第2話 未知の世界の入り口

【拓海視点】


綾香先輩と部屋に二人、俺は少し緊張していた。こんな状況、普通じゃありえないし、何から始めればいいのかも分からない。女子の服を着るなんて、正直言って恥ずかしい。でも、これもあの交換体験学習の一環だと思うと、避けて通るわけにはいかない。


「じゃあ、まずはヒゲとすね毛を処理しようか。」

先輩の言葉に、俺は一瞬驚いた。ヒゲ?こんなところまで気を使わないといけないのか…。ちょっと緊張して、言われるままに従う自分。


「動かないでね。」

先輩がシェーバーを俺の顔に当てると、思わず顔を引っ込めそうになった。なんだか変な感じがして、目の前に集中することができなかった。ヒゲを剃るのは、いつも自分でやるから、こんな風に他人にやってもらうのは初めてだ。


「だいぶスッキリしたね。」

先輩が笑って言うと、少しだけ安心した。顔がスッキリしたのはいいけど、やっぱりちょっと恥ずかしいな。


次はすね毛の処理だ。ズボンの裾をまくり上げると、先輩が少し顔をそらしたような気がした。俺もその瞬間、少し恥ずかしくなった。男子の足なんて見られることがないから、変な気分だ。


「これもきれいにしようね。」

先輩の声がやけに優しくて、なんだか気恥ずかしい。でも、ここで嫌がっても仕方がないから、言われた通りにシェーバーを使った。普段、こういうことはやる事がないから、少し慣れないけど、先輩の指示通りにやってみた。


その後、いよいよ服を着る番だ。先輩が少し使い込まれた感じのあるセーラー服を、俺に渡してきた。


「これを着てみて。」

俺はその制服を受け取ると、思わず手が震えた。こんな服、着るのは初めてだし、どうしていいのか分からない。


「それと、これも必要だよ。」

先輩が小袋を渡してきて、中を見た瞬間、俺はまた驚いた。ブラジャーにシリコンパッド、下着…。こんなもの、どうやって使うのか分からない。顔が一気に熱くなった。


「これ…全部つけるんですか?」

「そうだよ。まずは下着からね。」

先輩の冷静な声に、ますます恥ずかしさが募る。だけど、これもやらないといけないんだ。俺はシリコンパッドを手に取り、どうしたらいいのか考えた。


「えっと…ど、どうすればいいんですか?」

俺が聞くと、先輩は自分の服の上からやり方を見せてくれた。どうにか真似してみたけど、やっぱり手が震える。ブラジャーをつけるなんて、男の俺には慣れない。


「ちょっと待って、手伝うね。」

先輩が背中に回ってホックを留めてくれると、思わずドキッとした。こんなこと、普通ならあり得ない。でも、先輩の手が背中に触れると、どこか不思議な感覚が広がった。


ブラジャーをつけ終わった後、次はシリコンパッドだ。先輩から渡されたパッドを手に取ると、その重さに驚いた。手に持った瞬間、思わず「うわ、本当に重いですね」と口に出してしまった。


「でしょ?でも、それが自然な胸のラインを作るんだよ。」

先輩は微笑みながら答えてくれた。その笑顔が少しだけ安心感を与えてくれるけど、胸の中ではまだ緊張が続いている。


「じゃあ、これをカップの中に入れてみて。」

先輩の指示通り、シリコンパッドをブラジャーの中に慎重に入れようとした。でも、なんだか不安で、うまくいかない気がしてきた。手が震えて、どうしてもパッドがしっくりと収まらない。


「できたかな…?」

俺は鏡の前に立って、ブラジャーの中のシリコンパッドを確認しようとした。鏡に映った自分の胸元を見つめると、やっぱり違和感があった。でも、先輩が言っていた通り、これで自然な胸のラインが作れるんだと思って、少しだけ気を取り直す。


「うーん、なんか変な感じ…」

自分の胸元に目をやりながら、心の中で呟いた。男の体にこんなものをつけるなんて、正直言って不思議な気分だ。でも、先輩の言葉を思い出して、少しだけ気持ちが落ち着いた。


その時、先輩が微笑んで「似合ってるよ」と言ってくれた。その言葉に、少しだけ自信が湧いてきた気がした。でも、やっぱり照れくさい。鏡の中の自分が、自分じゃないみたいで、なんだか恥ずかしい。


