君の隣で、僕が咲く

音羽さら

第1話 予期せぬ選ばれし者

[拓海視点]


夏休みが始まったばかりだというのに、俺の心はすでに不安でいっぱいだった。

「交換体験学習」に参加することが決まったその日から、何もかもが変わった。


その行事は、寮のOB•OGなら誰もが知っている学校の伝統ではあったが、教師たちはまったく関与しない。要するに、先生方はこの行事が行われることを知らない。ただ、寮母さんだけは特別な存在で、OGである彼女がすべての取り仕切りをしている。寮母さんは協力的で、私たちの動きを見守ってくれるが、その代わり、問題を起こした場合には即座に退学という非常に厳しい規則がある。


「俺が、女子寮で生活する…?」

その言葉が頭をぐるぐる回る。僕、佐藤拓海、高校1年生。普段から女子との接点なんてほとんどないし、ましてや女子寮で生活なんて夢にも思わなかった。しかも、そこでは女子として振る舞わなければならないのだ。


7日間、毎日が試練だ。

女子としての生活を徹底的に学び、身だしなみやマナーを完璧にしなければならない。どうやって服を着て、どうやってお風呂に入って、どうやって洗濯をするのか。そんなこと、全く分からない俺にとって、これは文字通り“未知の世界”だった。


その上、俺の生活を見守るのは3年生の藤原綾香先輩。

彼女は女子寮の住人で、体操部に所属している優秀な先輩だ。優しくて、世話焼きで、頼りになる存在だと思う反面、その甘い言葉にどうしても緊張してしまう自分がいた。


「拓海君、準備はいい? これからは私と一緒に生活することになるから、しっかりと勉強してね。」

綾香先輩がそう言って、笑いながらクローゼットからセーラー服を出した時、心臓が跳ねるような感覚を覚えた。

「これ…? まさか、これを俺が着るんですか?」

目の前に置かれたセーラー服。

「そうよ。交換体験学習だから、君もきちんと女子としての格好をしてもらわないとね。」

綾香先輩の目は、どこか少し悪戯っぽくて、俺はその瞬間、胸の中で不安と興奮が入り混じるのを感じた。


この先どうなってしまうんだろうか。

でも、覚悟は決めた。この一ヶ月、俺は全力で挑むしかないのだ。女子寮で、女子として生きる。それがこの試練を乗り越えるために必要なことだ。


そして、綾香先輩と同室で過ごす日々が、予想以上に僕を混乱させ、また、惹かれさせることになるなんて、まだ思いもしていなかった。



[綾香視点]


「拓海君、最初はちょっと戸惑うかもしれないけど、私がしっかり教えるからね。」

私は、普段は冷静で優雅に見えるかもしれないけど、実はちょっとドジなところがあって、拓海君のことも心配している。最初は彼がこの生活をどう乗り越えるのか、私も少し心配だった。

用意したセーラー服は、私の姉が使っていたお下がりだけど、拓海君に着てもらうことで、私たちの生活が本当に始まる気がした。


「大丈夫、私がいるから。」

自分でも分かっている、拓海君に頼りすぎていることは。でも、どうしても彼を支えたくて仕方がないのだ。私自身もこの行事に参加するのは初めてで、何が起きるのか分からないけれど、拓海君と一緒ならきっと乗り越えられると思う。


でも、時々私の心の中で、拓海君に対する気持ちが少しずつ変わっていくのを感じていた。それが恋だとはまだ気づいていないけれど、なんだか彼といると、胸がドキドキして落ち着かない。

これからの7日間、私たちはどう過ごすことになるのだろうか?

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