学校の先生 後編

悪霊は祓った。

ただ、先生はもう助からない。


「周防くん・・・?そっか、君が助けてくれたんだね。」


先生の意識は戻っていた。

でも、身体はボロボロで既に消えかかっていた。


「思い出したんだ・・・。昔の・・・、生きていた頃の私の事。

私はこの学校の先生だった。沢山の生徒に囲まれて・・・、楽しかった。」


やっぱり、この学校の先生だっただったのか。


「ねぇ、周防くん。周防くんは・・・、霊力が戻っていたんだね?」


・・・。


「それは・・・、はい。」


先生は笑って、


「別に責めている訳じゃないの、そうじゃないかな?って思っていたから。」


そう言った。

気付かれていたのか・・・。


「なんで逃げなかったんですか?霊力が戻ってるって気付いていたのに・・・、先生は逃げるべきだったんだ。そしたら、こんな事には・・・」


今言うべきことじゃない、そう理解していても言葉が口から出てしまった。


「やっぱり、周防くんは優しいね。私はもう・・・死んでるんだよ?」


少しの間黙ってから、先生は口を開いた。


「私は守りたかったんだよ。周防くん、君のことを除霊師かどうか関係なくね。今ならはっきりと言えるよ。私は先生として生徒である君を守りたかったんだ。」

「・・・守ってくれて有難う、先生。」


答えを聞いても言いたい事は沢山あった。

でも、最初に出てきた言葉は感謝の言葉だった。


「どういたしまして。」


先生は嬉しそうに笑った。そして、


「周防くん、私からも1つ質問していいかな?」

「はい。」


質問?なんだろうか?

ただ、どんな質問でも答えよう。それが礼儀だ。


「何故、私を祓わなかったの?」


何故?


「私も除霊師についてはそれなりに知っているんだ。霊だからね。除霊省?みたいな所に所属している公務員で霊を祓うのが仕事。

除霊師は霊を見つけたら必ず祓わないといけない。悪霊でもそうでなくても。

君は除霊師だ。ならば私と会ったときに祓うべきだった、

・・・それなのにどうして、どうして私を祓わなかったの?」


確かに。

先生の言う通り、俺は先生を祓うべきだった。

それが除霊師としての仕事だ。

じゃあ、なんで祓わなかったのか・・・それは


「楽しかったから。先生と過ごしていたあの時間が。」


先生は俺の言葉に驚いたようだった。


「そっか・・・じゃあ私が最期にその時間を潰すわけにはいかないね。」


先生は俺に席に座るように指示し、自分は教壇に立った。そして、


「よし!みんな席に着いてるね?それじゃあ、今から朝のHRを始めます。」


いつも通り。先生はいつも通りの日常を守って成仏していった。


「みんなって、俺一人しかいないですよ・・・先生。」


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目が覚めたらそこは、教室だった。

記憶は何も無い、でも何処か懐かさを感じる場所だった。

目を覚ましてから数年の月日が経った。

どうやら目を覚ました場所は使われていない教室のようだった。

基本的に人は来ない。

来たとしても・・・、誰も私に気付かない。

人が私に気づかない度に、胸が苦しくなった。

そして、もう何度無視されたか分からない頃、私は悟った。


「そっか・・・、私は、この世にいないんだ」


私の諦めの言葉すらも、この世は聞き入れてくれない。

でも、私が再び死ぬことが出来ない。

頼れる人もいない。ずっと独りぼっち。

記憶があったら別だったのかもしれない。

でも、私には何もなかった。

過去を懐かしむことも、未来を羨望することも出来ない。

ほんとうに何も無い・・・そんな状況で、


「なんか此処、霊の気配がするな。」


声が聞こえた。

霊?それって・・・もしかして、

私のことが見えるのかもしれない。

もしかしたら、私の聞き間違えかもしれない。また話しかけて、無視されて絶望するかもしれない。それでも私は・・・


「人と繋がっていたい!!!」


だから、扉の向こう側にいる人。どうか私の言葉に応えて!!!