「本当に、これで大丈夫ですか?」

自分でも不安そうな声が出てしまった。でも、先輩は変わらず優しく微笑んでくれたから、少しだけ安心した。


「これで大丈夫。」

「ありがとうございます…。」

俺は少し恥ずかしそうにお礼を言うと、次はセーラー服を着る番だ。先輩が制服を手渡してきて、俺はそれを受け取る。


「じゃあ、着替えてみて。」

「え、ここでですか…?」

「うん。大丈夫、私も女子だから。」

先輩はそう言ったけれど、俺はどうしても恥ずかしくて、少し躊躇った。でも、意を決して制服を着ることにした。


セーラー服を着るのは思ったよりも大変で、スカートを履いた瞬間、なんだか不安になった。スカートの裾が膝にかかる感触や、下着のフィット感がどうにも落ち着かない。男子の体に女子の服が馴染んでいくのが、なんだか変な感じだ。でも、先輩が微笑んでくれたから、少し安心した。


「じゃあ、次はメイクだね。」

綾香先輩がそう言いながら、ポーチを取り出した瞬間、僕は思わず目を見開いた。

「え、先輩の……?」

「うん、私のメイク道具。これが一番使いやすいからね。」

そう言ってポーチを開き、当たり前のように準備を始める先輩。僕にとっては未知のアイテムばかりなのに、彼女は全く気にしていない様子だ。


「じゃあ、ちょっとじっとしててね。」

そう言って僕に顔を向けると、先輩が思った以上に近づいてきた。

「え、近い……」

心の中で呟くけれど、声には出せない。先輩の顔がこんなに近くで見えるなんて、初めてだった。


先輩の手が僕の頬に触れる。ふわりとしたパウダーが肌に乗る感触がして、僕は無意識に息を呑んだ。

「肌が綺麗だから、ちょっと整えるだけで十分だね。」

その言葉にどう反応していいかわからず、僕はただ黙っていた。でも、先輩の柔らかい声が、妙に心地よく感じる。


次に、先輩はリップを取り出し、キャップを外した。

「これ、血色が良くなるからね。」

何気ない言葉とともに、先輩の手が僕の唇に触れる。その瞬間、頭の中が真っ白になった。


これ……間接キスじゃないか?

そんな考えが一瞬頭をよぎり、僕は心臓が跳ねるのを感じた。けれど、声には出せない。ただ、唇に塗られるリップの感触に集中しないようにするのが精一杯だった。


「はい、できた!」

先輩が満足そうに言うけれど、僕は自分の顔が赤くなっているのを隠せなかった。


最後にウィッグを手に取った先輩が、僕の頭にそれを丁寧に装着していく。

鏡の前に立たされると、そこに映るのは……僕じゃない。いや、僕だけど、まるで別人だった。

「これで完成!どう?すごく似合ってるよ。うん、大丈夫。すごく女の子してる。」

先輩がリボンを整えながら微笑んで言ってくれた瞬間、顔が真っ赤になった。照れくさくて、どうしていいのか分からなかったけど、先輩の言葉に少しだけホッとした。


これからの7日間、どんなことが待っているのか、少しだけ楽しみになってきた。でも、やっぱり恥ずかしさは残ったままだ。


【綾香視点】


拓海が部屋に入ってきた瞬間、私はそのぎこちない様子に少し微笑んでしまった。どこか緊張している彼の姿は、まるで初めて女子寮に足を踏み入れた子猫みたいだ。彼が女子として過ごすために、これから色々と準備をしなければならないけれど、正直、私も少しだけ緊張していた。男子が女子の服を着るなんて、普通なら想像もしない。でも、あの「交換体験学習」の一環だと思うと、私も少しずつ気持ちを切り替えなければならなかった。


「じゃあ、まずはヒゲとすね毛を処理しようか。」

私は軽く声をかけたけれど、拓海は一瞬、驚いたような顔をしていた。男子にとってヒゲなんて当たり前のものだろうけど、女子として過ごすにはそれを隠さなければならない。私は電動シェーバーを手に取り、彼の顔に当てる準備をした。


「動かないでね。」

そう言いながら、彼の頬にシェーバーを当てると、拓海は少しビクッとした。なんだか可愛らしくて、思わず笑ってしまいそうになる。彼の顔に集中しながらヒゲを処理していくと、だんだんと清潔感が増して、柔らかい印象になっていった。


「だいぶスッキリしたね。」

私がそう言うと、拓海は少し恥ずかしそうに微笑んだ。その表情があまりに純粋で、なんだか不思議な気持ちになった。


次はすね毛の処理だ。拓海は少し戸惑った様子でズボンの裾をまくり上げた。見慣れない男子の足が目の前に現れると、私は少しだけ視線をそらしたくなった。でも、今はサポート役としてしっかりしなければいけない。


「これもきれいにしようね。」

私はそう言いながらシェーバーを手に取り、彼に手順を教えた。拓海は少し恥ずかしそうにしながらも、真剣に私の指示に従っていた。男子のすね毛を見ていると、改めて男女の違いを実感してしまう。でも、その違いを少しずつ取り除いていく過程が、なんだか不思議で面白い。


