は死ぬわけじゃない。腹黒で成り上がり志向が強い尻軽だけど魔法の強さは本物で案外義理堅い聖女が側にいてくれる。アイツなら王子に取り憑いた悪魔にも負けないはず。ゲーム知識があるだけの社畜女にボス連戦は厳しいって。
たぶん一人ならこう思ってた。
だけど、私の中にはもう1人、本物の悪役令嬢がいる。高慢で冷酷で陰謀家だけど、誰よりも自分に厳しくて自己鍛錬を怠らず、どんな困難にもめげずに自分のやりたい事を諦めない誇り高き麗人。
どんなバッドエンドでも最期まで凛とした姿のままだった私のもう1人の推し。そんな彼女が私に告げるの。「どんな困難が待ち受けていても、貴女の本当に望む道を行きなさい」って。
彼女も王子が好きだった。聖女と王子の結婚こそ王国の発展に繋がると悟って身を引いたり、王子へ素直に想いを打ち明けられず誤解されたりしてただけで。
大型追加コンテンツがすごく楽しみだったのも、やっと推しの悪役令嬢が幸せになれる姿を見れると思ったから。
ハッピーエンドを目指すのは命がけでとても怖いけど、推しへの愛がわたしを勇気づけてくれる。
だから、私は2人の推しに約束するの。「必ず王子と結婚して2人を幸せにする」って。
◇◇◇◇◇◇◇◇
最後まで読んでいただきありがとうございました。人生で初めて書いた小説です。
こんな悪役令嬢が出てくる作品も面白いな
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王子様は溺愛する悪役令嬢との婚約を破棄したい はいそち @haisochima
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