第3話 対面式

[綾香視点]


セーラー服を着た拓海を見て、少しほっとした気持ちが広がった。鏡で自分の姿を見つめている拓海は、その表情はとても不安げだったけれど、必死に女子としての姿勢を保とうとしているようだった。

「じゃあ、もうすぐみんなが集まるから、気持ちの準備しておこうか。」

私はちょっと拓海の背中を押すように声をかけた。これから始まるのは、他の寮生たちとの初めての対面だ。拓海がこれからどんなふうに過ごしていくのか、他の寮生たちにも見てもらわなければならない。


寮の共有スペースに集められた私たちは、ドキドキとした空気が漂っていた。寮生たち、体験生たち、そして寮母さんが集まる中で、すこし緊張しているのは私だけじゃないはずだ。

「大丈夫だよ、拓海くん。」

自分にも言い聞かせるように声をかける。うつむき気味の拓海、やっぱり少し緊張しているのが分かる。


「それでは、寮生の自己紹介。それと今日からの体験生たちに自己紹介してもらいます!」

寮母さんがその場に立ち、みんなに向かって声をかける。その声に合わせて、寮生たちの目が一斉に体験生に向けられる。


他の体験生が紹介されていく。みんな、それぞれに違う名前を持っていて、少しずつ緊張もほぐれてきた。中には、明るく元気な名前を持つ子もいれば、控えめで優しい響きの名前を持つ子もいて、それぞれが自分らしい名前で呼ばれることに、少し安心しているようだった。


「それでは、綾香さん、自己紹介をお願いします。」


寮母さんから声をかけられると、私は少し緊張気味に立ち上がった。みんなの視線が集まるのを感じつつも、心を落ち着けて話し始めることにした。


「はい、藤原綾香です。私は体操部に所属していて、趣味は読書と、最近はケーキ作りにも挑戦しています。」

私は軽く微笑みながら自己紹介を終えると、次に拓海の名前を発表する番が来た。


「そして、今日から体験を始める私のパートナー、佐藤花音ちゃんです。」

拓海の名前を発表する瞬間、胸が少し温かくなるのを感じた。拓海がその名前をどう受け入れてくれるか不安もあったけれど、私はこの名前を選んだ理由があった。


「花音(かのん)は、響きが柔らかくて優しさを感じる名前だと思って選びました。それに、音楽が好きだということもあって、音楽用語の『カノン』にもかけているんです。輪唱のカノンのように、みんなと調和して、これからの生活を楽しんでほしいという思いも込めています。」

拓海は少し驚いた表情を見せたが、その後、照れくさそうにうなずいてくれた。その表情に、私は少しほっとした。


「花音ちゃん、よろしくね!」

私は笑顔で言うと、拓海も照れくさそうに微笑み返してくれた。


次に、拓海の自己紹介が始まる番だ。


「それでは、花音ちゃん、自己紹介をお願いします。」

寮母さんが促すと、拓海は少し緊張しながらも立ち上がった。


「えっと、佐藤花音です。合唱部に所属していました。趣味は、音楽を聴くことと、映画を見ることです。」

拓海は少しぎこちなく話していたけれど、徐々にリラックスしてきた様子が見て取れた。


「体験の意気込みは、最初は不安もあったけれど、みんなと一緒に頑張りたいです。よろしくお願いします!」

拓海は最後にしっかりとした声で言い、部屋の中に温かい空気が広がった。


対面式が終わると、寮生たちがそれぞれ自分の席に戻り、少しずつ打ち解けたような気がした。そして、拓海もまだ緊張しているけれど、自分の役割を見つけようとしている。私も、その様子を見守りながら、深呼吸をして心を落ち着けることにした。


「花音ちゃん、大丈夫?」

私は、拓海の隣に座りながら、そっと声をかけた。拓海は少し顔を赤くしながらも、頷いてくれた。

「うん、なんとか…。」

その安堵した顔に、どこか頼もしさが感じられた。これから、たくさんのことを一緒に経験し、少しずつ成長していくのだろう。


他の寮生たちは、私たちがこれからどうなるのか、興味津々の様子だった。中には好奇心旺盛に近づいてきて、声をかけてくれる子もいた。寮母さんはその様子を見て、にっこりと微笑んでいた。彼女は私たちを見守る立場ではあるけれど、その目は優しく、暖かかった。


これから始まるこの生活、どんなハプニングが待ち受けているのか、想像もつかない。でも、拓海と一緒に歩んでいくこの時間が、大切な思い出になることを確信していた。 



[拓海視点]