そして、いよいよ服の着替えだ。私は姉のお下がりのセーラー服を拓海に差し出した。


「これを着てみて。」

拓海はそのセーラー服を受け取ると、少し戸惑った表情を浮かべた。その感触に驚いたのか、制服を持つ手がわずかに震えているように見えた。


「それと、これも必要だよ。」

私は寮から支給された小袋を渡した。中にはシリコンパッドや下着が入っている。拓海は袋の中身を見て、一瞬で顔を赤くした。


「これ…全部つけるんですか?」

「そうだよ。まずは下着からね。」

私はできるだけ落ち着いた声で説明したけれど、心の中では少し緊張していた。男子に女子の下着を着けさせるなんて、普通じゃありえない。でも、これも拓海が女子として過ごすために必要なことだ。


「えっと…ど、どうすればいいんですか?」

拓海はブラジャーを手に取り、どう扱えばいいのか分からない様子で私に尋ねた。その姿があまりに真剣で、つい笑いそうになったけれど、私はぐっと堪えて説明を続けた。


「まず、こうやって肩ひもを通して、背中でホックを止めるの。」

私は自分の服の上から動作を見せて教えた。拓海はそれを真似しようとしたけれど、慣れない手つきでホックを止めるのに四苦八苦している。


「ちょっと待って、手伝うね。」

私は拓海の背中に手を回し、ホックを留めるのを手伝った。その瞬間、彼の背中から伝わる微かな温かさに、自分でも驚いてしまった。


「これで大丈夫。」

「ありがとうございます…。」

拓海は少し恥ずかしそうにしながらも、無事にブラジャーをつけ終えた。そして次はシリコンパッドをブラジャーの中に入れる番だ。


「これを、カップの中に入れてみて。」

私はシリコンパッドを手渡し、使い方を説明した。拓海は恐る恐るそれを手に取り、慎重にブラジャーの中に収めていった。


「うわ、本当に重いですね。」

「でしょ?でも、それが自然な胸のラインを作るんだよ。」

私は微笑みながら答えた。鏡の前に立った拓海は、自分の胸元をじっと見つめていた。

「似合ってるよ。」

その姿がなんだか新鮮で、少しだけ愛おしく感じた。


そしていよいよセーラー服を着る番だ。私は彼に制服を手渡し、少し距離を取った。


「じゃあ、着替えてみて。」

「え、ここでですか…?」

「うん。大丈夫、私も女子だから。」

そう言いながらも、私は少しだけ緊張していた。男子が女子の制服を着る姿なんて、見たことがない。でも、拓海は恥ずかしそうにしながらも、制服に袖を通していった。


彼がスカートを腰に巻く瞬間、私は思わず視線を逸らした。けれど、ふとした拍子に鏡越しにその姿が映り込み、胸がドキッとした。男子の体に女子の制服が馴染んでいく様子が、どこか不思議で、少しだけ美しいとさえ感じてしまった。


「これでいいんでしょうか…?」

制服を着終えた拓海が、恥ずかしそうに鏡の前で立っている。その姿を見て、私は思わず微笑んだ。



「じゃあ、次はメイクだね。」

私はポーチを取り出し、道具を準備し始めた。すると、彼が驚いたような顔をしているのに気づいた。

「え、先輩の……?」

「うん、私のメイク道具だよ。これが一番使いやすいから。」

何がそんなに驚くのかよくわからなかったけれど、気にせず作業を進める。


「じっとしててね。」

そう言いながら顔を近づけると、彼が微妙に固まったのがわかった。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。」

優しく声をかけながら、パウダーを肌に乗せていく。彼の肌は思った以上に整っていて、少し手を加えるだけで十分だった。


次にリップを取り出し、キャップを外す。

「これ、血色が良くなるからね。」

そう言いながら唇に塗り始めると、彼が少し体をこわばらせたのがわかった。

「どうしたの?」

「な、なんでもないです!」

慌てて顔を背ける彼に、私は思わずクスッと笑ってしまった。


何がそんなに気になるんだろう?もしかして、リップを塗られるのが恥ずかしいのかな……?

そう思ったけれど、特に深く考えずにウィッグを取り出した。


「はい、これで完成!」

茶色のセミロングのウィッグを彼の頭に装着し、鏡の前に連れて行く。

「どう?すごく似合ってるよ。」

鏡の中に映るのは、完全に女子高生にしか見えない拓海くんだった。

戸惑う彼に、私は笑顔で頷いた。

「うん、大丈夫。すごく女の子してる。」


曲がったリボンを整えながらそう言った瞬間、拓海の顔がほんのり赤くなったのが分かった。その表情があまりに純粋で、私は胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


これからの7日間、拓海がどんなふうに変わっていくのか、私も楽しみになってきた。

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