学校の先生 中編

学校に到着した俺が見たのは目を背けたくなるような惨劇だった。

黒いモヤが先生を喰らっていた。

黒いモヤは俺に気がつくと喰らっていた先生を投げ捨てて俺の方を向いた。


「弐級!?そんな馬鹿な・・・。」


悪霊の等級を測っていたオペレーターが通信越しに驚いた声を出す。


「まじで!?手伝いに行こか?薫。」

「うんうん!!!無理しないでよ。」

「・・・援護。」


それを聞いた俺の同期達は心配の声をあげる。

優しい奴らだ。・・・、でも


「いや、俺だけで充分だ。」

「で、ですが。」

「応援はいらない。じゃあ通信を切るぞ。」


みんな俺の霊力が戻ってないと思ってるんだろうな。

霊力が切れてから全く仕事をしていないから。

だが、霊力は戻っている。

弐級如き、すぐ終わる。

ただ、気がかりなのは先生だ。このまま戦えば先生を巻き込んでしまう。


「『結界』」


黒いモヤ改め、弐級悪霊が光ったと思うと・・・、

次の瞬間、弐級悪霊を中心に爆発が起こった。

爆発の中心にいたはずの弐級悪霊は何事も無かったかのように復活している。

正直俺に影響は無いが、先生は別だ。先生の様子を伺う。


中途半端な結界が先生を守っていた。

だが、完全に守りきれたわけでなく、先生は弐級悪霊に喰われた片腕だけでなく、身体中がボロボロだった。

くそ、いつもの結界と違うからやり難い。


『結界』

除霊師が使う術。

使える者は極少数でありこの術を使えれば一人前として認められる程だ。

効果としては霊が存在する霊界と人間が存在する人間界を完全に分断する。

通常、人間界と霊界は混ざっている。しかし、それでは悪霊との戦いで一般人に被害がでてしまう。それを防ぐために結界で2つの世界を完全に分断するのだ。

因みに、除霊師は悪霊と戦う際、自身の肉体を人間界から霊界に移動させている。


今回、薫は霊界と人間界を分断する結界だけでなく、先生への被害を無くすために霊界と霊界を分断する結界も同時に使おうとした為に失敗してしまった。

だが、中途半端な結界がなければ先生は消し飛んでいたので薫の行動は正解だった。


「先生、意識はまだありますか?」


先生に声をかけると、


「う、うん。大丈夫・・・だよ。」


声が返ってきたが、大丈夫ではなさそうだ。


「先生、逃げられますか?」


無理だろうと思いつつ、一応聞いてみる。


「ごめん・・・ちょっと無理かも。」


そう言うと、先生は気を失った。

消えてはいないが、それも時間の問題だろう。

くそ、なんで逃げてくれなかった。先生なら勝てないことことぐらい分かってたはず

・・・まさか、先生も俺の霊力が戻ってないって。

いや、今考えるべきことそれじゃない。意識を切り替えろ。

やるべきことは2つ。

まず結界をはる。そして祓う。

今度は焦らず、着実に。もう失敗しない、完璧な結界をはる。


「来い。俺が祓ってやる。」

「ア?」


爆発!


さっきと一緒だ。

あいつを中心に爆発が起きてる。

あれが通常攻撃なのか・・・面倒くさいな。

しかし、爆発の衝撃波完全に抑え込んだ。

弐級悪霊の攻撃は初撃は無理だが、二撃目からは完璧に対応出来る。

とはいえ、こちらから攻撃しないと奴は祓えない。

だが、結界がはりきれていない今、大規模な霊術は先生を巻き込んでしまう。


「『霊弾』」


少しでも奴を削れればと思い、霊弾を放ったがあまり意味は無かった。

霊弾は奴の黒いモヤを少し削っただけで本体には意味が無い。

それどころか再び爆発し、そして完全回復していた。

奴にとって爆発は回復手段?いや、攻撃と回復の両方を兼ね備えているのか。

結局、一撃で祓わないと駄目らしい。


「なに・・・馬鹿な事やってるんだろうな?」


思わず声が漏れる。

先生と出会うまでは俺は霊が悪い奴かそうでないかなんて気にしたことも無かった。

除霊師として霊を祓う・・・それだけだったはずなのに。

弐級悪霊の攻撃を完封しながらふと先生と出会う前の自分を思い出す。


灰色の世界。

俺の感じている世界はその言葉が驚くほど当てはまった。

5歳の時、両親が死んだ。

顔面が潰れて、手足があらぬ方向に向いて死んだ。

その後、除霊省の人に引き取られて霊を祓う術を学んだ。

両親を殺した霊を祓うために・・・復讐するために。

10歳の時、祖父母が死んだ。父の方も母の方もどっちもだ。

霊の仕業じゃ無かった、人間の仕業だった。

どちらも人が良かった、いや良すぎた。だから狙われた。

12歳の時、人を殺した。

その時、俺は自分の心が壊れる音を聞いた。

15歳の時、多くの除霊師の命と引き換えに復讐を果たした。

当時付き合っていた子も・・・死んだ。

16歳の時、俺の同期は4人にになった。

そして17歳の時、余りの無茶な行動からか、霊の発生しにくい地域の高校に転校させられた。

そこで先生に出会って、何年ぶりか分からないけど・・・心から笑えた。


先生はもう助からない。

先生の霊力であのボロボロの身体を再生するのは不可能だ。

でも、さっきの会話が最後だなんて俺は認めない。


「別れるなら・・・ちゃんと別れたい。だから、」


俺は結界の作成に意識を向ける。

先程から奴は攻撃してこない。

おそらく逃げる方向にシフトしたんだろう。だが、その行動を最初にはった俺の結界が阻む。

奴は逃げられない。奴が生き残る為には俺を倒す以外に道はない。

それを奴は諦めた。そして、俺の結界の作成が終了した。


「ナ・・・ナンデぇ?」


奴の声に動揺の気配が漂う。


もう、先生を巻き込む心配は無い。

人間界の心配も要らない。

俺の作った空間には奴と俺しかいない。


「遠慮はしない。全力で祓う。」


奴は逃げるのを諦めたのか、我武者羅に俺に向かってくる。

ただ、そんな行動に意味はない。


「『霊鎖』」


奴の身体を鎖で拘束する。

当然、弐級悪霊に解ける代物ではない。

俺はゆっくりとあいつに歩み寄る。

ゆっくりとあいつの命の灯火に手をかける。

そして、


「『霊術 ーーーーー』」


次の瞬間、奴は俺の作った空間と共にこの世から消滅した。

残ったのは、俺と先生だけだった。





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