セーラー服を着た自分を鏡で見つめていると、不安でいっぱいだ。鏡の中の自分は、どこかぎこちないし、どうしても違和感がある。でも、綾香先輩が「大丈夫、うまくいくよ」と言ってくれるから、少しだけ安心できる。初日が無事に終わるといいなと思いながら、心の中で何度も自分に言い聞かせている。


「じゃあ、もうすぐみんなが集まるから、気持ちの準備しておこうか。」


綾香先輩の声で、ようやく動き出すことができた。これから他の寮生たちと初めて顔を合わせるのかと思うと、やっぱり緊張する。どうしても、うまくやれるのか不安だった。でも、先輩たちや寮母さんが見守ってくれているから、きっと大丈夫だと信じたい。


寮母さんがその場に立ち、開式の声をかける。その瞬間、みんなの視線が自分に集まっているのを感じて、心臓がドキドキと速くなるのが分かった。目を合わせるのが少し怖くて、思わず下を向きたくなる。手のひらがじんわりと汗ばんで、緊張が体中に広がる。無意識に手をこすり合わせてみるけれど、汗は止まらない。スカートの裾を軽く押さえて、手汗を拭おうとする。その瞬間、ふと感じる男性としての膨らみ。スカートを押さえる手に、少しだけ力が入る。


「大丈夫だよ、拓海くん。」


隣から、綾香先輩の優しい声が聞こえて、少しだけ落ち着く。先輩の存在が、心の中で温かい安心感をくれる。少しずつ、深呼吸をして、心を整えるようにして、みんなの視線に向き直る。


「それでは、寮生の自己紹介。それと今日からの体験生たちに自己紹介してもらいます!」


寮母さんがその場に立ち、みんなに声をかける。その瞬間、みんなの視線が自分に集まっている気がした。目があうのが少し怖くて、つい下を向きたくなるけれど、綾香先輩が隣にいてくれるから、少しだけ勇気が湧いてきた。


他の体験生たちが紹介されていく。みんな、違う名前で呼ばれているのを聞いて、少し安心する。名前が呼ばれることで、自分もここにいるんだという実感が湧いてくる気がした。


そして、その綾香先輩が自己紹介をする番だ。先輩が立ち上がると、みんなの視線がまた集まる。自分の名前が発表されるのを考えると、少し不安になるけれど、先輩が優しく笑っているから、なんだか安心する。


「そして、今日から体験を始める私のパートナー、佐藤花音ちゃんです。」


綾香先輩が自分の名前を言うと、胸がじんと温かくなるのを感じた。花音という名前には、先輩の優しさが込められている。最初は少し驚いたけれど、この名前を受け入れることで、少しでも自分らしく過ごせる気がした。名前には、これからの新しい生活への希望が込められているように思えて、心が少し軽くなった。


「花音ちゃん、自己紹介をお願いします。」


寮母さんに自己紹介を促され、少し緊張しながらも、なんとか立ち上がった。声が震えるけれど、言葉を続けるうちに、少しずつリラックスしてきた。自分がここでどんな風に過ごしていくのか、少しだけイメージできるようになった気がした。


「体験の意気込みは、最初は不安もあったけれど、みんなと一緒に頑張りたいです。よろしくお願いします!」


その言葉が出た瞬間、部屋の空気が少し和んだような気がして、なんだかホッとした。みんなが笑顔で迎えてくれると、これからの生活が少し楽しみになってきた。


対面式が終わると、緊張していた自分も、他の人たちと少しずつ話して、だんだんと心が軽くなってきた。隣に座った綾香先輩が心配そうに「花音ちゃん、大丈夫?」と声をかけてくれると、なんだか嬉しくて、思わず頷いた。


「うん、なんとか…。」


その顔を見て、少し頼もしく感じるようになった。これから先、どんなことが待っているのか、分からないけれど、少なくとも一緒にいる綾香先輩がいてくれるから、大丈夫だと思えた。


他の寮生たちも、私たちがどうなるのか気になっている様子で、近づいてきてくれる子もいた。寮母さんは、そんな私たちを見守りながら微笑んでいた。彼女の優しさに、安心感を覚えた。


これからどんなハプニングが待ち受けているのか、予想もつかないけれど、綾香先輩と一緒に過ごす時間が、きっと大切な思い出になるんだろうなと、心から感じていた。

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君の隣で、僕が咲く 音羽さら @heartotosara415

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