「は?」


そんな言葉の後、私は光に包まれた。



次に目覚めた時、私は消えかかっていた。

目の前にいたのは美しい男子高校生だった。

女性にも負けないくらいに艶のある長い黒髪に黒い瞳。

日本人らしさを残したとても整った顔立ちだった。

少しの間魅入ってしまった程だ。

これが私と除霊師・周防薫くんとの出会いだった。


「悪い、一回で祓いきれなかった。」


彼はそう言って私に謝った。

彼の話では、彼は除霊師であり霊の気配を辿ってこの教室に来たらしい。

ただ、彼は少し前にとんでもなく強い悪霊を祓ったらしくその影響で霊力がほぼ無いらしい。そのせいで私の事も祓えないらしい。

・・・危なかった。あのまま祓われてたら私本当に報われないよ。

その後、彼は霊力が戻ったらまた来ると言って出ていこうとした。


また、私は独りぼっちのなってしまうのかな?


「まって」


咄嗟に引き留める言葉が口からでた。

驚くほどか細い声だったと自分でも思う。


「わ、私をおいて行かないで」


彼を捕まえるために手を伸ばす。

届かない・・・誰にも触れない手を伸ばす。

この手は届かない・・・、そう思っていたのに。


「なんだ?この世に未練があるタイプか?」


そう言うと、彼は私の届かないはずの手を取ってくれた。


「まぁ、今は霊力が無いから話ぐらいなら聞いても良いぞ。どうせすぐ祓うし。」


その言葉は私の事を見てくれている証。

灰色だった世界に色がついた気がした。

今まで早く死にたいと思っていたのに、何時の間にかまだ生きたいと思っていた。

その後、私は彼に自分の思いを全て打ち明けた。


彼と会ってから数週間が経った。

私はあの無機質な日常が嘘だったかのように楽しい日々を過ごせていた。


スタスタスタ


早朝の学校に、足音が木霊した。

まだ学校には人は全然居ない。

さらに、この教室は空き教室だから人も全然来ない。

じゃあ、一体この足音の正体は誰なのか?

それは・・・。


「おはよう!周防くん!!!」


私を見てくれる唯一の存在。

あの日の除霊師くんだ。


「おはようございます。先生」


彼は私のことを先生と呼ぶ。

彼にそう呼ばれると、心がとても温かくなる。

彼が空いている席に座ったのを確認して私はこう言う。


「よし!みんな席に着いてるね?それじゃあ、今から朝のHRを始めます。」


私はいつもこう言う。

そうすると彼は、


「みんなって、俺一人しかいないですよ。先生。」


こう返してくれる。

言葉を掛ければ、言葉が返ってくる。

その事実だけで私は泣きそうになる。


それから私は数ヶ月周防くんと過ごした。

周防くんは優しかった。

私の我儘にも嫌な顔せずに対応してくれた。

いや、嫌な顔はしてたかもしれない・・・。

それでも、結局彼は最後まで私に付き合ってくれる。


学校を二人で回ったりもした。

周防くんと会うまでは教室の外に出られなかった私だけど、周防くんと会ってからは学校内限定だけど自由に動くことが出来た。


教室や職員室、体育館に図書館。食堂なんかに行ったりもした。

どこも凄く懐かしくて、色んな所を回る度に涙腺が脆くなっていた。

そんなこんなで周防くんと過しているうちに、私の心にある願いが生まれた。


とても傲慢で叶うはずの無い願い。それでも願わずにはいられない。

私の願いは・・・、


【周防くんにこの学校の先生になってほしい】


そしたら、もっと多くの時間を周防くんと過ごせる・・・、なんてね。



























《先生の死から7年後》


俺はあの後、色々あって同期の一人である霜月零と鍛え続けていた霊術を失った。

その代わり、と言えるかは分からないが【霊を喰らう】力を得た。


だが、その【霊を喰らう】力では除霊省にいられなかった為、除霊師を辞め・・・



「お前等、全員席に着いてるな?じゃあ、今から朝のHRを始める。」



・・・母校の高校の教師になっていた。






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本編は次話から始まります。

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周防先生は霊を喰らう 甘酢もえ @seiryousui90

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